リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バッハの無伴奏チェロ組曲第6番の編曲(7)

2015年04月12日 10時57分44秒 | 音楽系
録音では、さすがにカザルスは時代的にいって旧バッハ全集を踏襲しているのはさすが?です。(録音当時まだ新バッハ全集は出ていません)彼が録音した頃はまだ古楽復興運動よりずっと前ということもあり、彼は第一次資料にあたってないことは確実です。おもしろいことに、他の古楽系のチェリストやモダンのチェリストがこの部分は結構ばらつきがあることです。なんと何人かの人はケルナーの音価不足のまま弾いていたりします。

なんかもう間違いだらけというより大混乱のチェロ組曲ですが、私の場合、チェロで演奏するのではなくリュートですので、オリジナルソースをしっかり整理したあと、リュートでどう弾くかを考えなければなりません。この第6番は5弦の楽器のためにかかれているせいか、他の組曲よりバスや和音の量が多いです。それでもリュートで弾くときは基本的にはバスを明らかにして弾かなければなりません。

例えば、アルマンドの後半4小節目の冒頭のラそして次のソ♯、この部分の和音はいったいどんな和音がくるのでしょうか。前の小節でト長調(下属調)に向かっていたのに、次の5小節目の3拍目の冒頭は嬰ヘ短調の主和音です。嬰ヘ短調はシャープが3つの調です。少し遠い調への転調を一気にしてしまう鍵となる音がこのラ、ソ♯です。決して、イ短調の「ラドミ」「ソ♯シミ」ではありません。

でもラ、ソ♯と聴いた瞬間は、イ短調の「ラドミ」「ソ♯シミ」の和音だろうと想像するのが普通ですが、次のフレーズを聴くと初めて「あらま、えらい遠いところに転調しちゃうのね」ということがわかる仕組みになっています。ではこのラ・ソ♯はなんだったんだろう、なんて考えるても曲はもう前に進んでいっていますので、「ま、いいか」ということになるわけです。なかなか巧みな仕掛けです。

リュートで弾く場合(鍵盤楽器で弾くときも同様でしょう)この仕掛けをそのまま使う訳にはいきません。というのはそれまで沢山の暗示されているバスや和音を付け加えているのにここでけチェロと同じではアンバランスです。

ということで、ここの和音はどうなっているかというと、ちゃんとつながるような和音を付けますと、ラの上は減七(4度♯ナシというのも可)ソ♯上は3♯、5♯、7でしょう。これで次のド♯上の3♯にうまくつながり、嬰ヘ短調のカデンツができあがります。え?何を言っているかよくわからないですか?もしわからなければ私のコンサートに是非お越し下さい。ちょっと先ですが12月13日(日)15時ミューズです。きっとモヤが晴れること請け合いです。(笑)ということで最後は宣伝になりましたが、このくらいで。