■犯罪総額こそ、安中市土地開発公社のタゴ51億円事件の約3.5分の1と小さいものの、マスコミ受けは抜群によかった青森県住宅供給公社を舞台にした巨額横領事件の波紋は、タゴ事件を遥かに陵駕していました。この理由としては、いかに安中のタゴ事件が特別な政治的背景を有していたかの証左が背景として上げられます。
青森県住宅供給公社の巨額横領事件はアニータ事件として有名ですが、安中市土地開発公社の巨額詐欺横領事件は、旧安中市民の間ではタゴ51億円事件として語られていますが、なぜかマスコミには、あまり取り上げてもらえませんでした。
わが国の「痴呆」自治体振りを象徴するこの二つの事件を比べた記事を、当会がタゴ51億円事件が公表された後、約11年間にわたり発行してきた安中市民通信「まど」第71号2001年11月20日の5ページから10ページにかけて特集したことがあります。
青森県のアニータ事件の現場写真を見ながら、二つの事件の共通性と相違性をじっくり見極めていただきたいと存じます。
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【較べてみれば】
青森県住宅供給公社アニータ事件VS安中市土地開発公社タゴ事件
↑200店以上もの飲食店がひしめき合う青森市の歓楽街、本町。かつては問屋町だったが、郊外に問屋団地ができて移転したため、そのあとに飲食店が増え始めた。県庁のすぐ近くで、元職員にとっては人の目が気になるところだが、なぜか誰にも気付かれなかった。↑
↑青森市街図。元職員の自宅は右上。青森駅が右下にあり、ほぼ中央にあるのが県庁。すぐ左に公園があり、公園のすぐ下にある2つのビルの左側が県合同ビル。この8階に住宅供給公社がある。そこから左に2分も歩けば本町の歓楽街。青森駅前から本町にかけては、戦時中空襲で焼失したため、都市計画が行き届いている。↑
■やっぱり、また出た! 青森県住宅供給公社で2001年(平成13年)10月31日に発覚した巨額横領事件のニュースを聞いて、安中市民はすぐにこの事件が第二のタゴ事件だと直感しました。「公社」を舞台に、「有能な」職員が「公印」を自由に使って、「14億円以上横領」していたのに、「監査」で分からなかった、という報道は、まさに安中のタゴ事件と余りにも酷似しています。
案の定、その後の報道で、タゴ事件との類似性がさらに顕著であることが判明。管理のずさんさを指摘されても、その場限りの陳謝で済ませ、真相解明と責任の明確化、実効ある再発防止策をとらないで事件に蓋をしようとする体質は、いまだに各地の行政に蔓延っていることがわかります。こうなると全国どこにも役所と名前の付く所には、タゴがいると考えた方が良さそうで、行政の体質を根本的に変えない限り、第三、第四のタゴ事件は後を絶てないでしょう。
【青森県住宅供給公社横領事件=アニータ事件】
「県民の生活安定に寄与する」とうたう青森県住宅供給公社(理事長・山口柾義副知事)で10月31日、職員による14億円2600万円もの巨額の着服容疑が明らかになった。
同日、告訴されたのは同公社経理担当主幹の千田郁司(ちだ・ゆうじ)(44)=青森市浪館前田二丁目=で、同公社で約15年間もの間、経理一筋で担当していたベテラン職員。
監査を行う監事に県の佐藤立治(りゅうじ)出納長らが名前を連ねていながら、国税当局に指摘されるまでまったく不正に気づかなかったという、ずさんな管理体制。しかも、ちょうど一年前には、県土地開発公社の職員が収賄罪で逮捕されている。相次ぐ不祥事に、公社を監督すべき木村守男知事は「責任は私にもある」と話したが、時既に遅い。
事件の発覚は、10月23日の仙台国税局による公社の税務調査の際に、金銭出納長や通帳、伝票などの照合で一致しないものがあった為、24日に国税庁の職員が千田に説明を求めた。
しかし、千田は説明できず、10分ほどで退席した後、「県庁に行って来る」と言って外出したまま行方不明になったという。
公社からの告訴を受けて青森署は千田を全国に指名手配し、11月8日、容疑を裏付けるため、公社や千田の自宅を家で捜索した。公社が調べた8年間14億円余りの着服のうち、逮捕状の容疑は今年の数回分、数千万円について。海外に逃亡した可能性も残ってはいるが、同署のこれ迄の調べでは、出国記録に名前は見つかっておらず、国内にいる可能性が高いという。
青森市新町二丁目にある県住宅供給公社には、11月8日午前11時10分頃から、青森署の捜査員4人が入り、家宅捜索をした。捜査員は裁判所の捜索差押許可状を公社側に提示した上で、千田の机とロッカーを調べた。
同公社によると、今回は書類の押収や、職員からの事情聴取はなく、千田の私物だけを対象に捜索が行われたという。千田のロッカーにはほとんど何も入っておらず、捜査員は午後1時半過ぎ、持参したアタッシェケースなどを手に持つだけで公社を後にした。捜索の間、千田の隣机の職員らが会議室に移動していたほかは、業務は通常通りに行われた。
同公社の伊藤宏専務理事は「特に混乱はなかったが、今日家宅捜索に入ることは知らなかったので、職員にも動揺がないとは言い切れない。一日も早く本人の身柄が拘束され、事実関係が明らかになってほしい」と話した。
<長期配置>
同公社の経理担当は3人で、一般会計は千田と別の担当者がいたが、実際には千田が一人で取り仕切っていた。
千田は青森市内の高校を卒業後、埼玉県の私立大学に進学。80年3月に卒業、81年に公社の臨時職員、82年4月に正職員になった。分譲と企画を各一年間担当した以外は一貫して会計畑を歩んだ。企画担当時も決算期には経理の手伝いをするなど、経理の専門家として信頼も厚かった。
職場の上司は「目立たない、おとなしい人」と口を揃える。千田は入社後19年経つが、うち17年間は経理を担当していた。他の職員の目が行き届きにくくなっていたことも、事件の一因といえる。
伊藤専務理事によると、派手な生活でもなく、自転車通勤だった。年に数日欠勤することはあったが、大きな問題を起こしたことはなかったとされている。
千田が青森市に所有する戸建住宅と、親族名義の土地は90年に金融機関から1410万円の抵当権を設定されている。
<公印管理のズサンさ>
事件発覚で、おざなりな内部監査や理事長印の管理など、ずさんな管理体制が原因として浮かび上がった。横領額は次第にエスカレートしているにもかかわらず、公社が見抜けなかったために巨額な横領額に膨れ上がった。記者会見した山口理事長は「事件を深刻に受け止め、深く反省し、県民にお詫びする」と頭を下げたが、事件の成り行きについては「警察の捜査に任せる」と説明し、事態の深刻さに本当に気づいているのかさえ疑問だ。
千田は金融機関の預金払戻請求書に理事長印を勝手に押し、金を引き出し続けていた。理事長印は、夜間は金庫に保管しているが、日中は金庫は開いたままで、机の上に理事長印が転がっていたこともあった。
<内部監査、残高帳尻だけ>
公社は年度末、年一回の内部監査は出資している県の出納長や8市の幹部ら2、3人が公社職員の助けを借り、決算期の3月に実施してきた。
しかし、「書類が膨大」との理由から金の個別の流れは追わず、全体の残高を示す金銭出納帳と預金残高の帳尻が一致していることだけを確認して終わっており、金融機関の支払明細書や取引を証明する書類などとの突き合わせをしていなかった。
また、千田に経理を任せきりで、監督すべき県も抜打ち監査などをしていなかった。県土整備部の山元隆部長は「経理内容等を細かく見るのは職務上難しい」と話し、具体的なチェックをしていなかったことを認めている。
公社の伊藤専務理事は「公社の会計は企業と違って特殊で複雑だから(慣れている千田を)重宝がってしまった。監査体制や理事長印管理に不備があったとの批判は仕方ない」と認めた。
ちょうど1年前には元県土地開発公社の職員が収賄容疑で逮捕される事件が起き、木村守男知事が綱紀粛正の徹底を指示したが、この時期も千田は横領を続けていたことになる。
公社の調査によると、横領回数と額は、次のとおりで、犯行を重ねるごとに回数、金額とも増えていることが分かる。
▽94年度 8回 200万円
▽95年度 6回 1400万円
▽96年度 3回 1100万円
▽97年度 17回 1億8400万円
▽98年度 25回 3億3200万円
▽99年度 19回 2億5700万円
▽00年度 33回 4億7100万円
▽01年度 10回 1億4400万円
<事務費という名の行政用語>
千田は口座から現金を引き出す際、銀行の預金払い戻し請求書に理事長印を押し、窓口に出して、「事務費振替支出」の名目で公社の5つの預金口座から1回につき1000万円前後を引き出していた。理事長印は事務室のキャビネット内の金庫に保管され、職員が押印するときは部長らの決裁が必要だが、金庫のカギは勤務時間内には開けられていて、管理はずさんだった。
千田はパソコンに架空の支払金額を打ち込み、帳簿の金額と通帳の金額が同じになるように操作していたという。
<目立たなく大人しい>
「目立たない、おとなしい人」「数百万円のブランド時計を現金で買って行った」。
