リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

BWV1006a (29)

2024年11月14日 11時40分43秒 | 音楽系

Loureの16小節目~最後までです。

この曲はスローですが、和音が多くなかなか手強いです。いくつかの和音は3コースがラのときよりも自然な押弦ができるようになっています。本編曲では自筆譜に記された音は全てそのまま弾くようにしています。そのために複弦のオクターブ弦を持つバロック・リュートならではの技術、バス弦のうちオクターブ弦のみを弾く、という技術を何カ所か使っています。ルーレの後半では21小節目の一番最後の和音の7コースや22小節目3拍目の8コースはオクターブ弦だけを弾きます。(タブの文字に下線があります)あと、22小節目の4拍目の11コースもオクターブ弦だけ弾きますが、下線を画面をカットするときに誤って切ってしまいました。

22小節目のオクターブ弦のみを弾く2箇所は、弾きにくい場合はバス弦も弾いても構わないと思いますが、21小節目の最後の和音はオリジナルの形で弾く必要があります。ギター編曲ではこの編曲における7コースのオクターブ弦の音=ソを1オクターブ上げて弾く処理が見られますが、そうするとこの1オクターブ上げられたソの音は次に行く場所がなくなってしまいます。バッハは常に完璧な仕事をしていますので、和音のフォームを勝手に変えてしまうのは禁物です。実際サウンドはかなり異なってきます。オクターブ上げてしまうとニセモノ感が漂ってしまいます。(笑)


買いたたき

2024年11月13日 11時37分15秒 | 音楽系

出版社のKADOKAWAがフリーランスの事業者に原稿料を買いたたいたとして公正取引委員会から是正の勧告を受けています。

買いたたきにあったのは26事業者で内21事業者は個人だそうです。買いたたかれた原稿料を合計すると500万円台だそうでこれを一事業者あたりで割り算すると20万にも満たない金額です。この金額は多分1原稿分ではないでしょうから、もともと安い原稿料をさらに買いたたれたということになるでしょう。なんか自動車会社の下請けいじめと構図は似ています。

私事で恐縮ですが、某誌の特集記事を書かせて頂いたときはかなりの日数をかけて結構なページ数を書きました。デジタルで版組までしたカンパケで出しましたので出版社の手間は結構はぶけたと思いますが、原稿料はお安く、単純労働の時給と比べても低くかったです。その時の印象は金額だけ見たらこれは割にあわない仕事だなあと思いました。ただ私の場合雑誌の巻頭特集記事でしたので、少々原稿料が安くてもとても満たされた気分でした。さらに掲載楽譜あったのですが、こちらはなかなか悪からぬ稿料を頂きました。

専門のライター、それもフリーランスとなると原稿料の書いたたきは死活問題です。恐らくこういう話はKADOKAWAだけの話ではないでしょう。ライターのみならずアニメーター、演奏家などクリエイティブな仕事に携わる人たちの価値にもっと目を向けてそれに見合う報酬を出すべきだということが世の中の常識になるべきだと思います。少なくとも音楽の場合は相対的には何十年も前の方がきちんとしていたように思えます。

 


左手のテクニック

2024年11月12日 12時41分39秒 | 音楽系

私は6歳頃から少しヴァイオリンをカジッっていたこともあり、左手のテクニックに関しては苦労をしたことがありません。もっともヴァイオリンは左手の技術の壁が来るレベルまではやっていませんですが。50年くらい前まで数年間ギターをやっていましたが、左手の押弦に関してできないことはなかったし、その後リュートを弾くようになっても左手で困ることはほとんどありません。

リュートを教えていて生徒の皆さんの左手の使い方に問題があることは分かるのですが、どうやったらそれが直るのかという方法はわかりませんでした。自分がどうやって身につけたがわかっていないので教えようがないのです。生徒さんが私のやっている通りにできればいいわけですが、いくら目の前で見本を見せても誰ひとりとしてきちんと出来るようになった人はいませんでした。でも最近になってようやく多分確かだろうという方法が見つかりそれを生徒さんに少しずつやってもらっています。

このようにエラそうなことを言っている私ですが実は左手で困ることが2つあります。ひとつは絶対的な指の長さに起因する押さえ方の場合。それなりに左指のエクステンションには自信があるんですが、あと3ミリ!というようなときはどうしようもありません。まぁ実際にはこういうケースに遭遇することはそう多くはありませんが。

