読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

今野敏『欠落』を読む

2013年04月08日 | 読書

◇ 『欠落』 著者:今野 敏   2013.1 講談社 刊 

    

  警察小説でおなじみの今野敏。この『欠落』は初出が小説現代の連載(2011.10~2012.9)で
 この度単行本となった。

  主人公は宇田川亮太。多分30歳くらいの巡査部長。警視庁刑事部捜査第一課殺人犯捜査第五係
 の一員である。最近同期の大石陽子が所轄から捜査第一課に配属になるというので心弾んでいる。
 (というのもやはり同期の蘇我とよくつるんで遊んでいたが、内心憎からず思っているから)
  捜査第一課とはいうものの、大石は特命調査対策室で一緒に働くわけではない。

  ところが大石は配属早々に立てこもり事件に巻き込まれ、人質の身代わりとなって犯人に拉致され行
 き方知れずになってしまった。折しも宇田川は多摩川べりで身元不明の絞殺事件が発生、行方不明の
 大石のことが心配でならないが、捜査本部に詰めて被害者の身元割り出しに明け暮れる。
  
  事件捜査の推移に伴って事件内容に不審感を強める宇田川は類似事件を当たるうちに、三鷹と沖縄
 にやはり身元不明のまま捜査が膠着状態にある絞殺死体遺棄事件があることを知る。こんなに身元を
 知る情報がほとんどないケースは珍しい。
  そのうちにどうしたわけか警察庁公安部が事件捜査に関与し始め、指導権を握っていく様子が見えて
 来た。どうやら立てこもり事件にも公安が裏で指導権を握ったらしい。
 一体この事件は何なのだ。

  気になる大石の行方は依然不明。まさか殺されたりしてはいないだろうが。
  
  宇田川は上司の名波係長、ペアを組んだ所轄の佐倉刑事、公安にスリーパー(潜入捜査官)らしい蘇我
 や元上司の植松刑事、土岐刑事らと二つの事件の真相解明に動く。

  二つの事件捜査は公安の陽動作戦であり、刑事部はカモフラージュで振り回されているらしいことが分
 かってきた。公安が真相を隠したい事情何か。

  国際諜報機関としてはアメリカのCIA,NSA,イギリスのMI5、MI6,ロシアのSVR,KGB、イスラエルの
 モサド、中国国家安全部などがスパイ小説などでよく知られているが、日本ではいわゆる国際諜報機関
 は弱い。内閣調査室がそれに相当すると言われる。公安調査庁、警察庁警備局、警視庁公安部、外務
 省国際情報統括官、防衛省情報本部、海上保安庁など縦割り組織が乱立し、統合的なインテリジェンス
 活動は確立していないのが実態だ。
 
  『欠落』とは何か。。何をもって欠落をいうのかどうも判然としないが、宇田川の刑事としての直感、事件
 に対する感覚的な違和感が真相に迫る原動力になっているところからすれば、何かが欠けているという
 直感をもってこの本の狙いといってよいかもしれない。

 (以上この項終わり)  

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