業務上横領容疑で全国に指名手配された千田は、仕事にまじめに取り組む半面、夜には高級クラブに行ったり、休日に女性同伴で数百万円もする腕時計を現金で買ったりと、全く違う姿をみせていた。巨額の金を何に使い込んだのか。
千田は地味なスーツで自宅から自転車で通勤していたという。口数は多い方ではなく、同僚と飲みに行くこともなかったそうだ。仕事は黙々とこなし、上司から仕事を頼まれると、すぐに資料などを出す。公社の経理には精通していた。伊藤宏専務理事は「職場外で目立つことをしていれば噂が聞こえてくるが、そういう話はまったくない」と言う。
自宅近くの人たちは、全く違う証言をする。「よく飲みに行っていたようだ。帰宅は遅かった」「地味ではない。よく話をする人」
千田容疑者が利用していたタクシー会社も「繁華街へよく乗せて行った」という。「出かける前に店に花を贈っていた」という証言もある。
千田容疑者がよく訪れていた高級クラブによると、月に2、3回、ほとんど一人で来ていたが、たまに別のクラブの女性を連れてきたという。
今年7月、市内の高級輸入品店で、女性とともに数百万円の腕時計を購入。また、9月には約80万円のハイビジョンテレビを購入するなど、派手な買い物ぶりが目撃されている。いずれも現金で支払った。昨年12月には「クリスマスプレゼントにする」といってネックレスふたつを約13万円で購入している。
↑青森駅前から元職員の自宅のある浪館前田地区に向かう道。元職員は毎日この道を自転車で新町の公社に通勤していたが、帰宅後、道沿いにある中央タクシーに電話して配車してもらい、新町の隣の本町の高級クラブに豪遊に出かけていた。週末には、タクシーで、浅虫温泉方面に魚釣りによくでかけていたという。↑
<責任の重さに疎い行政>
公社は千田を近く懲戒免職にし、山口理事長ら監督者も処分する方針だ。弁護士と相談の上、損害賠償請求訴訟も起こす方針というが、何より急務なのは管理体制の見直しだ。
公社側は01年10月31日の記者会見で、不正の再発防止策として、来年度統合される別の二つの公社との総務課の一本化と相互チェック化、公認会計士など第三者による監査実施などを挙げた。
しかし、千田が着服したとみられる額は、同公社の単年度収入の3分の1を超える。今後の事業に大きな影響が出る可能性があり、監督する立場の県も含め、ずさんな管理を放置した幹部の責任が問われる。
同公社理事長の山口柾義副知事は「昨年の県土地開発公社の事件を受けて、公社職員の綱紀粛正を徹底していたさなかに県民の信用を裏切り、申し訳ない。指導監督する立場の理事長である私をはじめ、役員らの処分も厳正に対処したい」と謝罪した。
また、県出身の伊藤宏専務理事は「チェック体制のずさんさなどに対する批判は免れえない。公社事業に大きく影響が出ることが懸念されるため、一日も早く正常の状態に戻すことが我々の責任だ」と述べた。
<知事が謝罪>
県住宅供給公社の職員による巨額着服事件について、木村守男知事は01年10月31日夕、平内町でマスコミの「最終的な監督責任は知事にあるのではないか」という質問に答え、「私にもある。再発防止などにも並行して努力しなければならない。申し訳なく思っている」と謝罪。
これに先立ち、木村知事は31日午前、県庁前で記者団に対し、「専門家に協力してもらい、事実関係を確立して、責任体制をとらなければならない」と述べた。第三者の協力も視野に入れながら、事実関係の解明と責任問題に厳正に対処する方針を示したものだ、というが有言実行が問われる。
<海外とのつながり>
横領事件で告訴された千田の自宅は、青森市内の閑静な住宅街の一角にある2階建ての一軒家。事件公表の10月31日午後には、窓にはカーテンが引かれ、新聞受けには新聞が一部入ったままで、誰もいない様子。
着服したとされる額は、4年前にチリ人女性と結婚したころから急激に増え、億単位になった。青森署も数千万円規模のチリヘの送金を確認しており、千田は年に数回、チリに出かけている。近くの人は「チリに自宅を建てた」と自慢話を聞いた。2000年9月にはチリの親戚らしい人たちを招き、十和田湖へ観光していたという。
千田は年20日の有給休暇を使い切ったほか、97年度に13日、98年度13日、99年度26日、00年度4日、今年度は2日、欠勤した。病気やチリ旅行を理由にしていたという。
↑元職員がアニータと住んでいた住居は、今はKさんが公社から買い取って住んでいる。外壁の色を塗り替えただけで、あとは当時のまま。付近の人は、みなアニータ事件のことをよく知っていた。↑
<配偶者の関与>
指名手配中の千田は現在行方不明。千田は10月24日、国税当局から伝票のない金の出し入れについて説明を求められて「書類を整理して改めて話したい」と答え、翌日説明することを約束したが欠勤。さらに欠勤翌日の10月26日朝、電話で自宅にタクシーを呼び、一人で自宅から青森空港に向かっていた。千田が利用したタクシー会社によると、千田は日ごろから週に数度、同社のタクシーをチケットを使って利用していた。大きな荷物を二つほど持っており、青森空港へ向かう車内では殆ど喋らなかったという。
公社側は10月26日から29日までの青森空港発の国内、国際線の搭乗者リストを航空会社を通じて調べてもらったが、千田の名前はなかったという。
青森署では公社職員や関係者から事情を聴くとともに、千田が海外に渡航している可能性もあるとみて、各地の入国管理局に協力を依頼するなどして行方を探している。公社は近々、本人不在のまま、千田を懲戒免職処分にする方針だ。
千田は95年ごろ前妻と離婚後、97、98年頃にチリ人の女性と結婚した。結婚直前は青森市内の自宅で同居していたが、チリで結婚式を挙げた後、女性はチリで暮らしていたという。
千田主幹は「チリに自分名義で建てた家がある]と話しており、少なくとも年に2、3回はチリに渡航していたという。女性もしばしば来日し、横領発覚前後の10月下旬にも、2人でタクシーに乗って外出するところを近所の人が見ている。
横領した金の行方との関連を青森署が調べている。97年から年4~1回、「チリのサンティアゴに親族に会いに行く」と届け出て長期休暇を取っている。青森署は、千田が海外に向かった可能性もあるとみて、各地の入国管理局に協力を依頼して出国リストに名前がないかどうかを調べるなど、行方を探している。
<行政のドロナワ対応>
巨額横領事件を受け、山口理事長や伊藤沢専務理事ら公社幹部は10月31日、記者会見した。山口理事長は冒頭で陳謝の「理事長コメント」を一気に読み上げ、後は報道陣の大半の質問を伊藤専務理事に任せたが、「天下りが無責任体制を招いているのでは」との質問が飛ぶと、「民間出身者は給料が高くつく。県職員出身者は月20~30万と安く雇える」と強気ともとれる姿勢をみせた。
ずさんな内部監置や監督責任への質問は一時間半以上続き、伊原専務理事は「予想もつかなかった」と言葉を詰まらせる場面もあった。
事件を受け、青森県県土整備部は11月1日、指導権限のある他公社の専務理事を緊急に県庁に集め、山元隆部長が再発防止に向け、(1)外部の会計専門家による経理チェック、(2)公社間の人事交流、(3)公印管理の徹底――の3点を求めた。
外部の経理チェックを税理士に委託していた県下水道公社と県建設技術センターに対しては、甘い内部監査が横領事件の要因だった点を踏まえ、税理士や公認会計士を雇って不正がないか調査するよう要請した。
出席したのは県下水道公社、県道路公社、県土地開発公社、県建設技術センター、県フェリー埠頭(ふとう)公社の5公社。県住宅供給公社には「他の出席者が発言し難くなる」という理由から、出席を求めなかった。
県住宅供給公社は14億円余を横領したとされる千田に経理を任せ、殆ど職場を異動させなかった。事件の一因とも言える為、県は公社間の人事交流や、3年をめどにした人事異動を求めた。02年度からの実施を目指す。
住宅供給公社を指導する県建築住宅課が、公社の伝票を調べる等の経理チェックをしていなかった点について、山元部長は「公社では1カ月や1年に伝票が何枚出て、県の担当課が何枚のチェックをできるか考えてみなければならない」と述べ、指導法を改めるという。「県による公印管理や人事異動の実態調査が必要ではないか」との指摘に対しては、公社の独立性を理由に必要ないとの考えを示した
<管理の甘さ>
県は同公社に550万円を出資しているため、指導監督する権限がある上、経理もチェックすることができたが、副理事長の山元隆・県県土整備部長は「担当の建築住宅課は他の仕事に忙しく、帳簿を見ていなかった」と説明し、監督の甘さを認めた。
山ロ理事長は県の責任について「副知事としてではなく、公社理事長としてこの場(記者会見)にいる」と質問をかわそうとしたが、更に追及されると「県政を統括する者として(木村守男知事や自身の)責任はある」と語った。
県が進める県出資法人の統廃合計画で県住宅供給公社は2002年4月、県道路公社と、県土地開発公社の総務・経理部門と統合する予定。組織をスリム化し、業務の効率化を図るのが狙い。山口理事長は「統合は予定通り進める」と説明し、事件を受けて計画を変更する考えがないことを明らかにした。
<自浄作用マヒ>
