歳を取ると誰もが孤独を意識するようだ。もともと人間は孤独な生き物だから、家族を作り子どもをもうけ、みんなで暮らすことで安堵してきた。それなのに、年寄りになるとどういう訳かわがままになる。相手への要求ばかり強くなり、不満が募っていくようだ。
稼業は時流に乗って盛況だった。いい気になって夜遊びもした。だから今、彼はそれを償うためにカミさんの世話に励む。食事を作り、食べさせ、風呂に入れ、着る物も替える。下の世話は並大抵の覚悟では出来ないが、これまで苦労を思うと「ありがとうな」と身体が動くそうだ。
けれども話し相手がいないことは、かなりのストレスが貯まるようで、私のところに何度も電話が入っていた。孫娘の結婚式で留守をしていたことを謝り、午後から出かけて行った。「あんたにばかり甘えていると家族が怒る」と言いながら、家庭の中で置かれている切なさを零す。
「ご家族に何を言われてもいいじゃーない。必要な時は電話してくれていいよ」と笑って言う。そう、難しく考えることはない。助けられる人が助けなければ、世の中はうまくいかない。彼の愚痴を聞き、用事を済ませて、そして日赤病院でのペースメーカーの定期検診に行く。
「はい、次は6月26日の3時を予約しておきました」と医師は画面を見ながら言う。何も無いのならそれでいい。待合室で待っていると、私などより深刻そうな患者さんがいる。余り長くなさそうに見える人でも、真剣に長生きさせて欲しいと医師に訴えている声が聞こえてくる。
もういいじゃーないかと私は思っている。けれど、それは神様が決めること。静かに待つしかない。電車の中は相変わらずスマホをする人でいっぱいだ。そんな中で、ひとりの女子高校生が立ったまま文庫本を読んでいた。何を読んでいるのかと表紙を見ると、『蟹工船』だった。世の中、そんなに捨てたもんじゃーない。そう思った。
病院も役所も今日が御用納め。私も明日と明後日は忘年会、このまま年明けの1月3日まで、ブログは休みます。よいお年を!