リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

Lars Jönsson のリュート来てます

2017年05月08日 23時05分52秒 | 音楽系
4年以上前に注文しました、スウェーデンのLars Jönsson のリュートが届いてちょうど2週間になります。その間いろいろと各部の調整をしておりました。



新品のリュートが届くとまずペグの調整、弦の選定、弦幅の調整をしながら弾きこみを行います。新しく作られた楽器は、初めて音を出してから1時間くらいでみるみる音が出て来ます。いわば楽器が目覚めるわけです。それから何日か弾いていると音が安定して出て来ます。さらに半年くらいずっと弾きこむと音が磨かれてきます。



よく最初何ヶ月かはあまり音は出ないけど1年2年と弾いているといい音が出て来るようになります、なんておっしゃる方がいますが、目覚めの段階で音でいい音がしない楽器は、それなりの楽器です。そういう楽器は何年弾いてもいい音にはなりません。

ラースの楽器はとてもソフトでよく前に出る音です。モーリス(オッティガー)の楽器と較べてみますとキャラがかなり異なります。モーリスの楽器の音は直接的に音が出て(ちょっとわかりにくい表現ですが・・・)いぶし銀のきらめきを感じる音ですが、ラースのはふくよかな包み込むような音がします。

これは胴体の形状がかなり異なることが影響しているかも知れません。モーリスの楽器はティーフェンブルッカーの楽器をもとにしたモーリスのオリジナルで、リブが15枚でかなり薄い胴体です。それに対してラースの楽器は、シェレのモデルでリブが11枚、やや厚みのある胴体です。以前デュルビーのバロックを使っていましたが、それもシェレでした。こちらはもっと胴体が深く腹が出ていると演奏に支障が出る感じがしました。(笑)

さてラースの楽器ですが、ペグの調整は何度も行いました。アタリがついてきたので随分スムーズに動くようになりました。製作家から楽器を頂くときは、ペグがこのくらいのレベルになっていると嬉しいんですがねぇ。ペグは超スローに動かしたときも無段階でスムーズに動かなくてはなりません。速くペグを動かしたときはそこそこスムーズでもスローになると、キッキッキと段階的にしか動かないペグはNGです。もちろん速く動かしてもキッキッキは話になりません、というか調弦不可能です。

弦はカーボンやらナイロンをとっかえひっかえしましたが、今は1~3コースとオクターブ弦がガット、他はカーボンです。幸いなことに、ラースが最初からバス弦にカーボン弦(サバレスKF)を張ってくれていたので助かりました。これは最近の私のセレクションですが、ラースの楽器においてもなかなかいいバランスです。ラースの楽器は音がソフトなので、高い音もカーボン(オール・カーボン弦です)でもなんとかいけるかもしれません。モーリスの楽器の場合は、オール・カーボンは音がキンキンいいすぎてだめでした。

ラースの話では、ナイジェル・ノースも最近はバス弦にカーボンを使っているそうです。まぁ選択肢はある程度限られていますから、音の出具合、安定性、経済性を考えると同じような結論になる訳ですね。

あと調整したのは6コースの2本の弦が微妙に狭く強めに弾くと2本の弦があたるので、ブリッジ側でほんの少しだけ弦幅を広げました。これは別にアナを開け直すのではなくて、ブリッジに少し切りスジを入れて弦をそこにいれることでほんのちょっとだけ弦幅が広がるようにします。



6コースのオクターブ弦の結び幅が他のコースに較べると少し広がっているが分かりますか?こういうのってなかなか微妙で、0.何ミリか広がるだけでかなりかわります。

楽器が到着したのは4月の終わりでとてもいい気候だったのですが、最近は少し暑くなってきました。リブの塗装が高温と多湿によって柔らかくなり、ケースの敷物の柄跡がついてしまうので注意する必要があります。この間もよく注意していましたが、たった1日(というか数時間)で少しガラがついてしまいました。油断大敵です。もっともこういのはある程度は取れていきます。もう少し立てば暑い季節がやってきますが、まぁ少しくらいは仕方がないかもしれません。1年以上経てばセラックが完全に乾燥するのでそういった心配はなくなるのですが。

オールカーボンで張ってみるために早速サバレスKFを注文しました。そうそうアキーラ社のローデドナイルガット弦が出荷され始めたようです。昨年の11月に注文したのですが、これでやっと届くことになりそうです。この弦の温度感受性はどんなもんなんでしょう?太いナイルガット弦はナイロンやガット、金属巻き弦と較べて、気温上昇に対する反応が全く逆なのでとても使いづらいです。太いナイルガット弦だけが気温が上がると音程が下がります。もっとも細いナイルガットはそうでもないので、何が原因なんでしょう?

ところで細いナイルガット弦と言えば、あまりここで書くのもナンですが、0.44以下の細いナイルガットはよく切れますので要注意です。というか使わない方が無難です。アキーラ社は切れること自体は認めているようですが、切れるのはナットの切り方が悪いから切れるのだと楽器のせいにしています。確かにナットの溝にエッジが出ていると切れやすくなることは事実ですが、細いナイルガット弦自体がそもそも切れやすいのです。試しに、不要の細いナイルガット弦があれば、それを一回わっかにして両端を左右にひっぱってみるとあっさりと切れます。ナイロンやカーボン、もちろん金属巻き弦はそんなぐらいでは切れませんし、ガットでも切れることはありません。この事実を知ると怖くて1コースや2コースに細いナイルガット弦は張れません。さすがにこの「実験結果」をYouTubeにアップするのは気が引けますが、アキーラ社にとっては「不都合な真実」なんでしょう。