同公社を舞台に平成6年4月から今年10月まで7年以上にも及んだ今度の事件は、99年に発覚した県税事務所職員の着服事件、2000年に発覚した県土地開発公社の職員の収賄事件と合わせ考えると、公社とこれを監督すべき県の自浄能力のなさを示している。
公社は01年10月31日の記者会見で、流用の発覚が遅れた事情をいくつか挙げた。(1)主幹以外に経理を熟知した職員がいなかった。(2)理事長印の厳重な保管は業務に支障を招く。(3)経理にかかわる書類が膨大ですべてのチェックが難しい、などだった。
しかし、これらの事情釈明は「経理の人材を育てなかった」「公印は放置状態に近かった」と言い換えられる。
また、仙台国税局の指摘で、公社が最初に調べた口座の流用は、流用全体の121件のうち、わずか6件。それでも流用の容疑を確認できた。経理の全書類の監査は難しいにせよ、何件かを抽出した抜き打ち検査で、流用を早急に防止できたはず。
少なくとも、土地開発公社の汚職事件の際、各公社を監督する県は公社を一斉に検査すべきだった。汚職の温床となったのは、一人の職員が特定の仕事を独占し、不正をチェックできない公社の体制そのものだった。
しかし、2000年度の監査は通常の年次監査で終わり、汚職事件を受けた措置は公社幹部ヘの注意指導のみだったという。’汚職事件のあった2000年に千田の流用額はピークに達した。再発防止の為に、木村守男知事は法律に定められた検査・監督権を行使し、自身の責任も含め、毅然とした態度で臨むかどうか、注目される。
<綱紀粛正、掛け声だけ>
この事件で、山口副知事は11月2日、青森県職員が派遣されている県17法人の常任理事を県庁に招集、職員の綱紀粛正と再発防止策の徹底を求めた。
山ロ副知事はこの中で、「昨年、元県土地開発公社職員が収賄容疑で逮捕され、公社と職員の綱紀粛正を強く求めたが、再び発生した今回の事態は県民の信頼を著しく傷つけた。公社と職員の倫理の向上に全力を挙げて取り組む必要がある」と訓示。続いて県住宅供給公社の伊藤宏専務理事が事件の経緯を説明、陳謝した。また、県社会福祉事集団の小林英子理事長が各法人を代表し、「緊張感を常に持ちながら、執行管理体制に万全を尽くしていく」と述べた。
さらに、公社の業務上「根本的に守るべきこと」として、(1)理事長印など公印の厳正監視。(2)経理担当者を固定せず、複数の担当者で監視し合う体制を取る。(3)通帳、伝票などで随時内部点検を実施し、常に監督すること。などが示された。
<住宅供給公社とは>
01年3月、青森県内の住宅分譲などを手がける青森県住宅供給公社の経営をチェックする「県公社等経営委員会」が「分譲事業の縮小・廃止を含めた抜本的見直しが必要]だという評価を下した。同公社は1966年に設立。出資者は県と県内8市で、出資比率は県が55%、8市が45%。住宅団地の用地買収や宅地の造成、分譲など様々な事業を展開してきた。
青森市郊外に広がる「戸山住宅団地」。八甲田山に連なる山麓に、東京近郊の住宅地を思わせる、整った街並みが続く。公社が手がけた住宅団地では最も大規模なもので、広さは約136ヘクタール。1970年代前半から用地買収が始まり、80年に分譲を開始、現在団地を含め、約2千5百世帯が生活する。公社では、分譲は99%以上完了している、としている。
<増え続ける売れ残り宅地>
しかし、同住宅団地の最も奥には、98年から公社が売り出す宅地分譲地が6区画ある。だが、予約済みはまだ1件のみ。今は辺り一面に雑草が繁茂する。各区画は約700-1200平万メートルと広く、1坪(3.3平方メートル)12万5千円で売り出した。だが1区画2500
-3000万円前後の価格では買い手がつかず、今年4月、4割値下げして売り出した。値下げで採算割れし、コスト意識も問われるが、公社では「もともと法面で、造成して売った方が得策だった。収支は戸山住宅団地の分譲全体で考えており、採算割れとは言えない」と主張する。
「設立時は公社への県民のニーズ、公社の役割とも大きかったが、宅地造成・住宅関連業界は発展している。住宅分譲の不振はもはや制度的なもの」―検討委の提言にはそう害かれている。公社の昨年度までの販売実績は、97年の経営計画の6割止まり。宅地在庫の区画数も97年度320、98年度382、99年度486、00年度517と増え続ける。
それでも、公社は宅地分譲ヘの意欲を失っていない。伊藤宏専務理事は「検討委の提言は重く受け止める。量的伸びが鈍化しているのは確か」としたうえで、『ダム建設に伴う移転者などの住宅団地造成など、政策的に必要な部分や民間ベースで投資が促進されないものに限定して、市町村と連携して進めたい」「中心市街地の活性化や、高齢化社会に適応した住宅づくりも進めたい」と話す。
↑この専務理事の当時のコメントのように、現在の青森駅前通りは、地方でよく見られるシャッター通りとは異なり賑わいを見せる。冬でも歩ける街づくりを進めた結果、中心部にシニア向けマンションができ、居住人口も回復してきている。一方、山間地の過疎化に拍車がかかる。↑
<問われる独自の役割>
だが、民間が進出しない場所は、採筧的に厳しい。民間の不動産関係者は「公社はコストヘの意識改革が必罵若手を中心にもっと柔軟になるべきと感じるが、上層部がどこまで理解しているか」とコメントしている。
経済が成熟して民間が力をつけた現在、『公社ならではの役割』という公社の存在意義そのものが、問われている。
<虚しく響く公社の謝罪文>
同公社では、01年11月2日に県民に対して「当公社職員の業務上横領容疑に対する県民の皆様へのお詫びについて」と題する次のような謝罪文を出している。
10月31日、当青森県住宅供給公社主幹千田郡司を業務上横領容疑で青森警察署に文書で刑事告訴しました。
このことは、去る10月23日からの仙台国税局の税務調査が契機となって明らかになったものであり、当公社で関係書類を改めて調査したところ、現時点での被害額は、平成6年度から平成13年度までの8年間で121件、約14億2000万円となっています。
当公社としては、このような巨額の横領事件の発生を未然に防止できなかったことを深刻に受け止め、深く反省し、県民の皆様に心からお詫び申し上げます。
公社職員の綱紀粛正については、これまでも徹底してきたところですが、これにもかかわらず、今回のような不祥事件が発生したことは当公社に対する県民の信頼を裏切るものであり、県民の皆様に申し訳なく思っております。
今後、警県当局において詳細な捜査が行われることになりますが、当公社としては、事件を起こした職員を懲戒免職処分とすることとし、手続きを進めております。
また、事実関係が明らかになった段階で、指導監督する立場の理事長である私をはじめ、関係職員の処分についても厳正に対処して参ります。
また、事実関係が明らかになった段階で、指導監督する立場の理事長である私をはじめ、関係職員の処分についても厳正に対処して参ります。
併せて、今回の事件の要因、その背景等あらゆる角度から検証を行い、再発防止のために抜本的な改革を図り、チェック体制強化はもちろん、公社職員として職責を全うする自覚を持ち、公社の信頼回復のため全力を挙げて取り組んで参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
平成13年11月2日 青森県住宅供給公社 理事長 山口柾義
【安中市土地開発公社巨額横領事件=タゴ51億円事件】
こちらは安中市民だけにはお馴染みの安中タゴ事件。平成7年5月18日、安中市土地開発公社職員の多胡邦夫が、51億円あまりの公金を金融機関や安中市から煽し取り、そのうち14億円余が捜査の結果も未だに使途不明にされたままになっている史上空前、前代未聞の巨額詐欺横領事件として、全国に安中市の恥を轟かしています。
監査を行う監事に、安中市の役人OBや市議会議員が名前を連ねていながら、15年間も同一職場配置しておいたタゴが社会教育牒に異動になってから1ケ月半も経過するまで、まったく不正に気づかなかったという、ずさんな管理体制。しかも、その2、3年前には、タゴの同一職場配置が長すぎるということで、公社理事会で指摘がなされたにもかかわらず、直後の庁内人事異動で、小川勝寿市長(当時)らが「そのまま置けや」と留任させた経緯があった。
市民がタゴ事件を知ったのは、6月3日の新聞報道だが、安中市は「タゴが銀行相手に勝手にやったこと。市や公社に損害はない」の一点張り。公社内部で事件が発覚してから、市民は、膨大な資料が市役所の関係者らにより、市役所から持ち出され廃止処分されたことを知っている。だが、行政は事件の真相解明について「司直に任せてある」と話すだけで、事件の詳しい情報は未だに安中市から市民に伝えられていない、という異常な事件だ。
<理事長印と長期配置>
平成7年6月6日に逮捕された同公社主査の多胡邦夫(当時43)は、同公社で約15年間もの間、公共用地の取得事務一筋で担当していた「有能」で「仕事のできる」ベテラン職員。事務担当は3人で、多胡と別の担当者2名がおり、また上司には「経理に詳しい」次長がいたにもかかわらず、不思議なことに市・公社では、実際にはタゴ主査が一人で取り仕切っていた、と強調。タゴは、群馬銀行安中支店に平成2年4月16日に開設した特別口座から現金を引き出す際、銀行の預金払い戻し請求書に理事長印を押し、窓口に出して、「事務費」の名目で1回につき1000万円前後を現金で引き出していた。理事長印は事務室のキヤビネット内の金庫に保管され、職員が押印するときは次長や、事務局長、理事長(=市長)らの決裁が必要だが、金庫のカギは勤務時間内には開けられていて、管理はずさんだった。
