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予定通り、法華道から牧場へ来てみると、たった一カ月も経たないというのに雪はかなり融け、そして沈んでいた。第2牧区の急な斜面から周囲を一望すれば、大沢山のJAXの観測所付近や、小入笠の少し下った日当たりのよい場所はすでに地肌が露出している。管理棟の屋根に積もった雪も半分ほどは落ちて、乾いた赤い屋根が見える。建物は潰れていなかった。山小屋「農協ハウス」の屋根は勾配が緩く、まだその上に雪は乗っていたが、それでも雪の厚さは大分薄くなっている。
そこだけ雪のない管理棟の入口に、いつものように椅子を出し日向ぼこしながら、どろどろしたウイスキーを飲めないことを恨んだ。
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少しづつ夕暮れが訪れようとしている。いつもは観客のいない舞台で踊る霧の準備ができたようで、小入笠の中腹まで降りてきた。無音、風の音すらしない。放牧地とその背後の森が溶暗されていくにつれて、辺りの風景は墨絵のような単色に変わり、そこへゆっくりと霧が舞い、からむ。誰が眺めるわけでもないのに、ここではこういう幻想的な夕暮れがいつも、ずっと繰り返されているのだ。一人でなければいけない時間が、こういう場所にはある。白い闇の来るのが先か、黒い闇が先か・・・。
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冬の星座を代表するオリオン座も、夜の8時を過ぎれば、中天よりかなり西の空に移動している。そしてそれも、安定しない天候のせいで雲が邪魔ばかりする。
パンを齧り、下で焼いて持ってきたステーキを食べ、野菜はリンゴで間に合わせた。飲む楽しみも、食べる楽しみも放棄してしまうと、夜は長い。あまり集中できないまま、それでも本を読んで時と闘う。眠くなったら、絞るように眠りを貪るだけだ。