二銭銅貨

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元禄忠臣蔵

2006-11-15 | 邦画
元禄忠臣蔵  ☆☆
1941.12.01 興亜映画、松竹、白黒、普通サイズ
監督:溝口健二、脚本:原健一郎、依田義賢、原作:真山青果
出演:河原崎長十郎、三浦光子、梅村蓉子、高峰三枝子

瑶泉院(ようぜいいん)の静かな佇まいを、
きちんとした鋭い線で表現する豪華な着物の衣装と、
長い黒髪を印象的に見せる後ろ姿で演じているのは三浦光子です。
鋭い直線的なイメージと柔らかく優しい感じの三浦光子の線が、
交わりあって調和して、端整なろうそくの炎とともに、
フィルムにくっきりと焼き付けられています。
重苦しく厳しい思想的な表現にあふれるこの硬い映画全体に、
優しくて美しいお姫様が若干の色合いを付けています。

義士討ち入りの場面は無く、瑶泉院と、
梅村蓉子が演じる付き人らしき戸田が、討ち入り場面を記述した
手紙を読む場面をもってその場面に替えています。
打ち入りを予感する瑶泉院と戸田の夜明け前のシーンから、
その手紙を読み上げるまでの強い緊張感の中に、
清らかな柔らかい線がこの2人によって表現されています。

京都御所、天皇に向かって遥拝する大石内蔵助ともう一人を
ローアングルで撮影したシーンは、
この映画を象徴する場面でもあり、
またその製作年代を感じさせるものでもある。

この映画は真珠湾攻撃の1週間前に封切られたという映画です。新藤兼人によると客席はガラガラだったそうです。この時代を象徴する、国の威信をかけた映画だったのだと思います。国というか軍の指導のもと、ものすごい資金を使って製作されたことがその重厚長大な、また細部まで美しく仕上げられたセットを見れば良く分かります。まさに映画界の戦艦大和でしょうか。実際の戦争で、巨大な大和、武蔵は小さな軍用機の群れに成すところなく撃沈されてしまいます。最初の巨大な松の廊下、現物そっくりに作ったそうですが、その空虚な風が吹き抜けるような冒頭のシーンに、この2大戦艦と同じ運命を感じてしまいます。この映画で表現されている思想は今の時代には受け入れられないものですから、その点は割引して見ないといけません。思想的に許せないから駄目だと言っては、この映画のために頑張った人たちに失礼だと思いました。

開戦直前の封切ということを知って見ていたので、大石内蔵助が日米開戦に反対の立場を取りつつも真珠湾攻撃を指導する山本五十六、いきり立つ義士たちが陸軍若手将校、吉良上野介(演じている三桝万豊は三桝豊の改名らしい)が米国軍人、打ち入りが真珠湾攻撃に見えてしまった。
06.11.04 NFC
コメント
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