タゴは、上司や市幹部、そして市議らと謀り、公社の各年度の事業予算を毎年水増ししておき、その額で市議会に債務保証を認めてもらい、その後、補正予算で減額修正しても、その結果をわざと銀行に知らせず、その差額を超えない程度に、群銀から不正融資を受けて、その分を安中市土地開発公社特別会計口座と称するウラロ座に振り込ませ、ここから、巨額の公金を引き出し、自分の保身の為に役に立つ輩に金品を配っていた。
群銀からの不正融資の際には、パソコンに実際に水増し対象の事業名を銀行宛の借入依頼書や市財政課宛の債務保証依頼書に適当な借入金額を打ち込み、表口座の金額と通帳の金額が同じになるように操作していた。また、タゴは、ウラ口座からのカネを引き出す際、予め群銀から一冊単位でもらっていた銀行の預金払戻請求書の束に、予め理事長印を押し、打出の小槌よろしく、銀行の窓口に出していた。
<任せきり>
公社は年度末、市役所OBや市議らが内部監査をしているが、帳簿の残高と銀行口座の残高だけを見て、金融機関からの借入残高や支払明細書や取引を証明する書類などとのつき合わせをしていなかった。また、市・公社は、タゴに経理を任せきりだったとしているが、公社の事業拡大により、平成2年4月から「経理に明るい」上司が赴任し、タゴの他にスタッフを2人揃えるなど、業務体制を強化していたわけで、むしろ、公社事業そのものを聖域化或いは伏魔殿化して、監督すべき安中市や市議会も抜き打ち監査など一切していなかった。いまだに、このあたりの事情について、行政からの釈明さえない。市民の会では、裁判を通してこの経緯を解明しようとしているが、司直の壁に阻まれ、難航している。
平成7年5月17日に群銀から、債務残高が10億円余りではなく、39億円にも上ることが群銀から公社に伝えられ、タゴの関与が疑われ事件が明るみに出た、と公社の上司や事務局長は事件発覚後の経緯を警察で供述したが、その後、同年5月31日にタゴを懲戒免職にするまでの2週間の間に、前記のような証拠隠滅が組織的に行われた。
タゴは、平成7年5月末の一時期、小諸方面に行方をくらませようとしたり、自殺を計ったりした、と言われているが、5月29日の日曜日には、配偶者に経営させている骨董喫茶で客の相手をしており、すでに事件の発覚を知っていたにもかかわらず、余裕棹々だったことが知られている。また、公社の上司は常にタゴとコンタクトして市役所の情報をタゴに伝えており、タゴは行方をくらます必要は全くないことを悟っていた。青森県の事件の場合、住宅供給公社は弁護士と相談の上、早期に損害賠償請求訴訟を起こす方針を取っているが、タゴ事件の場合、公社理事長の口利きで東京から呼んだ弁護士2名と相談の上、市・公社には損害がなく、タゴが勝手に銀行を騙した、というシナリオのまま、民事裁判で平成10年12月9日に和解で24億5000万円を群銀に支払うハメになっても、まだタゴを損害賠償請求訴訟にかけず、平成11年3月に、市政をひらく安中市民の会が損害賠償請求訴訟を提起してからあわてて公社が訴訟を起こす始末。
<市にも県にも責任>
公社側は事件後の記者会見で、不正の再発防止策として、公認会計士など第三者による監査の実施などを挙げた。だが、中島市長によって起用されたのは、第三者というには程遠い人物だった。
タゴが着服した額は、同公社の単年度事業規模の3倍をはるかに超えていた。群銀にも重大な落ち度があり、実際の損害33億円余りのうち9億円ほど相殺されて前記の和解金の支払いという形で、公社を通じて安中市から出てゆくことになった。安中市は、市民の会が提起した住民訴訟で、あいかわらず、市には損害がなく、公社が単独で100年以上かけて弁済していると抗弁し、前橋地裁も、安中市の言い分を追認した形の判決を言渡している。
同公社を監督する群馬県の地方課では、業務マニュアルを作って、県内の土地開発公社に配布しただけで、誰一人として安中市土地開発公社に立会い検査をしたものは居なかった。いまでも、県地方課では、タゴ事件は他人事だと見なしている。
青森県知事が、事件発覚直後の記者会見で。「最終的な監督責任は私にもある。再発防止など努力しなければならない。専門家に協力してもらい、事実関係を確立して、責任体制をとらなければならない」と述べているが、これも一過性の答弁であり、そのうち他のニュースに埋もれて風化するのをジッと待つ戦略だ。今後の青森の経過に注目したいが、マスコミがすぐに取上げなくなるから、今後の経緯を見極めるのは困難だ。
<配偶者の関与>
横領事件で告訴されたタゴの自宅は、安中市役所の真ん前にあり、税務課の窓からすぐ前方に見える。金満ぶりがつとに知られ、市役所の七不思議とまで言われながら、安中市の税務課がタゴの所得について、誰も疑いを持たずに税務調査をしようとしなかった。安中市民は、こうした公務員ならでは、の特典が全国各地で今も続いていると考えている。01年初めの土佐山村の事件も、今度の青森県公社事件も氷山の一角だ。
タゴの刑事裁判中、タゴの配偶者は、公社の上司と一緒に裁判所の法廷の傍聴席に来ていた。タゴの刑事裁判の弁護人は高崎の高名な弁護士で、タゴが逮捕される直前に弁護士らと話をつけたのはタゴの配偶者だった。また、タゴを告訴する方針について、市役所の考えをタゴとタゴの配偶者に伝えたのは、公社の上司だった。
タゴは、事件発覚後から逮捕される直前まで、政治的に影響力を行使できる人物のところに何度か通っている。こうした冷静な行動の背景には、やはり男性よりピンチに強い配偶者の存在とアドバイスがあるに違いない、とする見方もあるが、説得力のある見解だ。
<自浄作用マヒ>
市土地開発公社を舞台に13年間にも及んだ職員の着服事件は、その当初から犯行について察知し得る場面が何度もあった。昭和57年の監査報告で忽然と消えた準備金を承認したずさんな監査。デタラメな事業計画で水膨れさせた借入限度額の内容を全く検討せずに承認した市・公社幹部と市議会の無責任。公社とこれを監督すべき市・県の自浄能力のなさはこうした対応からも読み取れる。
市・公社は事件発覚後の記者会見で、横領の発覚が遅れた事情をいくつか挙げた。(1)タゴ以外に経理を熟知した職員がいなかった。(2)理事長印の厳重な保管は業務に支障を招く、(3)経理にかかわる書類が膨大ですべてのチェックが難しい、などだった。
しかし、これらの事情釈明は「経理の人材を育てなかった」「公印は放置状態に近かった」と言い換えられる。
おそらく、安中市の土地開発公社の内情は、以前と余り変わっていないに違いない。タゴが居なくなっても、公社の存在は利権を継承しているからだ。群銀への和解金支払は、群銀から公社が借入れ、その債務保証を安中市が行っている。住民からの税金を原資にする行政がこれほど公金の扱いと、使途についていい加減に考えているか、がよく分かる。
少なくとも、これだけの大事件をおこした土地開発公社だから、安中市はいったん公社の全てを清算して、ゼロからスタートすべきだった。汚職の温床となったのは、一人の職員が特定の仕事を独占し、不正をチェックできない公社の体制そのものだったからだ。しかし、事件から6年半経過した現在、タゴ事件で名前の挙がった関係者が復帰を続々と果たしていることから、事件の風化を防ぐ手立ては市民の会による住民運動の継続が頼りだ。
<海外送金?>
青森の事件の主犯は、海外に逃亡している可能性が強いという。タゴの場合も、海外との接点があった。ハワイとサイパンにリゾートマンションの会員権を特っており、休暇を取って、家族ぐるみでなんども渡航しているからだ。その他、骨董を買いに中国にも渡航しているが、不思議なことに、ハワイやサイパンヘの渡航記録は刑事記録に載っているが、その他の渡航については、載っていない。タゴと親しい人物が一緒に中国に行って行動を共にしているはずだが、警察の調べで当然そのことが調査されているのに、刑事記録には見当たらない。よほど社会に影響の大きい人物がタゴの世話になっていたようだ。群馬県警は、タゴが海外に渡航したことを掴んで外務省の入国管理局に調査依頼していたが、その結果は不明のままだ。
<第三、第四のタゴ事件>
行政の不祥事があるたびに、「厳正に」「抜本的な改革」「全力を挙げて」「綱紀粛正」「再発防止策」「職員倫理向上」「執行管理体制強化」抜本的改革」などの言葉を連ねて行政が住民ヘのポーズをとる。だが、多くの場合、実効のある結果に反映されないのが実情だ。
タゴ事件でも、公社の業務上「根本的に守るべきこと]として、(1)理事長印など公印の厳正監視。(2)経理担当者を固定せず、複数の担当者で監視し合う体制を取る。(3)通帳、伝票などで随時内部点検を実施し、常に監督すること―などが示されたが、肝心の真相解明と責任の所在明確化と真の再発防止策は不問に付されたままだ。
