島田雅彦さんの小説は、以前から言葉の勢いが魅力だと感じていましたが、この『夢使い』でも私の期待どおりでした。たばこの記述は、具体的な銘柄はほとんどなく、しかもすべて「煙草」という漢字を使っていました。
▼147~148ページ
情報化社会の中で一個のチェスの駒にしかなれない男たちが気の毒になり、またそういう男たちの仲間になろうとしている自分がもっと哀れに思えて、何か体で実感したい、目に見えて、この手で触れることができて、頬ずりとかできるもの、その物とぶつかりあいたくてしょうがなかった。結婚して男とぶつかり合うのは最後の手段にして、ともかく生きている世界も、持っている歴史も、感じている事柄も、全然違う人に手当たり次第にぶつかってみようと思いました。
カタギリは口の左半分だけで笑いながら、そこから煙を出した。若さっていいですなぁと言う声が喉の奥の方から無線で送られてくるようだった。ともかくこの人に気に入られないと、仕事に支障が出る。舞子はカタギリの眼鏡の奥の瞳が怖かった。あれは憶い出したくない過去の方にどうしても向いてしまう眼だ。
▼152ページ
眼鏡の奥の目が光る。何かいけないこといったかしら。甘ったるい香りの煙、むせかえりそう。カタギリ氏はしわがれ声で二つだけ笑った。
▼147~148ページ
情報化社会の中で一個のチェスの駒にしかなれない男たちが気の毒になり、またそういう男たちの仲間になろうとしている自分がもっと哀れに思えて、何か体で実感したい、目に見えて、この手で触れることができて、頬ずりとかできるもの、その物とぶつかりあいたくてしょうがなかった。結婚して男とぶつかり合うのは最後の手段にして、ともかく生きている世界も、持っている歴史も、感じている事柄も、全然違う人に手当たり次第にぶつかってみようと思いました。
カタギリは口の左半分だけで笑いながら、そこから煙を出した。若さっていいですなぁと言う声が喉の奥の方から無線で送られてくるようだった。ともかくこの人に気に入られないと、仕事に支障が出る。舞子はカタギリの眼鏡の奥の瞳が怖かった。あれは憶い出したくない過去の方にどうしても向いてしまう眼だ。
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眼鏡の奥の目が光る。何かいけないこといったかしら。甘ったるい香りの煙、むせかえりそう。カタギリ氏はしわがれ声で二つだけ笑った。
I have always found Masahiko Shimada's novels appealing because of the vigor of his language, and this "Yumemuso" lived up to my expectations. The descriptions of cigarettes were almost devoid of specific brands, and moreover, they all used the kanji character for "cigarette".
[Pages 147-148]
I felt sorry for the men who are nothing more than a chess piece in the information society, and I felt more sorry for myself for trying to be one of those men, and I wanted to feel something with my body, something I could see, touch with my hands, rub against my cheeks or something, I wanted to collide with that thing. I wanted to bump into that thing. I decided to leave getting married and bumping into a man as a last resort, and anyway, I decided to bump into someone completely different from the world I live in, the history I have, the things I feel, and so on, at random.
Katagiri laughed only with the left half of his mouth and let out smoke from it. It was as if a voice was radioed from the back of his throat saying, "Youth is good. Anyway, if this guy doesn't like me, I'm going to have a hard time doing my job". Maiko was afraid of the eyes behind Katagiri's glasses. They are the kind of eyes that inevitably turn toward the past, which she doesn't want to remember.
[page 152]
The eyes behind the glasses glowed. Did I say something wrong? The sweet-smelling smoke, it's almost intoxicating. Mr. Katagiri only laughed twice, his voice wrinkled.