ヌマンタの書斎

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ふるさと納税の改正

2018-10-02 11:59:00 | 経済・金融・税制

毎年、税法は必ず改正がある。

でも、ほとんどの改正が納税者の関心を呼ぶことはない。私ども専門家でも、全ての改正項目に同じ関心を抱くことはなく、あくまで業務に関連する部分だけチェックするだけだ。

そんななか、この「ふるさと納税」制度だけは、異例の大ヒットであった。消費税法の増税を除けば、これほど納税者から関心を持たれ、なおかつ活用された改正は珍しい。

だが、ふるさと納税が人気があることを苦々しく思っていた人たちがいる。

私が住んでいる世田谷区がその典型である。東京都特別区のなかでも屈指の規模を誇り、成城をはじめ富裕層が多く住む地域ゆえに、財政的に豊かであることで知られている。

もっとも、その割に行政サービスは芳しくない。努力しなくても税収に恵まれるだけに、区民への利便を図らんとする意思は弱い。もっとも長く区長を務めた大場・元区長は、昔の人らしい倹約家で、バブルの時期でさえも再開発などで、箱ものに税金を投入するようなことはしなかった。

今でも世田谷区役所はかなり古臭いビルである。この点は私も評価している。しかしながら、行政サービスという点では、あまり積極的な区でないことも確かだ。だからこそ、ふるさと納税は、世田谷区の税収に大きなダメージを与えた。

ふるさと納税制度は、所得税法上は所得控除であるが、住民税法上は税額控除である。簡単に云えば、住民税の一部を本来納めるべき住所地の役所ではなく、自分で任意に選んで納税できる。

その結果、世田谷区民の気持ちは実に明快であった。住民税を世田谷区に納めるよりも、他の役所に納めようと思い、ふるさと納税を選択する区民は非常に多かった。特に高額納税者ほど、ふるさと納税に積極的であった。

その結果、世田谷区は税収が大きく減少してしまった。世田谷に半世紀、住んでいる私も初めて聞く大事件であった。世田谷だけでなく、大都市の市役所、区役所などが軒並み、税収減少に襲われたと聞いている。

だからこそ、大都市の地方自治体は「ふるさと納税制度」に批判的である。私に言わせれば、これまで如何に行政への不満をまともに受け取っていなかったことの証に過ぎないと思いますけどね。

しかしながら「ふるさと納税制度」に対して、一番不満を抱え込んだのは、霞が関の役人様ではないかと疑いたくなるのが、今回のふるさと納税の返戻品への規制強化である。

霞が関の役人が権勢を奮える最大の理由は予算配分にある。財務省が一手に握っていると思われがちだが、地方交付税だけでなく、様々な予算案策定に各省庁が大きな権限を握っている。

霞が関のエリート官僚様が、どこに、どれだけの予算を投入するかのカギを握っている。だからこそ、日本各地の地方自治体は、東京に出張しての霞が関詣でを欠かさない。もちろん、地元へいらっしゃることがあれば、上を下への大騒ぎである。

ところが、ふるさと納税は、納税者が地方税を自分の意思で納める自治体を決められる制度である。それは、これまで霞が関のエリート官僚様が独占してきた予算配分を、一個人が勝手にやっていることと同じである。

実際のところ、ふるさと納税を選択しようとしまいと、地方税の総額自体はたいして変わりはない。寄付の性格が強い「ふるさと納税」だが、単なる住民税の納付先の一部変更なので、節税とは違う。

だから日本国全体で判じれば、地方自治体の税収が減ずるわけではない。しかし、人口減少に悩む地方自治体にとって、ふるさと納税による収入増はすごく嬉しい。単に自治体が使える予算が増えるだけでなく、地方の活性化、広告効果などその影響は大きい。

だからこそ、ふるさと納税の見返りとしての地元特産品のお返しなどに力が入る。しまいには、その地方とは無関係な、一般的な人気商品まで配る始末である。いささか本末転唐フ側面があるのは確かだと思う。

だからこそ、総務省が噛みついた。ふるさと納税の返戻率を下げて、行き過ぎたお返しを抑制する方向へと舵を切ってきた。一見、正論に思える。

でも、ふるさと納税の収入を何に使おうと、それは地方自治の原則にのっとり、各地方自治体に任せるのが本筋だと思う。それなのに総務省が抑制にかかったのは、やはり予算配分というエリート官僚様の聖域を犯しかねない「ふるさと納税」に対する反感が根底にあるように思えてなりません。

コメント
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