幸い、安中のタゴ事件では市民団体の粘り強い活動が続いている。このような住民活動が青森県でも誕生するだろうか・・・。
【ひらく会情報部】
青森県住宅供給公社の巨額横領事件はアニータ事件として有名ですが、安中市土地開発公社の巨額詐欺横領事件は、旧安中市民の間ではタゴ51億円事件として語られていますが、なぜかマスコミには、あまり取り上げてもらえませんでした。
わが国の「痴呆」自治体振りを象徴するこの二つの事件を比べた記事を、当会がタゴ51億円事件が公表された後、約11年間にわたり発行してきた安中市民通信「まど」第71号2001年11月20日の5ページから10ページにかけて特集したことがあります。
青森県のアニータ事件の現場写真を見ながら、二つの事件の共通性と相違性をじっくり見極めていただきたいと存じます。
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【較べてみれば】
青森県住宅供給公社アニータ事件VS安中市土地開発公社タゴ事件
↑200店以上もの飲食店がひしめき合う青森市の歓楽街、本町。かつては問屋町だったが、郊外に問屋団地ができて移転したため、そのあとに飲食店が増え始めた。県庁のすぐ近くで、元職員にとっては人の目が気になるところだが、なぜか誰にも気付かれなかった。↑
↑青森市街図。元職員の自宅は右上。青森駅が右下にあり、ほぼ中央にあるのが県庁。すぐ左に公園があり、公園のすぐ下にある2つのビルの左側が県合同ビル。この8階に住宅供給公社がある。そこから左に2分も歩けば本町の歓楽街。青森駅前から本町にかけては、戦時中空襲で焼失したため、都市計画が行き届いている。↑
■やっぱり、また出た! 青森県住宅供給公社で2001年(平成13年)10月31日に発覚した巨額横領事件のニュースを聞いて、安中市民はすぐにこの事件が第二のタゴ事件だと直感しました。「公社」を舞台に、「有能な」職員が「公印」を自由に使って、「14億円以上横領」していたのに、「監査」で分からなかった、という報道は、まさに安中のタゴ事件と余りにも酷似しています。
案の定、その後の報道で、タゴ事件との類似性がさらに顕著であることが判明。管理のずさんさを指摘されても、その場限りの陳謝で済ませ、真相解明と責任の明確化、実効ある再発防止策をとらないで事件に蓋をしようとする体質は、いまだに各地の行政に蔓延っていることがわかります。こうなると全国どこにも役所と名前の付く所には、タゴがいると考えた方が良さそうで、行政の体質を根本的に変えない限り、第三、第四のタゴ事件は後を絶てないでしょう。
【青森県住宅供給公社横領事件=アニータ事件】
「県民の生活安定に寄与する」とうたう青森県住宅供給公社(理事長・山口柾義副知事)で10月31日、職員による14億円2600万円もの巨額の着服容疑が明らかになった。
同日、告訴されたのは同公社経理担当主幹の千田郁司(ちだ・ゆうじ)(44)=青森市浪館前田二丁目=で、同公社で約15年間もの間、経理一筋で担当していたベテラン職員。
監査を行う監事に県の佐藤立治(りゅうじ)出納長らが名前を連ねていながら、国税当局に指摘されるまでまったく不正に気づかなかったという、ずさんな管理体制。しかも、ちょうど一年前には、県土地開発公社の職員が収賄罪で逮捕されている。相次ぐ不祥事に、公社を監督すべき木村守男知事は「責任は私にもある」と話したが、時既に遅い。
事件の発覚は、10月23日の仙台国税局による公社の税務調査の際に、金銭出納長や通帳、伝票などの照合で一致しないものがあった為、24日に国税庁の職員が千田に説明を求めた。
しかし、千田は説明できず、10分ほどで退席した後、「県庁に行って来る」と言って外出したまま行方不明になったという。
公社からの告訴を受けて青森署は千田を全国に指名手配し、11月8日、容疑を裏付けるため、公社や千田の自宅を家で捜索した。公社が調べた8年間14億円余りの着服のうち、逮捕状の容疑は今年の数回分、数千万円について。海外に逃亡した可能性も残ってはいるが、同署のこれ迄の調べでは、出国記録に名前は見つかっておらず、国内にいる可能性が高いという。
青森市新町二丁目にある県住宅供給公社には、11月8日午前11時10分頃から、青森署の捜査員4人が入り、家宅捜索をした。捜査員は裁判所の捜索差押許可状を公社側に提示した上で、千田の机とロッカーを調べた。
同公社によると、今回は書類の押収や、職員からの事情聴取はなく、千田の私物だけを対象に捜索が行われたという。千田のロッカーにはほとんど何も入っておらず、捜査員は午後1時半過ぎ、持参したアタッシェケースなどを手に持つだけで公社を後にした。捜索の間、千田の隣机の職員らが会議室に移動していたほかは、業務は通常通りに行われた。
同公社の伊藤宏専務理事は「特に混乱はなかったが、今日家宅捜索に入ることは知らなかったので、職員にも動揺がないとは言い切れない。一日も早く本人の身柄が拘束され、事実関係が明らかになってほしい」と話した。
<長期配置>
同公社の経理担当は3人で、一般会計は千田と別の担当者がいたが、実際には千田が一人で取り仕切っていた。
千田は青森市内の高校を卒業後、埼玉県の私立大学に進学。80年3月に卒業、81年に公社の臨時職員、82年4月に正職員になった。分譲と企画を各一年間担当した以外は一貫して会計畑を歩んだ。企画担当時も決算期には経理の手伝いをするなど、経理の専門家として信頼も厚かった。
職場の上司は「目立たない、おとなしい人」と口を揃える。千田は入社後19年経つが、うち17年間は経理を担当していた。他の職員の目が行き届きにくくなっていたことも、事件の一因といえる。
伊藤専務理事によると、派手な生活でもなく、自転車通勤だった。年に数日欠勤することはあったが、大きな問題を起こしたことはなかったとされている。
千田が青森市に所有する戸建住宅と、親族名義の土地は90年に金融機関から1410万円の抵当権を設定されている。
<公印管理のズサンさ>
事件発覚で、おざなりな内部監査や理事長印の管理など、ずさんな管理体制が原因として浮かび上がった。横領額は次第にエスカレートしているにもかかわらず、公社が見抜けなかったために巨額な横領額に膨れ上がった。記者会見した山口理事長は「事件を深刻に受け止め、深く反省し、県民にお詫びする」と頭を下げたが、事件の成り行きについては「警察の捜査に任せる」と説明し、事態の深刻さに本当に気づいているのかさえ疑問だ。
千田は金融機関の預金払戻請求書に理事長印を勝手に押し、金を引き出し続けていた。理事長印は、夜間は金庫に保管しているが、日中は金庫は開いたままで、机の上に理事長印が転がっていたこともあった。
<内部監査、残高帳尻だけ>
公社は年度末、年一回の内部監査は出資している県の出納長や8市の幹部ら2、3人が公社職員の助けを借り、決算期の3月に実施してきた。
しかし、「書類が膨大」との理由から金の個別の流れは追わず、全体の残高を示す金銭出納帳と預金残高の帳尻が一致していることだけを確認して終わっており、金融機関の支払明細書や取引を証明する書類などとの突き合わせをしていなかった。
また、千田に経理を任せきりで、監督すべき県も抜打ち監査などをしていなかった。県土整備部の山元隆部長は「経理内容等を細かく見るのは職務上難しい」と話し、具体的なチェックをしていなかったことを認めている。
公社の伊藤専務理事は「公社の会計は企業と違って特殊で複雑だから(慣れている千田を)重宝がってしまった。監査体制や理事長印管理に不備があったとの批判は仕方ない」と認めた。
ちょうど1年前には元県土地開発公社の職員が収賄容疑で逮捕される事件が起き、木村守男知事が綱紀粛正の徹底を指示したが、この時期も千田は横領を続けていたことになる。
公社の調査によると、横領回数と額は、次のとおりで、犯行を重ねるごとに回数、金額とも増えていることが分かる。
▽94年度 8回 200万円
▽95年度 6回 1400万円
▽96年度 3回 1100万円
▽97年度 17回 1億8400万円
▽98年度 25回 3億3200万円
▽99年度 19回 2億5700万円
▽00年度 33回 4億7100万円
▽01年度 10回 1億4400万円
<事務費という名の行政用語>
千田は口座から現金を引き出す際、銀行の預金払い戻し請求書に理事長印を押し、窓口に出して、「事務費振替支出」の名目で公社の5つの預金口座から1回につき1000万円前後を引き出していた。理事長印は事務室のキャビネット内の金庫に保管され、職員が押印するときは部長らの決裁が必要だが、金庫のカギは勤務時間内には開けられていて、管理はずさんだった。
千田はパソコンに架空の支払金額を打ち込み、帳簿の金額と通帳の金額が同じになるように操作していたという。
<目立たなく大人しい>
「目立たない、おとなしい人」「数百万円のブランド時計を現金で買って行った」。
業務上横領容疑で全国に指名手配された千田は、仕事にまじめに取り組む半面、夜には高級クラブに行ったり、休日に女性同伴で数百万円もする腕時計を現金で買ったりと、全く違う姿をみせていた。巨額の金を何に使い込んだのか。