もうひとつは、これは私だけかも知れませんが、私の手のシワというかスジというか(手相を見るスジです)それが結構深いのです。左手でバレをするとき、そのスジに弦がぴったりとはまってしまうときがときどきあります。こういうケースは1コースか2コースに限られますが、これらの弦は細いのでスジの溝にはまってしまうと少し余分の力を加えないと音がビビってしまいます。少しバレをずらすと指先が届かなくなったり人差し指の根元に弦が来て別の弦の音がならなくなったりします。ギターの弦は1弦でも太いのでこういう現象はありませんでしたが、リュートだと起こってしまうのです。

意識して強めに押さえればなんとかなることはなるんですが、その加減がなかなか微妙なので、そういう現象が起こった場合はポジションを替えることが多いです。バレをした方が押弦自体は楽なのですが、泣く泣く少し無理があるポジションで弾かなくてはならないのはつらいところです。

 


音楽ホール問題(2)

2024年11月09日 12時34分02秒 | 音楽系

バロック音楽の旅で使わせて頂いている2004年開業の桑名市中央町にある「時のホール」は多目的ホールということになっていますが、実は天井が二階吹き抜けで建物全体の空調も備えている歴とした音楽ホールです。ここは今のところ健在で、先頃館内のPA・プロジェクタ他の設備を一新したばかりです。なんかの勘違いか、実は音楽好きだった設計者の「悪巧み」で実質音楽ホールになってしまったわけですが、逆に会議なんかでは音が響きすぎてよくないという「悪評」を聞きます。そろばん大会なんかもやるそうですが、さぞかしうるさいでしょうね。(笑)このホールは図書館や民間カフェとの併設の第三セクター方式の経営ですが、まぁ閉鎖と言うことはないでしょう。

ここ何年か私もリサイタルなどで使わさせていただいている名古屋のHITOMIホールは大人気ですし、2017年に開業したHalle Runde も堅実に運営が光ります。Halle Rundeはかつて名古屋の丸の内にあったスタジオルンデの創始者鈴木詢氏の高い志を引き継いだホールです。ホール天井が志くらい高いとさらによかったのですが・・・

こうしてみると日本経済が縮小したからホールが減っているという単純な図式ではなさそうで、いわばまだら模様といった感じです。大規模な設備が必要なバレーやオペラはホールが減って苦しくなるところもありそうですが、バロック音楽界隈ではあまり影響はないとも言えます。(近江楽堂さんにはがんばってほしいところです)

地方における本格的ホールの嚆矢とも言える宮城県加美郡加美町のバッハホールはいまも健在みたいです。一度行ってみたいですがちょっと遠いですねぇ。このホールは当時の中新田町町長の思いつきでできたそうですが、こういったトップダウンによる決断とその後の堅実な運営があったからこそ存続しているのだと思います。

愛知県丹羽郡扶桑町のロビーコンサートはその名の通り専用のホールではなく扶桑文化会館のロビーで行われるコンサートですが、30年以上の歴史を誇ります。プロアマ混在のコンサートではありますがこれだけ継続できているのは一にも二にも運営の方法です。ここではきちんと専従の学芸員がいるのです。博物館の学芸員は普通でしょうけど、舞台芸術の学芸員は珍しいです。初代の学芸員であるHさんとひょんなことで知り合い、20数年前に一度出演させてもらったことがありますが、さすがに舞台芸術のプロ(アメリカできちんと学んだそうです)だけに深い見識を感じました。H氏が退任後も別の方がその精神を受け継いで活動されているようです。


音楽ホール問題(1)

2024年11月07日 09時25分46秒 | 音楽系

最近各地で閉館や休館される音楽ホールが増えてきているようです。多くの音楽ホールはいわゆるバブル期に一斉に建てられたものが多いですが、それらが改修の時期を迎え、経済的に苦しいところはやむなく閉館に至るところもあるそうです。もうバブルの頃の勢いはないですから。

東京文化会館は開館して60年経つそうですが、令和8年5月7日~令和10年度の期間大規模改修されるそうです。ここは東京都の潤沢な財政がありますので閉館ということはないでしょうが、それでも再来年から約3年間閉館するのはいろんな公演に影響を与えそうです。

同じ東京でも民間が経営していた近江楽堂は小規模なコンサートにとても使い勝手がよかったですが、コロナ禍時に公演が激減したあおりを受けて2021年に閉館しました。近江楽堂のHPには内部設備の更新工事に入るので一旦閉館するとありますが、「なお、工事期間は現在未定です」との付記もあります。3年経った現在も更新工事に入ってないようですので、事実上の廃業かも知れません。

