大田区議会 令和3年決算特別委員会(審査第2日) 款別質疑 総務費③ 奈須利江委員(フェア民)
コロナの感染防止を名目に進むデジタル化ですが、少しの利便性と引き換えに、私たちに何が起きるか、決算委員会で取り上げました。
デジタル化、ICT化、デジタルガバメント、デジタルトランスフォーメーションなど、様々な言葉が使われていますが、デジタル化によって、行政や企業、社会システムをすっかり変えてしまおう、という動きが加速しています。
デジタル化は、単なるIT化の段階から、国や自治体、官民の枠を超えて行政サービスを見直すデジタルガバメントや、デジタル化に合わせて、社会を変革させようというデジタルトランスフォーメーションDXの段階に入っています。
大田区も、今年2021年3月に自治体DX計画である、「大田区情報化推進計画」を策定しています。
コロナで加速しているデジタル化推進ですが、2017年の情報通信白書には、
総務省|平成29年版 情報通信白書|第4次産業革命がもたらす変革 (soumu.go.jp)
スマートフォンをはじめとする多様なツールで
様々なデータを収集し、
そのデータを蓄積ビッグデータ化し、
これらのデータについて人工知能(AI)等も活用しながら処理・分析を行うことで、
現状把握や、将来予測、ひいては様々な価値創出や課題解決を行うことが可能となる。
そしてその次のフェーズでは、
人が通信の主役ではなくなり、
機械間通信(M2M)が中心となる。
これら一連の変化が第4次産業革命である
と書かれています。
DXが進み、データを蓄積して、人工知能AIが処理分析し課題解決までしたら、政策立案し執行する行政や、主権者から選ばれ区政をチェックし議決権を持つ議員の役割も小さくなり、地方自治の在り方も大きく変革してしまうかもしれません。
「人が通信の主役でなくなる」というのも穏やかではありませんが、第四次産業革命と「革命」と名付けているくらい大きな変革がこの移動通信情報システムの活用によるDXで起きるのだと思います。
にもかかわらず、便利だから、効率的になるから、と影響の検証もせず、コロナを名目にあまりに拙速に進められていると思います。
そこで、うかがいます。
- 区長や大田区はDXに関わり、「誰一人取り残さない社会」というフレーズを良く使います。どういう意味でこの言葉を使っていますか。
この誰一人取り残さない、というのは、とても心ひかれる言葉です。必要な住民サービスを全ての人に提供できる体制を作るのが、自治体DXだと思ってしまうのではないでしょうか。
ところが、「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」をみると
「誰一人取り残さない」の意味は、
誰一人取り残さないデジタル化を進めること
全ての国民が、公平・安心・有用な情報に「アクセスする環境の構築を図る」こと
であって、全ての国民が必要な「サービスを受けられる」ようになるわけではありません。
しかも、国は、データを蓄積ビッグデータ化すると言っていますから、「誰一人取り残さない」デジタル化を進めると、
全ての国民がデータ基盤につながることになります。
管理社会の問題が指摘されていますが、つながったことにより、管理されてしまうのではないかという心配があります。
しかも、繋がったら管理されるだけで、ビックデータの恩恵は利便性だけに限定される可能性もあります。
大田区の情報化推進計画の取り組みをみると、利便性の高い行政手続きや窓口サービスをオンライン化し、キャッシュレス化します、と書かれていますが、国のDX推進計画のスケジュールをみると必ずしも利便性が向上する事業ばかりではなく、その他すべての手続きをオンライン化することが求められています。
キャッシュレスは、コロナで、お金を触らない感染防止と言ったメリットで推進されていますが、お金の流れが管理されるだけでなく、電子マネーなど法定通貨でなければ、流通性・使える範囲が限られたり、法定通貨の預金と違い補償されない場合もあるなどの問題は議論されていません。
ゲームアプリのポケモンゴーは、位置情報をビジネスに使うツールとしての側面があるそうです。
あなたが今どこにいるか教えてくださいと言っても、なかなか情報を得ることはできませんが、ゲームだと抵抗なく位置情報を提供しているのだそうです。
はねぴょんの健康アプリも、位置情報と連携すると、どこにいるのかわかるので、ビジネスに活用することができるのではないかと思います。
子育て相談は、健康や育ちの悩みをデータ化できますし、大田区図書館の本には既にICタグがついています。
こうした、自治体が保有する情報が、マイナンバーと紐づけられ、個人情報が集約されていきます。
また、道路・公園・建物などのインフラはじめ大田区が保有するデータを利活用できるようオープンデータ化したり、医療情報などプライバシーに関わる問題も地域と関係づけデータ解析して公開しています。
大田区が情報化推進計画に載せている取り組みは、いまは、まだビジネスとの関係がみえにくい状況ですが、ビジネスの成功に、情報は欠かせません。
行政の持つ情報は多岐にわたり、またその量も膨大で、これを使えるようにすることは、大きなビジネスチャンスを広げる事になります。
オープンデータは、誰もが使える状況にありますが、大田区には、公民連携として既にいくつかの大企業のパートナーがいますから、個人が提案を持ちかけても簡単では無いと思います。
データ基盤は、誰が使えるのでしょうか。
スーパーシティの事業化に関る、オープンラボと呼ぶ登録団体は7月末ですでに260になっています。