千田は地味なスーツで自宅から自転車で通勤していたという。口数は多い方ではなく、同僚と飲みに行くこともなかったそうだ。仕事は黙々とこなし、上司から仕事を頼まれると、すぐに資料などを出す。公社の経理には精通していた。伊藤宏専務理事は「職場外で目立つことをしていれば噂が聞こえてくるが、そういう話はまったくない」と言う。
自宅近くの人たちは、全く違う証言をする。「よく飲みに行っていたようだ。帰宅は遅かった」「地味ではない。よく話をする人」
千田容疑者が利用していたタクシー会社も「繁華街へよく乗せて行った」という。「出かける前に店に花を贈っていた」という証言もある。
千田容疑者がよく訪れていた高級クラブによると、月に2、3回、ほとんど一人で来ていたが、たまに別のクラブの女性を連れてきたという。
今年7月、市内の高級輸入品店で、女性とともに数百万円の腕時計を購入。また、9月には約80万円のハイビジョンテレビを購入するなど、派手な買い物ぶりが目撃されている。いずれも現金で支払った。昨年12月には「クリスマスプレゼントにする」といってネックレスふたつを約13万円で購入している。
↑青森駅前から元職員の自宅のある浪館前田地区に向かう道。元職員は毎日この道を自転車で新町の公社に通勤していたが、帰宅後、道沿いにある中央タクシーに電話して配車してもらい、新町の隣の本町の高級クラブに豪遊に出かけていた。週末には、タクシーで、浅虫温泉方面に魚釣りによくでかけていたという。↑
<責任の重さに疎い行政>
公社は千田を近く懲戒免職にし、山口理事長ら監督者も処分する方針だ。弁護士と相談の上、損害賠償請求訴訟も起こす方針というが、何より急務なのは管理体制の見直しだ。
公社側は01年10月31日の記者会見で、不正の再発防止策として、来年度統合される別の二つの公社との総務課の一本化と相互チェック化、公認会計士など第三者による監査実施などを挙げた。
しかし、千田が着服したとみられる額は、同公社の単年度収入の3分の1を超える。今後の事業に大きな影響が出る可能性があり、監督する立場の県も含め、ずさんな管理を放置した幹部の責任が問われる。
同公社理事長の山口柾義副知事は「昨年の県土地開発公社の事件を受けて、公社職員の綱紀粛正を徹底していたさなかに県民の信用を裏切り、申し訳ない。指導監督する立場の理事長である私をはじめ、役員らの処分も厳正に対処したい」と謝罪した。
また、県出身の伊藤宏専務理事は「チェック体制のずさんさなどに対する批判は免れえない。公社事業に大きく影響が出ることが懸念されるため、一日も早く正常の状態に戻すことが我々の責任だ」と述べた。
<知事が謝罪>
県住宅供給公社の職員による巨額着服事件について、木村守男知事は01年10月31日夕、平内町でマスコミの「最終的な監督責任は知事にあるのではないか」という質問に答え、「私にもある。再発防止などにも並行して努力しなければならない。申し訳なく思っている」と謝罪。
これに先立ち、木村知事は31日午前、県庁前で記者団に対し、「専門家に協力してもらい、事実関係を確立して、責任体制をとらなければならない」と述べた。第三者の協力も視野に入れながら、事実関係の解明と責任問題に厳正に対処する方針を示したものだ、というが有言実行が問われる。
<海外とのつながり>
横領事件で告訴された千田の自宅は、青森市内の閑静な住宅街の一角にある2階建ての一軒家。事件公表の10月31日午後には、窓にはカーテンが引かれ、新聞受けには新聞が一部入ったままで、誰もいない様子。
着服したとされる額は、4年前にチリ人女性と結婚したころから急激に増え、億単位になった。青森署も数千万円規模のチリヘの送金を確認しており、千田は年に数回、チリに出かけている。近くの人は「チリに自宅を建てた」と自慢話を聞いた。2000年9月にはチリの親戚らしい人たちを招き、十和田湖へ観光していたという。
千田は年20日の有給休暇を使い切ったほか、97年度に13日、98年度13日、99年度26日、00年度4日、今年度は2日、欠勤した。病気やチリ旅行を理由にしていたという。
↑元職員がアニータと住んでいた住居は、今はKさんが公社から買い取って住んでいる。外壁の色を塗り替えただけで、あとは当時のまま。付近の人は、みなアニータ事件のことをよく知っていた。↑
<配偶者の関与>
指名手配中の千田は現在行方不明。千田は10月24日、国税当局から伝票のない金の出し入れについて説明を求められて「書類を整理して改めて話したい」と答え、翌日説明することを約束したが欠勤。さらに欠勤翌日の10月26日朝、電話で自宅にタクシーを呼び、一人で自宅から青森空港に向かっていた。千田が利用したタクシー会社によると、千田は日ごろから週に数度、同社のタクシーをチケットを使って利用していた。大きな荷物を二つほど持っており、青森空港へ向かう車内では殆ど喋らなかったという。
公社側は10月26日から29日までの青森空港発の国内、国際線の搭乗者リストを航空会社を通じて調べてもらったが、千田の名前はなかったという。
青森署では公社職員や関係者から事情を聴くとともに、千田が海外に渡航している可能性もあるとみて、各地の入国管理局に協力を依頼するなどして行方を探している。公社は近々、本人不在のまま、千田を懲戒免職処分にする方針だ。
千田は95年ごろ前妻と離婚後、97、98年頃にチリ人の女性と結婚した。結婚直前は青森市内の自宅で同居していたが、チリで結婚式を挙げた後、女性はチリで暮らしていたという。
千田主幹は「チリに自分名義で建てた家がある]と話しており、少なくとも年に2、3回はチリに渡航していたという。女性もしばしば来日し、横領発覚前後の10月下旬にも、2人でタクシーに乗って外出するところを近所の人が見ている。
横領した金の行方との関連を青森署が調べている。97年から年4~1回、「チリのサンティアゴに親族に会いに行く」と届け出て長期休暇を取っている。青森署は、千田が海外に向かった可能性もあるとみて、各地の入国管理局に協力を依頼して出国リストに名前がないかどうかを調べるなど、行方を探している。
<行政のドロナワ対応>
巨額横領事件を受け、山口理事長や伊藤沢専務理事ら公社幹部は10月31日、記者会見した。山口理事長は冒頭で陳謝の「理事長コメント」を一気に読み上げ、後は報道陣の大半の質問を伊藤専務理事に任せたが、「天下りが無責任体制を招いているのでは」との質問が飛ぶと、「民間出身者は給料が高くつく。県職員出身者は月20~30万と安く雇える」と強気ともとれる姿勢をみせた。
ずさんな内部監置や監督責任への質問は一時間半以上続き、伊原専務理事は「予想もつかなかった」と言葉を詰まらせる場面もあった。
事件を受け、青森県県土整備部は11月1日、指導権限のある他公社の専務理事を緊急に県庁に集め、山元隆部長が再発防止に向け、(1)外部の会計専門家による経理チェック、(2)公社間の人事交流、(3)公印管理の徹底――の3点を求めた。
外部の経理チェックを税理士に委託していた県下水道公社と県建設技術センターに対しては、甘い内部監査が横領事件の要因だった点を踏まえ、税理士や公認会計士を雇って不正がないか調査するよう要請した。
出席したのは県下水道公社、県道路公社、県土地開発公社、県建設技術センター、県フェリー埠頭(ふとう)公社の5公社。県住宅供給公社には「他の出席者が発言し難くなる」という理由から、出席を求めなかった。
県住宅供給公社は14億円余を横領したとされる千田に経理を任せ、殆ど職場を異動させなかった。事件の一因とも言える為、県は公社間の人事交流や、3年をめどにした人事異動を求めた。02年度からの実施を目指す。
住宅供給公社を指導する県建築住宅課が、公社の伝票を調べる等の経理チェックをしていなかった点について、山元部長は「公社では1カ月や1年に伝票が何枚出て、県の担当課が何枚のチェックをできるか考えてみなければならない」と述べ、指導法を改めるという。「県による公印管理や人事異動の実態調査が必要ではないか」との指摘に対しては、公社の独立性を理由に必要ないとの考えを示した
<管理の甘さ>
県は同公社に550万円を出資しているため、指導監督する権限がある上、経理もチェックすることができたが、副理事長の山元隆・県県土整備部長は「担当の建築住宅課は他の仕事に忙しく、帳簿を見ていなかった」と説明し、監督の甘さを認めた。
山ロ理事長は県の責任について「副知事としてではなく、公社理事長としてこの場(記者会見)にいる」と質問をかわそうとしたが、更に追及されると「県政を統括する者として(木村守男知事や自身の)責任はある」と語った。
県が進める県出資法人の統廃合計画で県住宅供給公社は2002年4月、県道路公社と、県土地開発公社の総務・経理部門と統合する予定。組織をスリム化し、業務の効率化を図るのが狙い。山口理事長は「統合は予定通り進める」と説明し、事件を受けて計画を変更する考えがないことを明らかにした。
<自浄作用マヒ>
同公社を舞台に平成6年4月から今年10月まで7年以上にも及んだ今度の事件は、99年に発覚した県税事務所職員の着服事件、2000年に発覚した県土地開発公社の職員の収賄事件と合わせ考えると、公社とこれを監督すべき県の自浄能力のなさを示している。
