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村上春樹さんの小説から
171ページ ーーー安達クミは言った。「でも何とか無事に通関した。ねぇ、一緒に試してみようよ。純度が高くて効きもいいんだ。ちょっと調べてみたけど、医学的に見ても危険性はほとんどない。常習性がないとは言い切れないけど、煙草やお酒やコカインに比べれば遥かに弱いものだよ。依存症になるから危険だと司法当局は主張しているけど、ほとんどこじつけだね。そんなこと言ったらパチンコの方がよほど危険だ。二日酔いみたいなものもないし、天吾くんのアタマもよく発散すると思うな」
263ページ リストはそれほど長いものにはならなかった。食料品と飲料水があればとりあえず用は足りる。望遠レンズ付きのカメラと三脚。あとはトイレット・ペーパーと登山用寝袋、携帯燃料、キャンプ用のコッフェル、果物ナイフ、缶切り、ゴミ袋、簡単な洗面用具、電気カミソリ、タオルを何枚か、懐中電灯、トランジスタ・ラジオ。最低限の着替え、煙草を1カートン。そんなところだ。
264ページ 写真の出来に不足はなかった。芸術性は求めたいが、とりあえず用は足りる。ーーー。煙草屋でセブンスターのカートンを買った。ーーー。そして玄関を監視しながら水を飲み、缶詰の桃を食べ、煙草を何本か吸った。
266ページ あんパンをひとつ食べ、魔法瓶に入れて持ってきたコーヒーを蓋に注いで飲んだ。洗面台の蛇口をひねると、いつの間にか水道が出るようになっていた。彼は石鹸で顔を洗い、歯を磨き、長い小便をした。壁にもたれて煙草を吸った。ウイスキーが一口飲みたかったが、ここにいる間はアルコールは一切口にしないと決めていた。