村上春樹さんの小説から
「1Q84 Book3」からは、たばこかセブンスターを中心にたくさん登場します。
11ページ 「煙草は吸わないでいただけますか、牛河さん」と背の低い方の男が言った。牛河はデスクをはさんで向かい合っている相手の顔をしばし眺め、それから自分の指に挟まれたセブンスターに目をやった。煙草には火はついていない。「申し訳ありませんが」と男あくまでも儀礼的に言い添えた。
男は顎を1センチほど上下させたが、視線はみじんも揺らがなかった。その焦点は牛河の目に固定されたままだ。牛河は煙草を箱に戻し、抽斗にしまった。
12ページ 「よくわかっておりますよ」と牛河は煙草のかわりに金色のライターを指でいじりまわしながら言った。「ぐずぐずしている暇はない。それは重々承知しております」
14ページ 牛河の手の中でライターが動き回るのを、穏田は辛抱強く見ていた。それから顔を上げた。
15ページ 牛河はライターを下に置き、デスクの上で両手の指を組み合わせた。「青豆という若い女性がホテル・オークラのスイートルームに呼ばれ、リーダーの筋肉ストレッチングを行った。---」
19ページ 牛河はそこで間を取り、指についた煙草の脂(やに)の色をいろんな角度から眺めて煙草のことを考えた。頭の中で煙草に火を点け、煙を吸い込む。そして吐き出す。
28ページ 牛河はもう一度ライターを手に取り、蓋を開け、具合を試すように火を点けた。そしてすぐに蓋を閉めた。
30ページ それからセブンスターの箱を抽斗から取り出し、手に取り、一本出して口にくわえ、ライターで火を点けた。煙を大きく吸い込み、天井に向けて大きく吐き出した。
33ページ 牛河は短くなった煙草消し、しばらく考えに耽り、それが一段落したところで新しい煙草に火をつけた。ずいぶん前から肺癌になる可能性について思い惑わさないことに決めていた。考えを集中する日はニコチンの助けが必要だった。二三日先の運命だって知れたものでもない。 15年先の健康について思い煩う必要があるだろうか。三本目のセブンスターを吸っているときに、牛河はちょっとしたこと思いついた。これならうまく行くかもしれないな、と彼は思った。