どことなく春の気配も感じられる芝平の村落と山室川
アウトドア関連の雑誌には、極北の夕暮れの中、草原に野営する女性の姿とか、どこぞかの湖畔にテントを張り一人憩う山男の姿とか、いかにもという写真が掲載されていて読者を喜ばせ、山への憧れを募らせる。そのことに異存などあるはずもない、結構なことだと思う。この徒し事(あだしごと)だらけのブログも、入笠や周囲の山々、それに廃村になってしまった芝平のことを少しでも紹介できたらと願い、始めたことなのだから。
で、今回はこのような地上の楽園に住まう羨ましい人々が、一体何を食べているのかということに、少々想像力を働かせてみたい。が、見た目とは違いどうも”極北の佳人”も、”湖畔の岳人”も食糧事情はそれほどよいとは思えない。海外の山に、まるで奥多摩へでも行くかのように行っては見せても、現実にはそれほど経済的余裕があるはずもなく、実際はかなり質素で、切り詰めた予算が相場という気がする。
というのも、彼らはまだ若い。失業中かも知れない。極北の佳人の場合なら、安い航空券を探し、ようやく目的地にたどり着いて、先の不安を押し殺しつつも目前の壮大な極北の眺めに呆けてしまっている、そんな状況だろう。当然食糧は二の次だ。アンカレッジの韓国人の店で、大慌てで仕入れたインスタントヌードルとパンだけで、耐え切る覚悟かも知れない。アラスカは物価が高い。水とパンだけで夕食を済ませたフランス人の若い女性もいた。
湖畔の岳人も大方、アンパンとインスタントラーメンとレトルト食品ぐらいで、安いウイスキーの小瓶がザックの隅にあればいいほうだ。もしかすれば、失業中ばかりか失恋の真っ最中か、はたまた女房子供に逃げられた傷心の身かも知れない。そうでなければ、とてもこれだけの孤独の風は見せれまい。
止めよう。あまり空想を膨らませ、暴走すると、何だかかつての自分のことを言ってるのではないかと、誤解される。
それでは、こういう情景にふさわしい”お洒落な食事”も、ついでだから想像してみよう。やはり握り飯やインスタント食品はふさわしくないだろう。例えばパスタ、バゲットをメインとし、ソースはお手製のガーリックトマトソースならどうだろうか。もちろん青かびチーズはゴルゴンゾラかロックホール、それにあのクラッカーも忘れない。生ハムかサラミに胡瓜、そしてウイスキーもいいが、ビールとワインがどうしても要る。ここではいくら好きでも、熱燗はまずい。すき焼きも避けたい。分厚いステーキならホールのコーンをバターで炒めて添えたい。ビーフ、ピーマン、玉ねぎのブロシェット(銀串焼き)もよしとしよう。そう、パエリエもいいが、カレーは月並みかも知れない。そして火を焚き、カウボーイを真似てハーモニカも吹いてみよう。ああ、アウトドア雑誌のモデルのようだ。
ウーン、これで一晩目はいい。しかしまだまだ山の日々は続く。程なく美味い食物は食べ尽され、早晩インスタント食品一辺倒になる。アルコール類はいつにかなくなり、しまいにはあの時(え?)、最後に残った米をろくに研ぎもしないで焚いて、味噌だけで幾日かを過ごし、乞食のようにヨレヨレになってようやく帰ってこれた。
食糧は大切だ。しかし、「大いなる山の日々」は、まま、その大切さを忘れさせてくれる。
時代遅れの山小屋「農協ハウス」の営業に関しましては、2月24日のブログなどをご覧ください。