読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』を読む

2017年10月03日 | 読書

◇ 『追撃の森』(原題:THE BODIES LEFT BEHIND)
        
        著者:ジェフリー・ディーヴァー(JEFFRY DEAVER)

        訳者:土屋 晃 2012.6 文芸春秋社 刊(文春文庫)

     

  ジェフリー・ディーヴァーの作品はこれまでリンカーン・ライムの登場する『ボーン・
 コレクター』、『コフィン・ダンサー』のほか、『悪魔の涙』、『石の猿』などでおなじ
 みであったが、この作品はまた別の面白さがある。

  北米ウィスコンシン州の片田舎ケネシャ郡。ハート&ルイスという殺し屋の追撃組とブ
 リン&ミシェルという保安官補の逃避行組の息詰まる攻防で手に汗を握るノンストップ活
 劇。J・ディーヴァーにこんな隠し玉があったのかと感心する。

  ケネシャ郡保安官事務所に「こちら…」という意味不明の緊急通報があった。上司の保
 安官トム・ダールの信任が厚い保安官補ブリン。「君の家から近いから…」と発信元湖畔
 の別荘に様子を見に行かせられた。
  これがとんでもない逃避行の始まり。住人の夫妻が殺されていて残っていた犯人に遭遇
 したブリンは、車で逃げだすが撃たれて凍えるほどの湖に沈む。九死に一生を得たブリン
 は、たまたまその夫妻を訪ねて来たという若い女性ミッシェルと一緒になり、電話がある
 警備隊事務所を目指して逃走を続ける。

  追撃する犯人組の襲撃をかわす逃走、裏をかいてそれを追う追撃組。攻守所を変えて反
 撃に移るがまたも裏をかかれて窮地に立たされるブリン。そんな繰り返しの中ブリンの夫
 が助けに現れたり、得体のしれない男に撃たれたりの挙句ブリンは追撃の犯人組の一人ハ
 ートに捕まり手を縛られて車に。しかし捨て身の機転で逃れることができたものの、一難
 去ってまた一難。

  ハートは敵ながら相手の手の内と戦術判断を的確に予測するしたたかな女・ブリンに人
 間的興味を持つ。ブリンも冷徹で用意周到な殺し屋に同様の興味を持つ。
 なんと共に助け合って逃避行を続けていたミッシェルが、実は別の殺し屋だったことが判
 明。彼女から呼び出しを受けたブリンは裏の裏を読みミッシェルを逮捕する。そして肝心
 のハートはと言えば、ほとぼりが冷めたと見たハートがなじみのバーに現れたところをシ
 カゴの組織の殺し屋に撃たれ死ぬ。そんなわけで最後はややあっけない収まりではある。

  作者は単なる活劇では面白くないと思ったのか主役のブリンの個人的事情を織り込んで
  いる。ブリンは離婚経験があり、前夫とはDVが原因で訴訟の末に分かれたこと、今の夫
 には浮気を疑っていたが(これは事実無根だった)互いに正直に話し合わなかったわだか
 まりが高じて結局夫が去っていくなど、本筋とはあまり関係ないエピソードを添えたりし
 ているが、さほど成功しているとは思えない。
                              (以上この項終わり)

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