DVDをふたりに渡してきた。もう一度3人で観て、いろんなことが少し甦ってきた。歯科医が企画し監督したことはハッキリしていたけれど、シナリオも彼が書いたものだった。私は大学の時から物語や童話を書いていた友だちが脚本を仕上げたと思い込んでいた。以前、カセットテープで音声とバックのギター演奏を録音したと書いたけれど、それもオープンリールの間違いだった。歯科医の家にはとてつもない音響器具があり、レコードを聞かせてもらったが生演奏以上の迫力だったことを思い出した。
ふたりはフランス語の教室で出会ったくらいだから、フランス文学に関心が強い。中でもカミュが好きで、『異邦人』が愛読書だった。私は幼かったようで、その頃もまだロシアの作家に惹かれていた。それでも、ボードレールやエリュアールの詩集が書棚で並んでいるし、シュールリアリストたちが好んだロートレアモンの『マルドロールの歌』もある。難解なところの雰囲気に酔っていた。DVDの冒頭の「生きていることも、横に置いておいて」というセリフがあの頃の気分を象徴している。
あれから約50年近くなるのに、画面はセピア色に変わってしまっているのに、8ミリ映画が色褪せていないのは何も変わらないからだろう。先日、20歳の孫娘と話したが、彼女の周りでは親が離婚するケースが増えているそうだ。NHKの朝のドラマ『マッサン』はスコットランド人ながら亭主を支える内助の功を描いているが、私たちの親の世代は男尊女卑の傾向が強く、女は家にいて家事をしていればよいと全員が考えていた。私たちの時代は高度経済成長期だったので、女性が社会に進出したけれど、まだ女性差別は厳存していた。
家庭のあり方が大きく変化したのは、家庭とは何なのか、もっと突き詰めれば男と女の愛って何だろうということであり、さらに言えば、生きていることを真正面から考えることが出来るようになったのだと思う。義理とか人情とか、あるいは伝統とか政治とか、あらゆるものを包括して見つめることが出来るようになったのだ。「だからそれが何なのさ」と言い返されてしまいそうだが、‥まだ返答ができない。