映画を鑑賞された方のレビューをネタバレ込みで読ませてもらって、これは原作を読んでから映画を観なあかんなと判断し、先に原作を読み終えてから鑑賞することにしました。
原作に関して言うと、ぶっちゃけ書くと、文字で表現されていたからか、当事者じゃないからか、津波シーンもレイプシーンも私には大きなうねりには感じなかった。
ただ、夏彦が希(きりえ:主人公キリエの姉)を探そうとすでに津波が引いたとは知らず、地震の夜、40キロの距離を走ろうとするシーンはリアリティーを感じた。
あと、私も近い経験はあるので、夏彦の悔恨は、めちゃくちゃよく理解できる。
それ以外は、リップヴァンウィンクルの花嫁を超えることはなかった…m(__)m
ということで今、映画を見終えました。
ぶっちゃけ、原作を読んでいて正解だった。
原作を読んだからこそ分かる、映画では見せていない裏エピソードがあったり、映画にしかないシーンがあったり、このエピソード絶対必要!と思っていたシーンが丸ごとカットされていたり、
逆に言うと、原作を知らないと理解しにくくない?と思う人物描写にも感じた。特に、広瀬すずちゃん演じるイッコの描写ね。
イッコの大事な東京エピソードが丸ごとカットされていた。映画だけ観たら、イッコはアバズレにしか見えないような印象を受けるんじゃないかな。本名の真緒里からイッコに改名した理由やエピソードは絶対必要だったと思う。
あと、夏彦の悔恨の根深さを伝えるには、夏彦の家庭環境のエピソードが足りなかったように思った。なぜ、自分の子供を身籠った希に対して疎遠にならざるを得ない背景となる情報量が少ないように感じる。
映画だと、単純に希を嫌になった、自分の将来の邪魔になったという印象しか持たれないような気がする。やはり、お兄さんエピソードも必要だったと思うな。ちなみにお兄さんエピソードは、原作の描写がよい。映画はほぼカット。むしろ原作を知ってると、映画にはない世界が見えてくる。
ぶっちゃけ、原作を読む限りだと、イッコの方がキリエよりも主役の感じがした。イッコの生き様が波乱に満ちて、その癒しがキリエの歌であり、キリエの存在だったと思うんよね。
でもね、映画の方が観やすかった。最初の方で3つの時代を交互に見せていったのは、退屈せず観られるので正解だと思った。原作はある程度は、時系列で話が進んでいるし、一つ一つが長い。映画のように上手くカット割りしてつなぎ合わせてくれた方が、170分退屈しない。
だけども、路上フェスシーンまでは、映画の方が良かった。
ちにみに、原作のフェスは、今日の2023年11月3日金曜日なのである。なんたる偶然!
ラスト、ここで終わったらいいのにエピソードが数回畳み掛けてくるのが正直しんどかった。まだ続くんかい!的な。原作を読んだだけにね。
あとさ、やはり、イッコの本名の真緒里としての東京エピソードがゴッソリ抜けてるから、原作を知らない観客にはイッコが何を考えているのか分からない不思議ちゃんと思われるのがある意味悔しいね。
イッコはイッコで真緒里を捨てないといけない理由があったし、レイプシーンって、まさかキリエの未遂レイプシーンの方だとは思わなかった。原作には、もう一つのレイプエピソードがあり、そっちの方が重要。原作だと、伏線回収されるエピソードではあるんだが。
ぶっちゃけ、生々しいレイプシーンは見せなくていいから、真緒里と灰野エピソードは欲しかったな。イッコの名誉のためにも。
原作では、イッコの師匠?となる柚子子(ゆずこ)との関係がイッコを知る重要な背景となるし、ラストの解釈が大きく変わる。映画でも、実は灰野は登場してるけど、観客は、結婚詐欺の犠牲者だと思うだろうから、全然違うから!と言いたくなる。
この灰野エピソードは、原作のラストで、天罰のように、女神が鉄槌を下すがごとく、伏線回収エピソードとして異彩を放っていたので、なかったのは残念だった。
柚子子&灰野エピソードを盛り込んでこないなら、ラストは、時間軸交差じゃなく原作通りストレートに見せてほしかったな。
ラストは、路上ライブでもいいから、キリエの歌で終わって欲しかった。エンドロールにネットカフェシーンいらない。浜辺のシーンはライブ前にして。違う意味でリアルに切なくなる。映画なんだから希望で終わろうよ、と思った。
映画では、キリエとイッコの友情ドラマとも解釈できるが、
原作は、イッコの家庭環境や女を武器にしたくない考え方が象徴するように、男性社会の下敷きになった立場が弱い女性の姿を描いた作品だと思った。
映画のシーンはほとんど原作通りなんだけど、映画と原作では伝わってくるものが全然異なっていたのが不思議くらいだった。
個人的には、夏彦が40キロ走ろうとしてたどり着いた場所が神社だった…のも欲しかったな。姉の希(きりえ)と夏彦のキスシーンの場所。
この神社シーンを再度出すことでより夏彦の悔恨が更に際立つのにな〜。
正直、原作も強く訴えかけてくるものがなかったし、映画は、時間軸の見せ方(ラスト以外)は良いのに、色々登場人物の背景が足りないし、うーんって感じだった。
あと、キリエと姉の希は、アイナさんじゃなくて別の方に演じてほしかった。2人は双子じゃないし、思春期の生活環境は明らかに異なっているのに、キャラが同じなのは違和感でしかない。せめて明確な演じわけが必要だと思った。
っていうか、岩井監督とアイナさんの会話を聞いて、素のアイナさんで希を演じてくれたら良かったのにと思った。夏彦に対して積極的なのも納得出来たんだけどね。
キリエのキャラ作りが最高に素晴らしかっただけに、姉の希像が今ひとつだった。私にはね。
それにしても、アイナさんのハスキーボイスとシャウトのかすれ具合がいい。バレエシーンも良かった。アイナさんの歌声が映像の色になって現れていた。
アイナさんのキリエに対してイッコはすずちゃんで合っていたと思う。やはり、イッコの裏エピソードは必要だと思う。どうみても都合のいい女にしか映らないと思う。本当は違うのに!
松村北斗君演じる夏彦の悲壮感が、猫背の人物像から伝わってきてとても素晴らしかった。ギターを弾く様にめちゃくちゃ色気と哀愁がある。
黒木華ちゃんの先生役がめちゃくちゃ良い。まるでリップヴァンウィンクルの花嫁の後日談的な人物描写で、関西弁の台詞や生徒との会話に凄く和まさせられた。
江口洋介さんとカールスモンキー石井さんには驚いた。2人とも意外な役で登場。
まさかの北村有起哉さんにも驚いた。また導かれてるよ!藁
久々の奥菜恵さんが、貫禄が出ていてビックリ。
樋口真嗣監督は夏彦お父さん役だし、相変わらず吉瀬美智子はキレイだし、浅田美代子さんも村上虹郎君も笠原秀幸さんも良い味だしてるし、
チョイ役が最高すぎる!
そうそう、先月だったか、岩井監督のYouTubeで久々に「リリィシュシュのすべて」を観た。
十年以上ぶりに観たから、登場人物に対するイライラが半端なかった。自分の分身を見てる感覚で、今なら…と何度も思った。
ゆったり流れる時間の中に、超えられない壁やもどかしさが表現されていて感情移入しまくりだった。
今作も思ったが、やはり、岩井監督の映像美は美しい。