風も無く穏やかな1月最後の日、マンションの中庭から子どもたちの元気な声が聞こえる。私は小学校の5年生になるまで、「声が小さい」と先生に注意されてばかりいた。大声を出すほどの自信が無かったのだろう。
私を変えたのは5年生の時のストライキ騒動だ。5年生の男子は仲が良かったのか、授業が始まる前に、学校の中の池に集まりメダカを捕まえたりして遊んでいた。誰かが「今日はストライキだ」と言い出して、隣りの公園へ移動した。
あの頃、トヨタはよくストライキをやっていたから、父親がトヨタで働く子だったのかも知れない。しかしその時になって、教室へ戻る子もいた。公園から更に奥の川へ移動した時も、何人かが学校へ戻っていった。
結局は教頭が自転車で追いかけてきて、みんな学校へ連れ戻されたが、私は最後までみんなと行動を共にした。けれど、悪いことをしている意識は無かった。みんなで決めた遊びだった。校長室に入った時、担任の女先生が泣いているのを見て、胸が詰まった。
教室で、私は手が上げられない子だった。ストに参加していた同級生が、「おい、一緒に予習しようぜ」と言う。予習などしたことが無かったが、予習をしてみると授業がよく分かり、進んで手をあげることも出来るようになった。
6年生の時には児童会長にもなり、全校児童の前で話もした。予科練帰りの姉のダンナに相撲やケンカの仕方を教えられ、砂場で行った相撲では隣りの組の担任を寄り切った。何も出来ない色白のおとなしいだけの子どもが、大きく変わった。
中学校では、大きな声を上げることも出来、まるで別の人間になっていた。「おとなしい顔しているのに、けっこう野蛮人だな」と言われたことがあった。1年の時に好きな子が出来て、恋に焦がれるようになった。「あなたは、あなたが描いた恋に恋しているのよ」と、初恋の人は高3の冬に去っていった。