院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

万年筆売り

2007-11-19 11:44:21 | Weblog
 私が中学生のころまで路上で万年筆を売る商売があった。当時、万年筆は高価だったが、路上売りの万年筆は5分の1くらいの値段だった。どうせ粗悪品だろうと思って買わなかった。

 それより以前、万年筆売りには口上があったという。これも沖浦和光著『旅芸人のいた風景』(文春新書)からの引用であるが、万年筆売りはテキヤ用語で「ネンマン売り」と言い、独特の口上があったという。

 「ネンマン売り」は泥で汚れた万年筆を台に並べ、「先月、工場が火事にあって倒産し、給料が出なくなりました。一家8人、3度の食事にも事欠くようになりました。焼け跡からまだ使える万年筆を、このように苦心して掘り出してきました。泥まみれなので文具店では売れませんが、みなさんのお情けにすがって、なんとかこうして生活しているんです」と涙ぐみながらの口上を行う。

 これを「ナキバイ」(泣き売)というそうだ。むろん口上は嘘で、万年筆は粗悪品である。でも、これが結構よく売れたそうである。

 「ナキバイ」の現場に立ち会えなくて残念である。