看護師になった孫娘が今日は時間が取れるというので、我が家まで来てもらって一緒に豊田市美術館へ出かけた。豊田市美術館では彫刻家のジャコメッティ展が開催されている。格別に彼女が好きな作家だとは思わないが、何か口実が無ければ一緒に出掛ける機会は無い。ジャコメッティがどういう人物かについて講釈し、芸術の歴史を話す。
展示場に入ろうとすると、係の女性が「まず、ごあいさつのパネルをご覧ください」と言う。なぜ、そんなことを言うのだろうと不思議に思ったので、「どうして豊田市美術館で開催することになったのか、書いてないけど?」と皮肉を込めて尋ねると、はぁ~という顔で見返された。展示会場の職員なら、この展覧会の趣旨を説明する知識くらい持っていて欲しかった。
私は初めてジャコメッティの作品を見た時、多分それは印刷物だったと思うが、ある意味で衝撃的だった。彫刻と言えば、多少のデフォルメはあったとしても、対象が判別できる像が多い。ジャコメッティのように何もかもそぎ落とした線のような人物は初めて見た。彼が活躍した時代を知ると、合点がいった。
第1次世界大戦後、科学の急速な進歩とともに、人間とは何かを考える風潮が生まれ、既成の価値観を破壊するような運動が始まった。ソビエトの誕生で社会主義運動は広がり、芸術面ではシュールリアリズムがブームになっていった。人々は常に新しい作品を求めていた。ジャコメッティの作品を見たサルトルは「実存主義的」と言ったという。そう言われて観ると、そう見えるから不思議だ。
展覧会を鑑賞した後は、素敵な庭を眺めながら食事をする。孫娘が「運転していくよ」と言ってくれたので、ワインを飲ませてもらった。広い庭には小鳥がさえずり、クリスマスに向けて新しい花が植えられていた。あと何年、こんな風に孫娘とデートできるのだろうか。