公社は01年10月31日の記者会見で、流用の発覚が遅れた事情をいくつか挙げた。(1)主幹以外に経理を熟知した職員がいなかった。(2)理事長印の厳重な保管は業務に支障を招く。(3)経理にかかわる書類が膨大ですべてのチェックが難しい、などだった。
しかし、これらの事情釈明は「経理の人材を育てなかった」「公印は放置状態に近かった」と言い換えられる。
また、仙台国税局の指摘で、公社が最初に調べた口座の流用は、流用全体の121件のうち、わずか6件。それでも流用の容疑を確認できた。経理の全書類の監査は難しいにせよ、何件かを抽出した抜き打ち検査で、流用を早急に防止できたはず。
少なくとも、土地開発公社の汚職事件の際、各公社を監督する県は公社を一斉に検査すべきだった。汚職の温床となったのは、一人の職員が特定の仕事を独占し、不正をチェックできない公社の体制そのものだった。
しかし、2000年度の監査は通常の年次監査で終わり、汚職事件を受けた措置は公社幹部ヘの注意指導のみだったという。’汚職事件のあった2000年に千田の流用額はピークに達した。再発防止の為に、木村守男知事は法律に定められた検査・監督権を行使し、自身の責任も含め、毅然とした態度で臨むかどうか、注目される。
<綱紀粛正、掛け声だけ>
この事件で、山口副知事は11月2日、青森県職員が派遣されている県17法人の常任理事を県庁に招集、職員の綱紀粛正と再発防止策の徹底を求めた。
山ロ副知事はこの中で、「昨年、元県土地開発公社職員が収賄容疑で逮捕され、公社と職員の綱紀粛正を強く求めたが、再び発生した今回の事態は県民の信頼を著しく傷つけた。公社と職員の倫理の向上に全力を挙げて取り組む必要がある」と訓示。続いて県住宅供給公社の伊藤宏専務理事が事件の経緯を説明、陳謝した。また、県社会福祉事集団の小林英子理事長が各法人を代表し、「緊張感を常に持ちながら、執行管理体制に万全を尽くしていく」と述べた。
さらに、公社の業務上「根本的に守るべきこと」として、(1)理事長印など公印の厳正監視。(2)経理担当者を固定せず、複数の担当者で監視し合う体制を取る。(3)通帳、伝票などで随時内部点検を実施し、常に監督すること。などが示された。
<住宅供給公社とは>
01年3月、青森県内の住宅分譲などを手がける青森県住宅供給公社の経営をチェックする「県公社等経営委員会」が「分譲事業の縮小・廃止を含めた抜本的見直しが必要]だという評価を下した。同公社は1966年に設立。出資者は県と県内8市で、出資比率は県が55%、8市が45%。住宅団地の用地買収や宅地の造成、分譲など様々な事業を展開してきた。
青森市郊外に広がる「戸山住宅団地」。八甲田山に連なる山麓に、東京近郊の住宅地を思わせる、整った街並みが続く。公社が手がけた住宅団地では最も大規模なもので、広さは約136ヘクタール。1970年代前半から用地買収が始まり、80年に分譲を開始、現在団地を含め、約2千5百世帯が生活する。公社では、分譲は99%以上完了している、としている。
<増え続ける売れ残り宅地>
しかし、同住宅団地の最も奥には、98年から公社が売り出す宅地分譲地が6区画ある。だが、予約済みはまだ1件のみ。今は辺り一面に雑草が繁茂する。各区画は約700-1200平万メートルと広く、1坪(3.3平方メートル)12万5千円で売り出した。だが1区画2500
-3000万円前後の価格では買い手がつかず、今年4月、4割値下げして売り出した。値下げで採算割れし、コスト意識も問われるが、公社では「もともと法面で、造成して売った方が得策だった。収支は戸山住宅団地の分譲全体で考えており、採算割れとは言えない」と主張する。
「設立時は公社への県民のニーズ、公社の役割とも大きかったが、宅地造成・住宅関連業界は発展している。住宅分譲の不振はもはや制度的なもの」―検討委の提言にはそう害かれている。公社の昨年度までの販売実績は、97年の経営計画の6割止まり。宅地在庫の区画数も97年度320、98年度382、99年度486、00年度517と増え続ける。
それでも、公社は宅地分譲ヘの意欲を失っていない。伊藤宏専務理事は「検討委の提言は重く受け止める。量的伸びが鈍化しているのは確か」としたうえで、『ダム建設に伴う移転者などの住宅団地造成など、政策的に必要な部分や民間ベースで投資が促進されないものに限定して、市町村と連携して進めたい」「中心市街地の活性化や、高齢化社会に適応した住宅づくりも進めたい」と話す。
↑この専務理事の当時のコメントのように、現在の青森駅前通りは、地方でよく見られるシャッター通りとは異なり賑わいを見せる。冬でも歩ける街づくりを進めた結果、中心部にシニア向けマンションができ、居住人口も回復してきている。一方、山間地の過疎化に拍車がかかる。↑
<問われる独自の役割>
だが、民間が進出しない場所は、採筧的に厳しい。民間の不動産関係者は「公社はコストヘの意識改革が必罵若手を中心にもっと柔軟になるべきと感じるが、上層部がどこまで理解しているか」とコメントしている。
経済が成熟して民間が力をつけた現在、『公社ならではの役割』という公社の存在意義そのものが、問われている。
<虚しく響く公社の謝罪文>
同公社では、01年11月2日に県民に対して「当公社職員の業務上横領容疑に対する県民の皆様へのお詫びについて」と題する次のような謝罪文を出している。
10月31日、当青森県住宅供給公社主幹千田郡司を業務上横領容疑で青森警察署に文書で刑事告訴しました。
このことは、去る10月23日からの仙台国税局の税務調査が契機となって明らかになったものであり、当公社で関係書類を改めて調査したところ、現時点での被害額は、平成6年度から平成13年度までの8年間で121件、約14億2000万円となっています。
当公社としては、このような巨額の横領事件の発生を未然に防止できなかったことを深刻に受け止め、深く反省し、県民の皆様に心からお詫び申し上げます。
公社職員の綱紀粛正については、これまでも徹底してきたところですが、これにもかかわらず、今回のような不祥事件が発生したことは当公社に対する県民の信頼を裏切るものであり、県民の皆様に申し訳なく思っております。
今後、警県当局において詳細な捜査が行われることになりますが、当公社としては、事件を起こした職員を懲戒免職処分とすることとし、手続きを進めております。
また、事実関係が明らかになった段階で、指導監督する立場の理事長である私をはじめ、関係職員の処分についても厳正に対処して参ります。
また、事実関係が明らかになった段階で、指導監督する立場の理事長である私をはじめ、関係職員の処分についても厳正に対処して参ります。
併せて、今回の事件の要因、その背景等あらゆる角度から検証を行い、再発防止のために抜本的な改革を図り、チェック体制強化はもちろん、公社職員として職責を全うする自覚を持ち、公社の信頼回復のため全力を挙げて取り組んで参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
平成13年11月2日 青森県住宅供給公社 理事長 山口柾義
【安中市土地開発公社巨額横領事件=タゴ51億円事件】
こちらは安中市民だけにはお馴染みの安中タゴ事件。平成7年5月18日、安中市土地開発公社職員の多胡邦夫が、51億円あまりの公金を金融機関や安中市から煽し取り、そのうち14億円余が捜査の結果も未だに使途不明にされたままになっている史上空前、前代未聞の巨額詐欺横領事件として、全国に安中市の恥を轟かしています。
監査を行う監事に、安中市の役人OBや市議会議員が名前を連ねていながら、15年間も同一職場配置しておいたタゴが社会教育牒に異動になってから1ケ月半も経過するまで、まったく不正に気づかなかったという、ずさんな管理体制。しかも、その2、3年前には、タゴの同一職場配置が長すぎるということで、公社理事会で指摘がなされたにもかかわらず、直後の庁内人事異動で、小川勝寿市長(当時)らが「そのまま置けや」と留任させた経緯があった。
市民がタゴ事件を知ったのは、6月3日の新聞報道だが、安中市は「タゴが銀行相手に勝手にやったこと。市や公社に損害はない」の一点張り。公社内部で事件が発覚してから、市民は、膨大な資料が市役所の関係者らにより、市役所から持ち出され廃止処分されたことを知っている。だが、行政は事件の真相解明について「司直に任せてある」と話すだけで、事件の詳しい情報は未だに安中市から市民に伝えられていない、という異常な事件だ。
<理事長印と長期配置>
平成7年6月6日に逮捕された同公社主査の多胡邦夫(当時43)は、同公社で約15年間もの間、公共用地の取得事務一筋で担当していた「有能」で「仕事のできる」ベテラン職員。事務担当は3人で、多胡と別の担当者2名がおり、また上司には「経理に詳しい」次長がいたにもかかわらず、不思議なことに市・公社では、実際にはタゴ主査が一人で取り仕切っていた、と強調。タゴは、群馬銀行安中支店に平成2年4月16日に開設した特別口座から現金を引き出す際、銀行の預金払い戻し請求書に理事長印を押し、窓口に出して、「事務費」の名目で1回につき1000万円前後を現金で引き出していた。理事長印は事務室のキヤビネット内の金庫に保管され、職員が押印するときは次長や、事務局長、理事長(=市長)らの決裁が必要だが、金庫のカギは勤務時間内には開けられていて、管理はずさんだった。
