◇あっけない完全踏破
4時前に宿に着いて、湯量も多いし湯温も高い上諏訪の温泉にゆっくり
浸かって、夕食まで一眠りした。夕食には「地酒セット」という日本人らし
い発想のメニューがあった。真澄、舞姫、麗人、横笛、本金など小さいグラ
ス1杯ずつ楽しめる具合になっている。夕食は存分に呑みかつ食べ、明
日に備えた。
さて、6月4日(月)は今日も快晴。爽やかな湖岸の道を歩き、昨日の街
道に復帰する。温泉地には温泉神社をよく見かけるが、ここは温泉寺。
高島藩諏訪氏の菩提寺でもある。
富ケ丘という、石を投げれば諏訪湖の湖面に届くかというほど湖水に接
近した所を過ぎ、急角度に右折する道を上がると、あれ懐かしや「諏訪
大社下社秋宮」の社殿が現れた。僅か10キロ足らずで今日の歩きは終わ
り。無事に甲州道中を歩き通せたことを感謝しお参りした。
このあと有名な「新鶴・塩羊羹」を買い、その先「綿の湯」にある「中山道
・甲州道中合流点」に立ち、妻と完全踏破を喜び合った。
諏訪湖 諏訪大社下社秋宮 中山道・甲州道中合流点
下諏訪宿本陣岩波家
今回の旅では、韮崎辺りで懐かしい甲斐駒ケ岳や鳳凰三山、富士山
の大きな姿に出会えるのが楽しみであったが、残念ながら雲に隠れて
見ることが出来なかった。
帰路あずさの車窓からながら、何とか接しえたのが救いであった。
甲斐駒ケ岳 富士山
◇上諏訪を目指して
青柳を経て金沢宿に着く。ここの本陣跡は標識のみ。権現の森からは
ほぼ中央線の線路と宮川沿いに進む。時折「スーパーあずさ」など電車
が通り過ぎる。今日は日曜日で、小学生などの釣り人がいるが、「釣れ
ました?」と聞いてもただ首を振るだけ。余計なこと聞くなということは釣
れてないんだナ、きっと。
やがて茅野市に入り街らしくなってきた。お昼どきなので蕎麦でも食べ
ようと駅前の店に入った。聞けば生ビールがあるという。これまで歩きの
最中はアルコールはご法度と堅く決めていたのに、後10キロ足らずだし・・・
と、とってつけたような屁理屈をこねて中生を1杯だけ飲んだ。軟弱者め。
その美味たるや何ものにも代え難いものであった。蕎麦も、もちろん美
味しかった。
道は四賀で諏訪市域になり、やがて元町交差点にある酒蔵「真澄」が
見えてくる。「真澄」は諏訪を代表する銘酒と言っていいいだろう。ここで
も利き酒はやっているが有料だというのでパスした。金を出してまで試
飲することはない。「真澄」はちょっと私の口には合わないのだ。この通
りには真澄を初め麗人、舞姫、本金など酒蔵が並んでいる。
諏訪駅の手前から湖岸に向かって進み、今夜の宿「湖山荘」に着く。
宿の前に「間欠泉センター」なるものが立っている。昔は何十米も吹き上
げたようだが、今は時間を置いて圧を高めてから噴出させても2~30㍍
がやっとのようである。
諏訪湖流域は御柱祭 信州は双体道祖神 時折スーパーあずさが
◇教来石を越えて蔦木へ
教来石(きょうらいし)宿という妙な名の宿場を通る。
そろそろ12時になろうとしているが、途中に食事が出来る店も食べ物
を売る店もない。またも昨日の悪夢の再現かと心配していたら、やれ
ありがたや、甲州と信州の国境に架かる「国界橋」の袂に新しいコン
ビニがあった。「かつ重」などを買って、田圃道の草の上に腰をおろし
昼食をとった。日差しは強かったが涼しい風が心地よかった。
蔦木宿は珍しく東西の入口が枡形になっている。この先で釜無川
を橋で渡ると今夜の宿「信甲・館」がある。隣は「フォッサマグナの湯」とい
う保養施設であるが、甲信・館は露天風呂もあり、日帰り入浴客も受
け入れている。予定より早く、3時のご到着である。早速風呂に入り冷
たいビールを呑んで一休み。すぐ夕食の時間になる。
今夜の同宿客は4組。お隣に若夫婦が座った。
「帳場で甲州道中を歩いている方と伺ったのですが・・・」と若奥様。
聞けば結婚3年目であるが、「夫婦で共通の趣味を見つけたいね」と
いうことで、手近かの甲州道中を歩き始めたのだという。
我輩から見たらばまだ若輩の身でありながら、早くも夫婦の紐帯に
思いを致し、共通の趣味を持たんとするはなかなか立派である。また
夫婦仲もいい(1杯の生ビールを仲良く分け合って呑んでいた。)。
このような若者を社員にしている会社はきっと伸びるに違いない(と
思う)。
「次歩くのなら中山道がお薦め・・」とか言ってそそのかし、今後の情
報交換を約した。
花と思いきや葉っぱ 白州町は雷鳥と石楠花と甲斐駒ケ岳 道祖神団地
瀬沢大橋を渡るといよいよ急坂を登り山道に入る。傍らの水路を清
冽な水が走る。やがて重収の一里塚跡があり、標高950mとある。韮
崎との標高差約450㍍である。随分登ったものだ。
原の茶屋辺りでは961㍍となっていて、この辺りが富士見峠かもし
れない。御射山神戸の一里塚は珍しくも左右の塚とケヤキの巨木が
残っている。樹齢380年、樹高25米、樹周囲6.9米という威容で、枝葉
が辺りを覆い、かっこうやキビタキ、鶯などの鳴き声が心地よい。
赤米、黒米など古代米の里 一里塚のケヤキの巨木 思わず見とれた空木の花