少し旧聞になるが、ジャカルタで開催されたアジア大会の男子マラソンで、久々に日本の男子選手が優勝した。
公式の国際大会における男子日本人選手の優勝は、あの中山選手以来である。瀬古や中山の全盛期を見てきたせいもあるが、何故にこれほど日本男子マラソンは低迷したのか。
その一因として挙げられるのが、あの正月の人気番組、箱根駅伝である。
駅伝という競技自体は、もともとマラソンを強化する目的で設けられた競技であった。実際、駅伝出身の選手がマラソンで活躍してきた過去の実績はある。
しかし、あまりに箱根駅伝に人気が集中した結果、選手の強化が歪んでしまった。
箱根駅伝自体は、関東の大学から選抜された選手が出場する。お正月の大人気番組として名が知れた箱根駅伝に出場することを夢見る若者たちは、こぞって関東の大学陸上部に集まった。
その結果、関西の大学や、社会人陸上部は若く有望な男子選手を集めることが難しくなってしまった。それほどまでに、箱根駅伝の人気は凄まじかった。
人気が集中した結果、箱根駅伝は勝つための強化方法自体が、独特なものとなってしまった。ついには箱根駅伝に全力を投じてしまい、大学を卒業した後には、故障だらけで走れなくなった男子選手が続出した。
特に人気の地区を走る選手たちは、余りの練習し過ぎで、4年持たずに引退することも珍しくなくなる始末である。当然に男子陸上競技の世界では、箱根駅伝に対する非難の声が上がっていた。
しかし、多くのスポンサーをひきつけ高視聴率を稼ぐ箱根駅伝は、独占放送する日本TVだけでなく、それを報じる他社のマスコミにとっても他に替わるもののない最高の商売道具であった。
だから陸上競技界からの不満の声は押し潰された。その結果、有望な若手選手は箱根駅伝で才能を使い果たして終い、マラソンへ転向した時には故障だらけとなり、これが日本から男子マラソンのメダル獲得の機会を奪ってきた。
ここ数年、男子マラソンで活躍している日本人選手は、いずれも箱根駅伝とは無縁であった人ばかりである。箱根の山の神と呼ばれた期待の若手は、10位内に入ることさえ出来なかった。もう、長距離を走れる身体ではなくなっていた。
箱根駅伝は、たしかに多くの若い男子を陸上競技に惹きつけた。しかし、あまりに特殊化してしまった箱根駅伝に専念した結果、将来の可能性を潰してしまった。これが箱根駅伝が日本の陸上界にもたらした功罪である。
陸上競技にさほど詳しくない私でさえ、この程度のことは知っている。しかし、大手の新聞・TVは箱根駅伝をまっとうに評価することを避けてきた。その結果が日本のマラソンの低迷であったことは、是非とも知って置いて頂きたいと思います。