ヌマンタの書斎

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トランプの貿易戦争

2018-09-27 12:16:00 | 経済・金融・税制

トランプ大統領が始めた貿易戦争に着地点はあるのだろうか。

元を質せば、この30年以上、アメリカの投資家、株主たちが自らの利益(配当)の向上のため、アメリカの製造工場を人件費の低い海外に移転させたからだ。その結果、アメリカの中産階級は没落し、貧困階級に落ちた。

貧困階級に落ちるのを避けるため、夫婦共稼ぎ、昼の仕事、夜の仕事と掛持ちは珍しくなくなった。その結果、家族の団欒は途絶え、外国人家政婦に家庭を任せた。必然、親子の会話は減り、夫婦の関係はぎくしゃくして離婚が増加した。

家庭が落ち着かないと、子供の教育に影響は避けられない。アメリカの教育水準は、高所得者のための私立学校では高い水準が維持されたが、貧困階級の通う公立学校では、大きく水準を下げてしまった。

その結果、企業は教育水準の高い海外からの留学組を積極的に雇用し、アメリカの貧困階級の子弟が給与水準の高い企業に採用されることが減った。幸い、アメリカ社会は常に流動的であり、製造業が衰退しても、サービス分野では常に新しい企業が勃興していたから、失業率はあまり高くならなかった。

それでも気が付けば、アメリカの富の7割を超富裕層が握り、大半の国民は残りのパイを分け合う悲惨な状況が続いた。それを、共和党も民主党も是認するだけでなく、積極的に推し進めてきた。

私は一概にそれを間違った政策とは言わない。なぜならば、アメリカの生産拠点を発展途上国へ移転した結果、途上国の経済が活性化し、それが世界経済をも活性化させたことも確かだと思うからだ。

しかし、アメリカ国民は不満を抱え込んだ。その不満の吐き出し口として登場したのが、トランプであった。これまで政治からも、企業からも、そしてマスコミからも無視されてきたアメリカの貧困層の不満を背景に、トランプ大統領が誕生したのである。

アメリカの投資家や既存の政治家、大企業がトランプに否定的なのは当然である。彼らを広告主としてきたアメリカのマスコミも同様であろう。

だが、アメリカに再び雇用を戻そうとして、最大の貿易赤字国である中国に対する高負担の関税政策、つまり貿易戦争は果たして有効な政策だと云えるだろうか。

私にはあまり有効には思えない。日本の大企業などは、アメリカに工場を移転しての関税逃れを既に始めている。でも、これは一部に過ぎない。厄介なのは、現代の物つくりは、多国籍化していることだ。

自動車、一つとっても全て一国で部品を賄っている企業はほとんどない。下請け、孫請けのみならず、海外から部品調達は今や当然であり、業務提携により相互に部品を作り融通することもある。

一例を挙げれば、欠陥エアバックの件でアメリカで大問題になった日本の部品メーカーであるタカタは、その部品を世界中の企業から調達していたため、事故の原因究明に手間取っている。そのくらい、物つくりの現場では多国籍化が進んでいる。

今更アメリカ一国で、すべての部品を賄うことは非現実的に過ぎる。トランプ大統領のやり方では、アメリカの雇用は戻らないと思う。もっといえば、あのやり方は、世界一のマーケットを持つアメリカだからこそ出来る傲慢な政策。

一世紀前ならば、ブロック経済化することで、ある程度輸出入に頼らずに自国の経済を支えるやり方もできた。しかし、あまりにグローバル化が進み、国際間での分業が当たり前になった現代では、実効性は薄い。

アメリカ国内のトランプ支持者は、長年富裕階級により虐げられた経済的弱者だけに、マスコミが宣伝するほどにはトランプ支持を減じてはいないと思う。しかし、いつまでも自分たちの生活が変わらなければ、いずれ見切りをつける。

アメリカが本気で国内に働き口を増やしたいと思うのならば、今のやり方ではダメだと思う。特に製造業にとってアメリカは鬼門に近い。PL法に代表されるように、弁護士や投資家などを優遇し過ぎて、地道に働く労働者を冷遇してきた従来のやり方を変えていかなければ、いつまでたっても国内に働き口は増えないと思います。

コメント
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