タゴは、上司や市幹部、そして市議らと謀り、公社の各年度の事業予算を毎年水増ししておき、その額で市議会に債務保証を認めてもらい、その後、補正予算で減額修正しても、その結果をわざと銀行に知らせず、その差額を超えない程度に、群銀から不正融資を受けて、その分を安中市土地開発公社特別会計口座と称するウラロ座に振り込ませ、ここから、巨額の公金を引き出し、自分の保身の為に役に立つ輩に金品を配っていた。
群銀からの不正融資の際には、パソコンに実際に水増し対象の事業名を銀行宛の借入依頼書や市財政課宛の債務保証依頼書に適当な借入金額を打ち込み、表口座の金額と通帳の金額が同じになるように操作していた。また、タゴは、ウラ口座からのカネを引き出す際、予め群銀から一冊単位でもらっていた銀行の預金払戻請求書の束に、予め理事長印を押し、打出の小槌よろしく、銀行の窓口に出していた。
<任せきり>
公社は年度末、市役所OBや市議らが内部監査をしているが、帳簿の残高と銀行口座の残高だけを見て、金融機関からの借入残高や支払明細書や取引を証明する書類などとのつき合わせをしていなかった。また、市・公社は、タゴに経理を任せきりだったとしているが、公社の事業拡大により、平成2年4月から「経理に明るい」上司が赴任し、タゴの他にスタッフを2人揃えるなど、業務体制を強化していたわけで、むしろ、公社事業そのものを聖域化或いは伏魔殿化して、監督すべき安中市や市議会も抜き打ち監査など一切していなかった。いまだに、このあたりの事情について、行政からの釈明さえない。市民の会では、裁判を通してこの経緯を解明しようとしているが、司直の壁に阻まれ、難航している。
平成7年5月17日に群銀から、債務残高が10億円余りではなく、39億円にも上ることが群銀から公社に伝えられ、タゴの関与が疑われ事件が明るみに出た、と公社の上司や事務局長は事件発覚後の経緯を警察で供述したが、その後、同年5月31日にタゴを懲戒免職にするまでの2週間の間に、前記のような証拠隠滅が組織的に行われた。
タゴは、平成7年5月末の一時期、小諸方面に行方をくらませようとしたり、自殺を計ったりした、と言われているが、5月29日の日曜日には、配偶者に経営させている骨董喫茶で客の相手をしており、すでに事件の発覚を知っていたにもかかわらず、余裕棹々だったことが知られている。また、公社の上司は常にタゴとコンタクトして市役所の情報をタゴに伝えており、タゴは行方をくらます必要は全くないことを悟っていた。青森県の事件の場合、住宅供給公社は弁護士と相談の上、早期に損害賠償請求訴訟を起こす方針を取っているが、タゴ事件の場合、公社理事長の口利きで東京から呼んだ弁護士2名と相談の上、市・公社には損害がなく、タゴが勝手に銀行を騙した、というシナリオのまま、民事裁判で平成10年12月9日に和解で24億5000万円を群銀に支払うハメになっても、まだタゴを損害賠償請求訴訟にかけず、平成11年3月に、市政をひらく安中市民の会が損害賠償請求訴訟を提起してからあわてて公社が訴訟を起こす始末。
<市にも県にも責任>
公社側は事件後の記者会見で、不正の再発防止策として、公認会計士など第三者による監査の実施などを挙げた。だが、中島市長によって起用されたのは、第三者というには程遠い人物だった。
タゴが着服した額は、同公社の単年度事業規模の3倍をはるかに超えていた。群銀にも重大な落ち度があり、実際の損害33億円余りのうち9億円ほど相殺されて前記の和解金の支払いという形で、公社を通じて安中市から出てゆくことになった。安中市は、市民の会が提起した住民訴訟で、あいかわらず、市には損害がなく、公社が単独で100年以上かけて弁済していると抗弁し、前橋地裁も、安中市の言い分を追認した形の判決を言渡している。
同公社を監督する群馬県の地方課では、業務マニュアルを作って、県内の土地開発公社に配布しただけで、誰一人として安中市土地開発公社に立会い検査をしたものは居なかった。いまでも、県地方課では、タゴ事件は他人事だと見なしている。
青森県知事が、事件発覚直後の記者会見で。「最終的な監督責任は私にもある。再発防止など努力しなければならない。専門家に協力してもらい、事実関係を確立して、責任体制をとらなければならない」と述べているが、これも一過性の答弁であり、そのうち他のニュースに埋もれて風化するのをジッと待つ戦略だ。今後の青森の経過に注目したいが、マスコミがすぐに取上げなくなるから、今後の経緯を見極めるのは困難だ。
<配偶者の関与>
横領事件で告訴されたタゴの自宅は、安中市役所の真ん前にあり、税務課の窓からすぐ前方に見える。金満ぶりがつとに知られ、市役所の七不思議とまで言われながら、安中市の税務課がタゴの所得について、誰も疑いを持たずに税務調査をしようとしなかった。安中市民は、こうした公務員ならでは、の特典が全国各地で今も続いていると考えている。01年初めの土佐山村の事件も、今度の青森県公社事件も氷山の一角だ。
タゴの刑事裁判中、タゴの配偶者は、公社の上司と一緒に裁判所の法廷の傍聴席に来ていた。タゴの刑事裁判の弁護人は高崎の高名な弁護士で、タゴが逮捕される直前に弁護士らと話をつけたのはタゴの配偶者だった。また、タゴを告訴する方針について、市役所の考えをタゴとタゴの配偶者に伝えたのは、公社の上司だった。
タゴは、事件発覚後から逮捕される直前まで、政治的に影響力を行使できる人物のところに何度か通っている。こうした冷静な行動の背景には、やはり男性よりピンチに強い配偶者の存在とアドバイスがあるに違いない、とする見方もあるが、説得力のある見解だ。
<自浄作用マヒ>
市土地開発公社を舞台に13年間にも及んだ職員の着服事件は、その当初から犯行について察知し得る場面が何度もあった。昭和57年の監査報告で忽然と消えた準備金を承認したずさんな監査。デタラメな事業計画で水膨れさせた借入限度額の内容を全く検討せずに承認した市・公社幹部と市議会の無責任。公社とこれを監督すべき市・県の自浄能力のなさはこうした対応からも読み取れる。
市・公社は事件発覚後の記者会見で、横領の発覚が遅れた事情をいくつか挙げた。(1)タゴ以外に経理を熟知した職員がいなかった。(2)理事長印の厳重な保管は業務に支障を招く、(3)経理にかかわる書類が膨大ですべてのチェックが難しい、などだった。
しかし、これらの事情釈明は「経理の人材を育てなかった」「公印は放置状態に近かった」と言い換えられる。
おそらく、安中市の土地開発公社の内情は、以前と余り変わっていないに違いない。タゴが居なくなっても、公社の存在は利権を継承しているからだ。群銀への和解金支払は、群銀から公社が借入れ、その債務保証を安中市が行っている。住民からの税金を原資にする行政がこれほど公金の扱いと、使途についていい加減に考えているか、がよく分かる。
少なくとも、これだけの大事件をおこした土地開発公社だから、安中市はいったん公社の全てを清算して、ゼロからスタートすべきだった。汚職の温床となったのは、一人の職員が特定の仕事を独占し、不正をチェックできない公社の体制そのものだったからだ。しかし、事件から6年半経過した現在、タゴ事件で名前の挙がった関係者が復帰を続々と果たしていることから、事件の風化を防ぐ手立ては市民の会による住民運動の継続が頼りだ。
<海外送金?>
青森の事件の主犯は、海外に逃亡している可能性が強いという。タゴの場合も、海外との接点があった。ハワイとサイパンにリゾートマンションの会員権を特っており、休暇を取って、家族ぐるみでなんども渡航しているからだ。その他、骨董を買いに中国にも渡航しているが、不思議なことに、ハワイやサイパンヘの渡航記録は刑事記録に載っているが、その他の渡航については、載っていない。タゴと親しい人物が一緒に中国に行って行動を共にしているはずだが、警察の調べで当然そのことが調査されているのに、刑事記録には見当たらない。よほど社会に影響の大きい人物がタゴの世話になっていたようだ。群馬県警は、タゴが海外に渡航したことを掴んで外務省の入国管理局に調査依頼していたが、その結果は不明のままだ。
<第三、第四のタゴ事件>
行政の不祥事があるたびに、「厳正に」「抜本的な改革」「全力を挙げて」「綱紀粛正」「再発防止策」「職員倫理向上」「執行管理体制強化」抜本的改革」などの言葉を連ねて行政が住民ヘのポーズをとる。だが、多くの場合、実効のある結果に反映されないのが実情だ。
タゴ事件でも、公社の業務上「根本的に守るべきこと]として、(1)理事長印など公印の厳正監視。(2)経理担当者を固定せず、複数の担当者で監視し合う体制を取る。(3)通帳、伝票などで随時内部点検を実施し、常に監督すること―などが示されたが、肝心の真相解明と責任の所在明確化と真の再発防止策は不問に付されたままだ。
幸い、安中のタゴ事件では市民団体の粘り強い活動が続いている。このような住民活動が青森県でも誕生するだろうか・・・。
【ひらく会情報部】