■大同特殊鋼(株)渋川工場由来の鉄鋼スラグは、有毒物質であり産業廃棄物です。不法に投棄されている廃棄物は撤去し、片づけなければなりません。しかし、群馬県県土整備部や国土交通省、そして渋川市の3者は、「鉄鋼スラグ連絡会議」というおよそ廃棄物とは関係ない怪しげな組織を立ち上げ、撤去はおろか、アスファルト舗装により被覆する工事が行われました。これは完全に廃棄物処理法を無視しており、この始末は、時効が訪れる20年の期間、お役人様はじっとダンマリ・不作為を貫くつもりなのでしょう。
当会は、群馬県東吾妻郡萩生川西地区の農道に不法投棄されたスラグについて、提訴し控訴審まで争った結果、直ちに被害はない、などとして敗訴させられました。そうしたなかで大同特殊鋼の有毒スラグを巡り、当会の萩生スラグ裁判とは別の群馬県渋川市の市道に不法投棄されたスラグ裁判の判決が8月5日に前橋地裁で言い渡されたことは当会のブログで報告済です。
その後、渋川市は判決を不服として控訴手続きを取っておりましたが、この度、被告の渋川市から控訴理由書が原告に送られてきました。驚くべきことに、なんと大同特殊鋼㈱が訴訟参加人として被告側に付いています。
さっそく被告らがどのような控訴理由を記しているのか見てみましょう。
↑畑の中にある渋川農道のアスファルトでフタをする以前の様子。40ミリの大きさに砕かれた生一本スラグが敷砂利されている。畑の中に天然石以外の敷砂利をするのはいかがなものか、と心配するお役人様はいなかったのだろうか?↑
なお、この問題に関するこれまでの情報は当会の次のブログ記事を参考にして下さい。
〇2018年6月6日:【報道】大同有害スラグを斬る!・・・もう一つのスラグ訴訟始まる!↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2661.html
〇2018年6月10日:【報道】大同有害スラグを斬る!・・・もう一つのスラグ訴訟始まる!(その2)↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2665.html
○2018年7月16日:大同有毒スラグを斬る!…毒物入スラグ撤去を求めない県・渋川市と撤去したがらない大同らの共通利害とは↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2698.html
○2020年8月6日:【速報】大同有害スラグ報道・・・スラグにアスファルトでフタすることは違法判決!↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3186.html
○2020年8月13日:【大同有害スラグ問題】・・・“スラグにアスファルトでフタすることは違法”と断じた判決文について考察↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3189.html
*****被告控訴理由書*****ZIP ⇒ 20201009tir.zip
<P1>
令和2年(行コ)第181号 渋川市が産業廃棄物撤去請求等を怠る事実の違法確認請求控訴事件
控訴人 渋川市長高木勉
補助参加人 大同特殊鋼株式会社
被控訴人 角 田 喜 和
控訴理由書
令和2年10月6日
東京高等裁判所第7民事部 御中
〒370-0862 群馬県高崎市片岡町1丁目15番4号(送達場所)
TEL 027-326-3972
FAX 027-326-6393
控訴人訴訟代理人弁護士 田 島 義 康
第1、地方公共団体の財産管理義務について
1、地方自治法における行政財産の管理について
(1)、渋川市の所有する本件市道は、地方自治法第238条第1項第1号の公有財産にあたり、公有財産は、同条第3項及び第4項で行政財産と普通財産に分類されるが、本件市道は、市道の認定を受け、公共用に供していることから、道路法で規定される道路であり、行政財産である。
(2)、しかるところ、地方自治法第238条の4は、行政財産の適正かつ効率的な管理を期するため、行政財産の交換、売り払い、譲与、出資の目的、若しくは信託、又はこれに私権を設定することを原則として禁止するとともに、
<P2>
その用途又は目的を妨げない限度において、貸し付け又は私権を設定することができると定めている。
つまり、地方自治法において行政財産とは、地方公共団体の行政執行の物的手段として、行政目的の効果を達成するために利用されるべきものであるので、これを売り払いすること等を認めることは、行政執行の物的手段としての行政財産の効用を減少することになるため、原則として禁止している。
(3)、このように行政財産の管理について、地方自治法では売り払うことなどを禁止しているが、被控訴人が主張しているような、所有権に基づく妨害排除請求権の行使を義務づけてはいない。
これに対し、原判決は、撤去請求権を行使しないことが地方自治法第138条の2及び地方財政法第8条に違反していると抽象的に判示しているだけで、具体的な理由を明らかにしていないので、原判決には審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない。
2、道路法における道路の管理について
(1)、行政財産の中の道路について、道路法第42条は、「道路管理者は道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」と規定し、同法第43条第1号は、「みだりに道路を損傷し、又は汚損すること」、同条第2号は「みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」を禁止している。
(2)、これらの行為が行われた場合に備え、同法第71条第1項柱書は、「道路管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によって与えた許可、承認若しくは認定を取り消し、その効力を停止し、若しくはその条件を変更し、又は行為若しくは工事の中止、道路(連結許可等に係る自動車専用道路と連結する施設を含む。以下この項において同じ。)に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却