名古屋のしらかわホール(定員約1200)も今年の2月、30年に渡るその歴史に幕を閉じました。今後はホールが入る12階建てのビルごと売却される見込みということですが、ホールそのものはなくなるわけではないのでどっかの企業が引き継いでくれるといいのですが。

名古屋の小ホールでは2010年開業の5/R HALL&GALLERYが2022年に閉館しています。バブル期に開業したホールは充分な経費をかけ志も高かったですが、ここは日本の経済が縮小した時期の開業ということもあり、あまりいいホールとは言えませんでした。それでも運営の仕方がよければ充分やっていけたと思いますが、運営の仕方もよくなかったのでわずか12年で幕を下ろしたわけです。


リハーサル

2024年11月03日 23時02分26秒 | 音楽系

今日は拙宅で12月11日のコンサートのリハーサルをずっと行っていました。コンサートはヴィオラ・ダ・ガンバの山下 瞬さんとご一緒させていただき、フランスの作品を演奏する予定です。

コンサートの会場は、岐阜県加茂郡八百津町の古民家カフェ・カフェビズ。

カフェの店主はフランス人の方で日本人の奥様とご一緒にお店をされています。

おふたりは奥様のフランス留学中に出会ったそうで、旦那様の故郷に似ているという八百津町で開業に向けて物件を探し、明治時代に建てられたこの家屋を気に入られ、ボロボロの状態から3年かけて自分たちで改装して夢を叶えられたそうです。

コンサートの曲目は、マレ/組曲ニ長調、ル・グラン・バレ、デルブロア/組曲ト長調、パピヨン、ラ・サッシェ、ド・ヴィゼー/組曲ト長調 他です。

私はフレンチ・テオルボで通奏低音を担当しますが、ソロでド・ヴィゼーの曲を演奏します。山下さんはバス・ガンバと当時フランス貴族の間でとても人気のあったカントンという楽器を演奏します。

お近くにお住いの方はぜひお越しください。

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下剋上!?イヤホン比較レビュー(7)

2024年11月02日 12時33分55秒 | 音楽系

さて、最後にまたイヤホンの比較の話に戻りますが、オーディオはどこかの時点で特定の方向に作り込んでいるので万能のイヤホンは存在しないということがよくわかりました。Xiomiはコスパは最高ですが、音自体は痩せている。Shureは豊かな低域とクリアな音の分離方向に作り込んでいる。Shureはモニタースピーカーレベルの正確な再生力はありますが、リスナーとしてはちょっとつまらない、というところでしょうか。

こういうことを申し上げるとやはり生の音にはかなわないと誤解される方もいますが、リュートならば弦の音を楽器(+奏者の指先)という作り込みで音を出し、その作り込み次第で音は天と地ほど差がでます。楽器もオーディオもどこかの地点で作り込み=作為が必要という点では本質的には同じです。よくスピーカーの宣伝で全く作為のない生そのままの音を再生、なんていうような宣伝コピーを見ますがあれはウソです。作り込みがないと音自体が出ません。

3つのイヤホンに関してはお値段の差もさることながら作り込みの方向が少しずつ異なりますから、楽曲に合わせて聴くというのが正しいようです。


下剋上!?イヤホン比較レビュー(6)

2024年11月01日 11時09分06秒 | 音楽系

前回のマーラーは、グザヴィエ・フランソワ・ロト指揮のケルン・ギュルツェニヒ・オーケストラで聴いてみました。このオケはいわゆるHIPオケで、楽器は基本的にモダン仕様の楽器を使いますが、古楽演奏の知見を取り入れた奏法、解釈をします。

さて最後の4曲目は藤井風のアルバム「LOVE ALL SERVE ALL」(2022)から「きらり」です。藤井の声はバリトンでアンサンブルも全体に低めの音をとっています。このアルバムには実はひとつ大きな問題があります。それはベースの音が上手く抜けておらず音程がはっきりわかりづらいということです。

プレーヤーは当然ベースラインをわかって演奏しているのでこれは録音エンジニアの問題だと思います。XaiomiとTechnicsでは音程がはっきりわかりません。Xiaomiではもともとトーンが低い楽曲は苦手なので音がペラペラかつバスの音程がぼやけています。Technicsでは反対にバスは豊穣ですがやはりほとんどの箇所でバスのラインをたどることはできません。

