(1)平和、経済、民族の壮大な実験場としてのEUはヒト、モノ、カネの自由往来をテーゼ(thesis)としているがEUとしての「ひとつ」の国ではなく、それぞれの国家は存在する。英国はEU、特にEUを主導する独がアフリカからの難民を一時制限なく受け入れることに反対して、さらにEU内の再建努力をしない債務国への財政負担増に懸念を示してEUから離脱した。
(2)理念、理想社会として国もなく、国境もなく、人種、宗教もない平和な世界を説くことがあるが、これで一体どうやって人は生活し、共同社会を維持していくのか、社会は個人の収入と道路、橋、水道、ガス、通信など公共財への投資でそれぞれが協力し、提供して、共有して成り立つもので、国もなく、国境もなくでは生きていく術がない。
(3)国、主権国家、国民として分相応の負担、投資、協力して社会利益を守るためには、愛国主義(patriotism)はあって当然で必要なものだ。愛国主義はあって当然だが、なければならないものでもないグローバル社会だ。
しかし普通あって当然で必要なものはあえて主張、誇張することなど必要はなく、主張、誇張すれば不自然で、ことさらにその意図、思惑、背景がみえてくるものだ。
(4)中国は一国二制度の香港支配を強めるにあたって、香港の民主化勢力の取り締まり強化に対して中国への愛国心、愛国主義を踏み絵として持ち出して、統制、規制強化に強制関与した。今、ウクライナ軍事侵攻で欧米日などから経済、金融制裁強化を受けている露のプーチン大統領は国民に対してこれで真の愛国主義か反逆者、スパイか口に入ったハエを吐き出すようにわかると愛国主義を判断基準に持ち出した。
(5)かっては独の全体主義者ヒットラーが愛国主義を持ちだしてユダヤ民族の大量虐殺、迫害をして国民に愛国主義を植え付けて、たきつけて欧州統一、世界制覇を主導したことがある。日本の戦前の全体主義軍国政府でも愛国主義が国民を煽動してアジア植民地侵略支配、第2次世界大戦に突き進んだ経緯がある。
(6)歴史の反省もなく中国、露が再び愛国主義を唱えて、基準にして統制強化につなげている。国民が主権国家として国を愛し、安全、権利、利益を守るために愛国主義を持つことは必要なことだが、だからこそ間違った政治指導者が個人崇拝(the individual worship)としての間違った愛国主義を都合よく持ち出す危険がつきまとい、近年も中国、露での間違った安易な愛国主義観が踏み絵として利用されている。
(7)警戒すべきは世界が自由主義、民主主義国家が後退して、保守思想、極右勢力、権威主義、専制国家の分かりやすい政治が勢いを増していることだ。