ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ぜったいに飼ってはいけないアライグマ さとうまきこ

2018-11-19 11:47:00 | 

基本的に人間と動物は敵対関係にある。

その数少ない例外が、愛玩動物と家畜である。家畜はさておき、愛玩動物となると、数種類しか存在しない。代表は犬と猫である。

もっとも猫は基本二種類しかいない。イエネコとヤマネコである。まずヤマネコは絶対に人間には馴れない。そして驚くべきことに、イエネコは古代のエジプトにしか居なかった。

旧約聖書に出てこない動物の代表が猫なのだが、これはイエネコが当時はまだエジプト限定で、オリエント社会にはいなかったからだ。エジプトのイエネコだけが、唯一人に馴れることが出来た。

それだけではない。イエネコは倉庫の穀物を食い荒らすネズミを駆除できる。この能力に目を付けたのが、当時地中海で船を使っての交易をしていたフェニキア人である。

この巧みな商人たちは、エジプト秘蔵のイエネコをどうにかして連れ出して、船に乗せてネズミ退治を任せた。幸いというか、奇跡というか、イエネコは揺れる船のなかでも酔うことなく航海に耐えられた。そして退屈な航海の最中、人とじゃれ合うことが出来た。

それゆえに、イエネコは各地で人気者となり、あっという間に世界中に拡散した。ヤマネコは世界各地にいるが、人に馴れるイエネコは全てエジプト原産である。そして今日に至るまで人に馴れるヤマネコは存在せず、イエネコは品種改良されて人の傍らで繁栄した。

もっとも社会性が強く人間を仲間と見做す犬とは異なり、ネコは人が近づくことを許している観が強い。やもすれば、ネコが主人で、人は下僕的な振る舞いをすることさえある。まァ、好きな人はこの猫の自由っぷりを愛するようだ。

地球上に数多いる動物のうち、愛玩動物であると断言できるのは犬と猫ぐらいなのが実情だ。牛や馬などはかなり頭が良いので、人間に懐くことはあるが、ペットではない。

人間が野生の動物を飼い馴らす努力を始めたのが何時ごろかは、定かではないが、7千年前の有史以前のオリエントではその努力に一定の成果があったようだ。しかし、今日に至るまで、人間に馴れ親しんだ動物は20種程度に過ぎない。

豚やヤギは家畜としては定着したが、一度人間の下を離れると、あっという間に野生化してしまう。野生の本能は、ほとんどの場合人間の努力を無効化してしまう。

表題の作品(絵本)は、ペット業者に騙されてアライグマを買ってしまった方の実話に基づくものだ。アニメ「あらいぐまラスカル」の影響もあって、愛くるしいアライグマを期待した著者だが、可愛いのは幼い時だけ。

成長に従い、すぐに野生の本能を甦らせ、噛みつくは、引っ掻くは、暴れるはと手に追いかねる獰猛ぶりを発揮する。多くの飼い主はこの時点で諦めて、動物園に寄贈(大半が断られる)したり、野山に放したりしてしまう。

野性化したアライグマは、その旺盛な食欲と適応能力の高さ所以に、日本各地で繁殖して農作物を荒らしている。日本原産のタヌキやキツネを追い払い、今は外来危険動物として駆除の対象となっている。

無責任な飼い主と、売れば後は知らんのペット業者の非道ぶりには腹が立つ。反対意見はあるだろうけど、私はこのような危険な動物は安楽死させるのが飼い主の義務だと思う。

ところで、表題の作品の著者は驚くべきことに最後まで面倒見ている。人間の与える餌のせいで、腎臓を害したアライグマは衰弱して初めて大人しくなった。最後は著者に看取られて死んでいる。

手足に沢山の傷跡を持ち、苦悩を抱えながら最後まで飼い通した著者の渾身の想いが作品には込められている。是非とも一度は読んで欲しいと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする