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抜き書き帳『永井荷風』(その6)

2016年03月17日 | 小説・映画等に出てくる「たばこ」
抜き書き帳『永井荷風』(その6)

『西遊日誌抄』②

【154ページ】
7月14日 机上小包郵便あり。開き見るに銀製の巻煙草入れにして彼女の贈る処。「愛はすべてなり」との文字を刻したり。

【156ページ】
8月1日 正午日本領事館の素川子と会食す。氏語りていう。君近頃銀行内の評判宜しからず解雇の噂さえあるやに聞及べり。余が超俗的の態度はついにこの周囲の空気に合わさざりしと見ゆ。余は最初より解雇を予期して入社したるなれど今日素川氏の言を聞くや心大いに憂い悲しめり。

【177ページ】
3月5日 この日銀行よりいよいよ解雇の命を受けたり。
3月6日 雨の晴れ間に街々を歩き珈琲店(カッフェー)十九世紀亭にて音楽をきく。

[ken]7月、アメリカ在住中にお付き合いしていた女性から「銀製の巻煙草入れ」が届き、何とも複雑な心境の永井荷風さんなのです。当時、「銀製の巻煙草入れ」は高価で貴重な贈り物でした。日本では、刻みたばこの時代から伝統技術の粋を凝らして、煙管入れ、たばこ入れ、根付け、たばこ盆などが盛んに製作されてきた歴史があります。巻たばこの時代になってからは、ライターやシガレットケースが、愛煙家のこだわりとして手元におく習慣がありましたね。たとえば、カルティエやデュポン、ダンヒルのライターが思い浮かびます。
そして、8月になると永井荷風さんは日本領事館の素川子さんから、勤務態度についての忠告を受けますが、あくる年の3月には解雇されてしまいます。サラリーマンには向いていなかったし、初めから辞めることに前提に、斡旋してくれた父への手前やフランスへの興味を優先していたのですから、覚悟の上のことだったのでしょう。とはいえ、今後のことが何も決まっていないなか、孤独感は深く「心大いに憂い悲しめり」だったのですね。
(シガレットケース余話)
体重計や食産業を手がけるタニタは、1923年に金属製品の製造・卸として創業しています。そこで、タニタの最初に手がけた商品が「シガレットケース」でした。
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