◇ 「さよならは言わないで(上/下)」(原題=TAKE NO FAREWELL)
著者: ロバート・ゴダード Robert Goddard
訳者: 奥村 章子
1994.10 扶桑社 刊
久しぶりのゴダード。
1994年といささか古い作品であるし、時代設定も20世紀初頭という国際電話もなかなか通じない
ころの話であるものの、法廷でのやりとりは現代でも十分通用し新鮮さを失っていない。ただ英国
の場合、我が国や米国などと違って公訴権が国にある(検察官が告訴)わけではなく、国王対被告
人という形をとり、民間人訴追の原則を維持していることで、法廷でのやり取りなど若干勝手が違う。
主人公のジェフリーは少壮建築家。ロンドン近郊の町で有力者である農園所有者ヴィクターの邸宅
建築を請け負う。そこでブラジルから嫁いだヴィクターの新妻コンスエラを識り恋におちる。
仕事を請け負った立場にあるジェフリーは依頼主の妻との不倫にジレンマに陥るが、ついに二人は
外国に向けて駆け落ちを図る。そんな折り大規模なホテルの設計・建築の話が飛び込んできて、建
築家としての飛躍と名声を夢みるジェフリーは英国での仕事をとるか、コンスエラとの駆け落ちをと
るか、究極の選択を迫られる。そして、彼は駆け落ちの時間に落ち合う場所に現れなかった。「君と
一緒になることはできない」という手紙をメイドのリジー託して。
それから12年。ジェフリーは結婚し男児をもうけたものの流感で亡くしてしまう。妻との間もぎくしゃ
くしてきて・・・。そんなある日新聞で驚がく的な記事を見いだす。コンスエロが夫ヴィクターの毒殺を
企み、間違って義兄の娘ローズマリーを殺害した廉で逮捕され予審裁判に掛けられるたというのだ。
コンスエロに罪の意識を持つジェフリーは、なんとか彼女を苦境から救い出そうと駆けまわるが、こ
とごとく障害にあって、コンスエロ不利な状態を解消できない。性格的に岐路に当たって果断に行動
に踏み出せず常に躊躇逡巡するジェフリー。・・・
稀代のストーリーテラーゴダートのこと、息もつかせないテンポで事態が展開するのでなかなか本を
手放すことが出来ない。
最後のシーンがまたよかった。
次は『封印された系譜』を読む予定。
(以上この項終わり)