マイナンバー施行に向け、大田区でもマイナンバー導入に伴う条例整備が進んでいます。マイナンバーは、当初政府や行政が言っていたように、公平性確保のために運用されるでしょうか。
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マイナンバー導入のための「第92号議案大田区行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する条例、および、第93号議案大田区個人情報保護条例の一部を改正する条例、第96号議案大田区手数料条例の一部を改正する条例について反対の立場から討論いたします。
【当初と変わりつつあるマイナンバーの目的】
マイナンバーは、当初、税負担など公平性確保のためと言われて進められてきましたが、昨今の政府の広報などでは効率化や利便性に重きがおかれるなど、その目的が少しずつ変わってきているように感じています。
大田区も、目的の第一に「行政事務の効率化」をかかげ、二番目に「国民にとっての利便性」、そして最後に「公平・公正な社会の実現」という順番で説明しています。
【マイナンバーで効率化される?
公平公正な社会になる?】
しかし、本当に今回のマイナンバー施行により、行政事務は効率化されるのでしょうか。
また、仮に効率化されるとして、それは、費用対効果で考えた場合、区民にとってメリットがあるほどの効率化になるでしょうか。
しかも、その効率化を行うことで、公平公正な社会を実現することは可能でしょうか。
【ほとんどすべての個人情報を管理されるマイナンバー】
マイナンバー導入により、赤ちゃんからお年寄りまで全国民は、原則、生涯変えられない12ケタの番号、また企業や官公庁も13桁の法人番号が割り当てられ、氏名、住所、年齢、顔写真、家族構成といった基本的ものに加え、給料や、保有する不動産やその評価額、かかった医療機関や医療費の金額、医薬品による副作用の救済、年金の保険料や年金額、介護保険の保険料やサービスの利用、生活保護に関する記録、心神喪失の状態で重大な他害行為を行った人の診断や治療、受けた予防接種の時期や種類、児童手当の支給、日本学生支援機構からの奨学金など、その本人に関するほとんどすべてといっていい情報が管理可能になります。
来年2016年には国家公務員の身分証、2017年はクレジットカード、キャッシュカード、診察券のワンカード化、運転免許、教員免許、学歴証明との一体化など、マイナンバーによって管理可能になる情報は拡大する一方です。
【収入管理、資産管理が、必要な公共サービスの充足につながる?】
国民がどのくらいの収入や資産を持っていて、どのように公共サービスが必要か一目瞭然になることになりますから、どの程度の収入や資産に対し、どのくらいの課税を行い、どの程度の公共サービスを提供するかなど、より効果的な政策立案につながるかもしれません。たとえば、支払い可能であるにも関わらず滞納している人に対する滞納事務なども、収入が発生した時点で徴収が可能になることが予想されますから、滞納という概念がなくなるかもしれません。住民の可処分所得も、より実態に近い把握が可能になり、保育園などの利用料金もより適正になるかもしれません。
しかし、これらが、大田区の意味する公平公正な社会の実現ということでしょうか。
【収入も支出も税金も利用料金も管理される息苦しい?社会に】
働いたらいくらもらえて、そこから政府にどれくらい税や利用料金で吸い上げられるかが細かく管理される社会は、息苦しい社会でもあります。
しかも、息苦しいかどうかという感覚の問題だけでなく、マイナンバーは、公平とは全く逆の方向に進むのではないかと心配しています。
【アベノミクスで企業は最高益、実感の薄い国民】
アベノミクスに関する評価は分かれるところですが、雇用規制緩和をはじめとした様々な規制緩和は、より企業活動に有利に働き、上場する3月決算企業の今年4月~6月期決算は570社で過去最高になっています。
ところが、アベノミクスが、特に投資のための経済政策と言われている通り、株や莫大な投資資産を持っている機関投資家には非常に大きな「効果」をあげている一方で、多くの区民はじめ国民には効果の実感はありません。これが、格差拡大の所以でもあります。
【企業・機関投資家と給与所得者との公平公正のためのマイナンバーか?】
それでは、マイナンバーは、こうした利益をあげる企業や機関投資家と呼ばれる人たちと、ほぼ、給与所得をたよりに生きる労働者間の、公平や公正に寄与する制度でしょうか。
区長の目玉の政策である国家戦略特区はじめ、いま、日本の政策は、個々の住民の生活や環境より経済利益を優先させるようになっています。
【削減される社会保障】
私は、厚生労働省元老健局長の中村秀一先生から、日本の予算編成は、経済財政諮問会議が経済と財政の視点で予算枠を決めるが、そこには厚労省はじめとした各省庁からのニーズに基づく積み上げがないことを教えていただきました。
6月末に閣議決定された骨太方針2015は、2020年に財政収支を黒字化するため、社会保障の伸びを0.5兆円/年にし、過去10年の平均の伸びから計算して年5924億円、過去3年の伸びで年3150億円を、主に、社会保障の中でも医療で削減しようとしています。
社会保障費削減は、GDPなど経済利益から逆算して割り出された数字なのです。
この状況下でマイナンバーを導入して、公平で公正な社会実現のために使うことは可能でしょうか。
【増える個人課税と利用料負担】
消費税はじめ個人への課税や利用料のアップばかりが繰り返されていますが、ここで、マイナンバーが導入されれば、さらに個人の労働と消費が管理され、格差の拡大を招くことにはならないでしょうか。
【マイナンバー導入の前提となる社会状況に対し問題意識の無い大田区長】
~国に言われたからやる自治意識の欠如~
労働者間の公平だけでなく、そもそもの格差をなくすことが今重要ですが、そうした区長の問題意識もうかがいたく、議案質疑しましたが、国の制度だからやっているので大田区として評価も判断もないという答弁は、国の施策を言われるがままに行うだ地方自治を根底から否定する大きな問題です。
大田区として何も考えていないことにほかならず、が判明してしまいました。
70万区民のリーダーとしての問題意識も、目的意識もないことに失望を覚えます。
自ら考え国に対し提案し、意見して初めて地方分権といえるのではないでしょうか。
しかも、制度導入にもランニングコストにも多額の税金が投入されようとしており、加えて、サイバー攻撃などから完全に防御しようと思えば、その費用は数兆円にのぼると言われています。
アメリカの国家安全保障局(NSA)がメルケル独首相ら主要諸国の指導者35人の携帯電話やメール、個人PCのブラウザの履歴などを盗聴・盗み見していたことが国際報道されました。NSAは日本でも、2006~07年に内閣府、日銀、経済産業省、三菱商事、三井物産など35回線を盗聴していたことが発覚しましたが、日本政府はこのような事態が明らかになっても強く抗議することはありませんでした。
マイナンバー制度によって全国民の個人情報が蓄積されますが、情報が他国機関に筒抜けになっても抗議すらしない政府に個人情報管理を任せて大丈夫でしょうか。
G8諸国で、マイナンバー同様の官民共通番号制度の国はなく、ドイツやイタリアは納税分野に限定した番号制度を導入していることからも明らかなように、いわゆる「先進国の番号制度」ではない選択を日本はしようとしているのです。
私たちが地方分権という道を選択したのは、生活課題を解決するためです。
仮に「マイナンバー」に賛成だとしても、国の政策に対して常に是非や課題を検証し、問い直さなければ、地方自治体の役割は不要です。無批判に受け入れ、課題の検証さえしない大田区に多くの問題を指摘されているマイナンバーをこのまま任せることに大きな不安を感じ反対討論といたします。