- そこでうかがいます。国の自治体トランスフォーメーション推進計画に基づき策定した、大田区情報化推進計画で集約され、一元化された大田区のデータは、どのようにして使えますか。大田区民が個人でも使うことができますか。オープンデータではなく、基盤データについてお答え下さい。データ基盤の利活用の公平性は保たれますか。格差が拡大することはないですか。
一方で、経済産業省が2018年にまとめた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」のレポートを読むと、「既存システム」が複雑化・老朽化・ブラックボックス化していて、 IT 人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失が2025 年以降、最大年12兆円、現在の約3倍にのぼる可能性があるのがわかります。
DXは、老朽化などで莫大な費用負担を招く企業のシステムを、税金でビックデータ化して更新し、解決しようとしているという背景も見えてきます。
自己努力で更新すべき企業システムの更新を企業が放置してきたにもかかわらず、税金で更新しビックデータ化することは、必ずしもすべての企業に有利に働くとは限らず、中小事業者が価格競争にさらされるなど、問題も感じます。
しかし、それをつかえるのが、一部の事業者だけというのは、不公平を招き格差を固定化させることになるので問題だと思います。
マイナンバーに紐づけられた情報を政策立案に使わないと答弁した大田区ですが、
大田区情報化推進計画は、AI(人工頭脳)やRPAと呼ばれる人がコンピュータを操作して行っている事務処理を自動的に行うソフトの活用を想定しています。
国では、EBPMといって「統計や業務データなどの客観的な証拠に基づく政策立案」まで行い、行政の効率化・高度化を図るだけでなく、多様な主体との連携により民間のデジタル・ビジネスなど新たな価値等が創出される=つまり、利益をあげることが期待されると言っています。
大田区がマイナンバーを政策立案に使わないと答弁したのは、行政内部だけでは使わないが、公民連携で特定の一部の企業利益のための事業なら検討するという事なのかもしれません。
誰一人取り残さない、と国民全員が繋がったビックデータは、誰の意思で動いていくのでしょうか。
そこでうかがいます。
- 国の自治体情報化推進計画を進めることは、意思決定を情報システムにまかせることになります。AIやEBPMと言えば、機械的にデータ処理された客観的な問題解決や意思決定のように感じてしまいますが、どういったデータを入力しその中からどういった基準で抽出するかと言ったデータ処理のアルゴリズムを決めるのは人間です。しかも考えるAIなどという言葉が聞こえ始めていますから、そのアルゴリズムもブラックボックス化します。区民の声を反映した区政、合意形成は守れますか。また、どう守っていきますか。
デジタル庁にもこのことについて質問したところ
「ご指摘のような課題があるとも言われており、海外でも我が国でも、それらの課題にどのように対処していくべきか議論が行われているものと承知しています。」
とお答えいただいています。
科学デジタル技術の急速な進歩に民営化が拍車をかけて、行政内部が専門性に追いつかなくなって、先日の蒲田西特別出張所の耐震補強の中止などもそうですが、主導権が企業側に移行していると感じる場面が増えています。デジタル技術を活用した意思決定はその最たるものでは無いでしょうか。
デジタル庁は1/3が民間出向で、透明性や公平性確保が課題という報道がありました。
こうした情報化推進が拙速だと思う理由のひとつはここにあります。
今でも、事業者選考における事業者の提出書類や議事録は、事業者のノウハウだからと非公開になるデータもすくなくありません。大田区が情報化推進計画を進めていくと、議会制民主主義や二元代表制に基づく民主主義や意思決定そのものが変わっていきそうで心配です。
一方で、国の文書から、こうした自治体DXの背景には、人口減少や東京一極集中による地方都市の経済や社会システムの担い手不足、財源不足の問題があるのがわかります。DXの発端は人口減少による労働力不足で、その解決の手段として、国は、都市の人口を地方に移転させる「テレワーク」をあげているのです。
テレワークなどを推進すれば、購買、消費などの経済や、歳入歳出などの財政構造が変わりますし、都市計画マスタープランや開発の方針などの見直しが迫られることも考えられます。
こうした、構造的変革を、行政主導で行うことは、各種の計画の基盤となる人口動態を根本から変える可能性があるばかりでなく、経済とそれに伴う歳入や人口と人口・年齢構成の変化に伴う各種行政需要(都市部・地方ともに)など日本の統治機構にも影響を与えると思いますが、総務省はテレワークを推進しながら、試算もシミュレーションもしていないそうです。
東京一極集中と地方の疲弊を招いたのは、一次産業を衰退させ、製造業の空洞化を招き、都市計画制度を変えて一極集中を可能にした政策を作った政治によるところが大きいと思いますが、その政治が、政策的な是正をせずにテレワークという対症療法で問題の一時しのぎをしようとするのは、大田区も議会の多くも批判しているふるさと納税や不合理な税制改正と全く同じ構図だと思います。
そこでうかがいます。
- この状況で大田区としてテレワークを推進して区民に責任ある行政サービスの提供が可能だと思いますか。安易なDX推進は、問題が多すぎると思います。仮に進めるとしても、検討しなければならない問題がたくさんあります。やめるべきだと思いますが、推進して大丈夫だとする根拠や見通しはどこにありますか。
このまま進めれば、緻密に構築された国と地方の税財政構造も交付税のしくみも人と雇用と所得の関係も崩壊するのではないかと思います。
そうなると対応できるのはベーシックインカムしかないと思うので、私はベーシックインカムには反対なのです。