ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

晩秋の富士山

2019-10-31 12:15:00 | 社会・政治・一般

先月、北アルプスの剣岳でインスタに写真をアップした後、滑落死した登山者がいたが、今度はユーチューブに動画をアップしている最中に富士山で滑落死した登山者が現れたらしい。

暑かった夏を終えて、秋が駆け足で列島を駆け抜ける日本列島なのだが、富士山は既に冬である。冬の富士山は、登山のベテランのみが許される極限の山である。滑落死したユーチューバーがどの程度の力量の登山者なのかは知らない。

知らないけど、冬の富士山の怖さを知らないド素人だと判じても、そう外れていないと思う。死者に鞭を撃つのは褒められた事ではないのは承知している。しかし、先月の剣山同様に、今回の遭難にも私は怒りを禁じえない。

国内の山の中でも、冬の富士山はもっとも恐ろしい山の一つだと思っているからだ。なぜか、この事はあまり一般的ではないようだ。

その理由の一つは、夏の(ここ、重要!)富士登山が以前からのブームであることだ。地元(静岡、山梨)にとっては貴重な観光資源であり、山岳関係者は眉を顰めながらも、素人登山者の富士山登山を黙認していた。

しかし、認められるのはあくまで夏の時期だけである。それ以外のシーズンは、富士観光道路を閉鎖し、山小屋も閉店して、素人の侵入を防いできた。

なぜか?

夏の時期以外の富士山は、日本で最も危ない山の一つであるからだ。まず富士山は独立峰である。独立峰は風の影響を受けやすく、簡単に気候が変わる。ほんの一時間あれば、晴天から荒天に変わるのが、独立峰の特徴だ。

しかも富士山は標高日本一である。標高の高さ=気温の低さである。山で浮「のは風である。だいたい風速1メートルにつき、体感温度は一度変わると云われている。麓で気温20度だとしても、風速20メートルならば体感する温度は0度である。これに標高の高さによる気温低下が加わるのだ。

人間は恒温動物である。体温を一定以上保っていないと、その生命活動は維持できない。体温が30度を下回れば、夏であっても凍死する。正確に云えば、疲労凍死である。

人間、体力が疲弊してくると体温を維持するのが難しくなる。特に風と雨で表面体温を下げられると、奪われる体熱>体内で発生させる体熱の常態に陥り、その結果として生体活動が低下して、疲労凍死に至る。

山において、風と雨により体温を奪われることは死に直結する危険性がある。死に至らなくても、寒さが体力を奪い、思考力さえ衰える。

さらに富士山では、氷結した地面が恐ろしい。まだ10月だが、富士山ならば標高2800メートル以上ならば、既に地表は凍り付いている箇所があるはずだ。特に雨が降った後だと、氷結し、冷たい風に表面が磨かれた恐ろしい地表となる。私はここ以上のアイスバーンを知らない。

10月は知らないが、12月に富士山で開催された登山者講習会に参加した時は、12本歯のアイゼンが食い込まないことに驚いた。堅く凍り付いた登山道が容易に登れなかった。ピッケルを叩き込んで、表面を割ってそこにアイゼンを食い込ませて登ったこともある。

その時の経験からして、厳冬期(1月、2月)の富士山は絶対に御免こうむると胸に堅く誓ったものだ。更に付け加えるならば、富士山に吹き付ける冬の強風は、小さな小石を弾丸のように弾き飛ばす。親指ほどの大きさの小石でも、人を殺傷するほどの威力である。ヘルメットは絶対に必要な山である。

今回遭難死したユーチューバーが、何を目的に登ったのか知らないし、どの程度の技量の登山者なのかも知らない。知らないけれど、動画を撮影中の事故だと報じられている。

山、舐め過ぎである。

富士山は優美な山容を誇るが、登るにはあまりに過酷な山であることも知っておいて欲しいと思います。

コメント (4)
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