ヌマンタの書斎

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傷だらけのカミーユ ピエール・ルメートル

2018-10-11 11:51:00 | 

趣味じゃない。でも、たまに読みたくなるのがサイコ・ミステリーだ。

その最北の頂点はジェームズ・エルロイだと思う。なにせ、読むだけで心にダメージを与えてくる残虐なミステリーの書き手である。好きだとは言い難いが、忘れがたく、それどころか再び手を出したくなる麻薬のようなミステリーである。

一方、表題の作者もサイコ・ミステリーの書き手としてはエルロイ級である。ただ、エルロイほどには読者の心にダメージを与えてこない。犯人の異常さ、犯罪の残虐さは決して劣るものではない。でも、エルロイほどには心に傷を負わせない。

少し不思議に思っていたのだが、シリーズ三作目である表題の作品を読んでみて分かった気がする。「悲しみのイレーヌ」「その女、アレックス」に続く作品なのだが、この三作目を読んでみて、ようやく分かった。

読者の替わりに、カミーユ警部が身代わりとなって傷ついているからこそ、心を傷つけるサイコ・ミステリーなのに読者は心を痛めないのだ。

実際、本作でもカミーユ警部は公私ともにボロボロである。もしかしたら警察を去ることになりかねない苦境に追いやられている。親友の助けを求めることが出来ず、信頼する部下にもすべてを語れない。

ただ、一人で異常な犯人を追わねばならない。しかも、それは組織人としてあるまじきことは分かっている。分かっていながら自分一人でやらざるを得ない苦境に追いやられる。

まさにタイトル通りに、傷だらけである。果たしてカミーユはこの苦境を乗り切れるのだろうか。そんな心配が、ページをめくるスピードを早めてくれる。秋の夜長に最適な一冊だと思いますよ。

コメント (2)
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