さすがにShureでは大体音程をたどることができ、これならバスのラインの耳コピがなんとかできそうです。ちなみにDALIのFAZON MIKROというスピーカーで聴いてみましたら、Shureで聴いたくらいの明瞭さで聴くことができました。(PC→TEAC AI-301DA→DALIで、「上の下」くらいの組み合わせです))

この録音の根本的な問題は多分録音エンジニアが音楽が分かっていない、別の言い方をすると全ての楽器を音程、ハーモニー、リズムをきちんと聴き取ることができていないのが原因ではないかと思います。比較のために Bruno Mars の Leave the door open で3つのイヤホンとDALIのスピーカー聴き比べてみましたが、いずれもバスは明瞭に聞き取れ各楽器のバランスもとてもよろしい。この曲を録音したエンジニアはちゃんとしていると言えます。

信号で車が止まっているとときどきウィンドウがしまっているのに「ドッドッドッ」と音が漏れ聞こえる車があります。あれって、車内では音楽的には意味不明(きちんと音程が聞こえない)のバスが大音量で鳴っているということですよね。

件の楽曲のエンジニアは自身も「ドッドッドッ」のリスナーと大差なく、そういった「ドッドッドッ」リスナーを相手に録音をしているのだとしたらレベルの低い話です。


下剋上!?イヤホン比較レビュー(5)

2024年10月29日 19時05分34秒 | 音楽系

3曲目としてマーラーの交響曲第5番第一楽章を聴いてみました。2曲目の古楽オケとはうって替わり大オーケストラの作品で超微細ピアニシモから大音量フォルテシモまで出て来ます。

出だしのトランペットのソロ、続いてピアニッシモで導入されるテーマがだんだん盛り上がりフォルテのテュッティに至る流れを聴いてみました。

Xiaomiではこういう極小から巨大な音の流れがある音楽はやはり力不足のようです。テーマが導入される箇所では大太鼓の極低音が聴かれるはずですが、ちょっと物足りません。フォルテに盛り上がっていく箇所も音の分離が悪く7thの音がはっきりしないし、迫力にも欠けます。全体的に薄っぺらな感じがしますが、この手の曲はXiomiの限界が一番よく聞こえてしまいます。

これがShureだとそつなくPPからffまでバランスよく聴かせます。ただあまりに優等生的な感じがしないでもないですが、実際のオーケーストラを生で聴くとこんなもんだと思います。

Technicsの場合は、Xiaomiで全く上手く再生されていなかった主題導入部の極低音がとても豊かにしっとりと鳴っています。でも生のオーケストラでは座る席の差があってこう上手い具合にはなかなか聞こえてこないとは思います。ffの部分もそうですが、ちょっと誇張された響きだと分かってはいますがサウンドとしてはすごく美しくずっと聴いていたい感じがします。

Shureで聴いた音が生に近いし録音エンジニアもそのあたりを意図したと思いますが、Technicsで聴いた音は人工的ではあるもののとても心地よいサウンドです。


下剋上!?イヤホン比較レビュー(4)

2024年10月28日 17時37分37秒 | 音楽系

2曲目として、ハイドンのヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章ハ長調を選んでみました。演奏はソリストがフェデリーコ・グリエルモのラルテ・デッラルコです。古楽器による演奏です。この録音が何人で演奏しているのかはよくわかりませんが、各パート2名程度でしょう。パート数は弦が4部+ヴィオローネとソリストで通奏低音楽器は入っていません。

1曲目に紹介したカシオペアの楽曲と比べると音数がとても少なく厚みはありません。(音楽に厚みがないと言っているわけではありません)音もハイハットなどの高周波の雑音成分や低く分厚い音もありません。ある意味とても機器を選ぶ曲と言えます。

始めにXaiomiで聴いてみましたが、音が痩せてペラペラ感はあるものの意外と古楽っぽく聞こえるのでびっくりしました。今度はTechnicsで聴きますと、バスのラインが少し出過ぎてちょっと古楽器の演奏には合わない感じです。ちょうどいいくらいなのがShureでした。

多分これらのイヤホンで古楽を聴くというのはそもそもあまり想定されていない感じがします。多くのイヤホンはポップス、ジャズ、オーケストラなどがきれいに響くようチューニングされているのではないでしょうか。経費がかけられない分、妙な作り込みをしていないXiaomiがかえっていい結果をもたらしたと思いますが、本当にいい音で聴くのならShureで聴くのがいいと思います。