<P3>
若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。」と規定し、第1号は、該当者について「この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者」と規定し、同法の規定に違反した者に原状回復命令を発する権限を、道路管理者に付与している。
(3)、しかるところ、被覆工事が施工された本件道路は、道路の構造又は交通に 支障を及ぼすような状態にはなく、また、大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という)は、本件市道に本件スラグをたい積させるような行為をしていないことから、道路管理者たる控訴人は、大同特殊鋼に原状回復命令を発することはできない。
3、財産管理の執行者には裁量権があること
(1)、原判決は「地方公共団体の執行機関は、当該地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負担し(地方自治法138条の2)、地方公共団体の財産については、常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているところ、本件全証拠によっても被告が大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められないのであるから、被告が大同特殊鋼に対し、本件スラグの撤去請求権を行使していないことは違法であるというべきである。」と判断している(判決書19ページの(1))。
(2)、しかし、地方財政法第8条は、「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」と規定しているが、ここで言う良好な状態において管理するというのは、それぞれの地方公共団体の置かれた固有の社会的、経済的、地域的諸事情にも左右され、その管理については地方公共団体の執行機関の合理的な裁彙に委ねられているものと解すべきである。
<P4>
そうすると、地方財政法第8条に反して違法となる財産管理行為とは、執行者に裁量権の逸脱又は濫用があり、地方財政法第8条の趣旨を没却する結果となるような、特段の事情が認められるという場合に限ると解するのが相当である(盛岡地方裁判所平成30年(行ウ)第8号・乙第25号証)。
(3)、これに対し、原判決は、妨害排除請求権が発生すれば、撤去請求権を行使しなければならない義務が発生し、行使しない正当な理由がないと違法になるかのように、地方財政法第8条を解釈しているが、同条と地方自治法第138条の2の規定から、直ちに所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権の行使義務を導き出すことはできない。
(4)、渋川市の財産管理のために、控訴人が負っている義務は、スラグが本件市道に存在している事態に対し、地方自治法第138条の2に規定されているとおり、自らの判断と責任において、合理的裁量に基づき適正な措置をとることであると解すべきである。
(5)、しかるところ、渋川市が本件市道について、適正な状態にすることを関係機関と調整した結果、大同特殊鋼の費用負担で被覆工事を行って、行政財産である道路を管理したことは、地方自治法第138条の2及び地方財政法第8条の趣旨に適合する合理的判断であり、何ら非難されるべきことではない。
第2、公法上の除去命令と私法上の撤去請求について
1、原判決は、「本件協定書に基づく本件工事は、いずれも公法である土壌汚染対策法及び廃棄物処理法における本件スラグの取扱いに関するものであり、群馬県、渋川市、関東地方整備局の三者で構成される連絡会議での対応方針も含めて、これらに適合するものであったとしても、それをもって、直ちに、既に発生している本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権としての本件スラグの撤去請求権を行使しないことは正当化されない。」と判断している(判決書19ページのイ)。
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2、この表現はわかりづらいが、仮に本件被覆工事が連絡会議での対応方針も含めて、公法に適合するものであったとしても、私法上の撤去請求権を行使しなければならないということであれば、その理由を明らかにしなければならないが、その点については、何ら言及されていない。
仮に、撤去請求権を行使しなければならない理由が、被覆工事では、フッ素の拡散が止められず、市道の財産的価値の回復が図れないというのであれば、その根拠を明らかにしなければならない。
3、被覆工事によって、地域住民の生命、身体の安全性が確保され、財産的価値にも支障がなくなったことについて、控訴人は何回も主張したが、それに対して何ら判断することなく、ただ漫然と「既に発生している妨害排除請求権としての撤去請求権を行使しないことは正当化されない。」と言及するだけなら、「初めに撤去請求権の行使ありき」ということになり、群馬県、渋川市及び国土交通省関東地方整備局の各公共工事事業者で組織する鉄鋼スラグに関する連絡会議(以下「連絡会議」という。)により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、それに基づき渋川市が大同特殊鋼と話し合って、被裂工事を選択した意味がなくなってしまう。
4、原判決は、「本件全証拠によっても、被告が大同特殊鋼に対して、撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められない。」とも判断している(判決書19ページの(1)) が、前記のように、財産管理については、執行者の合理的裁量に委ねられていること、その裁量の範囲内で上記措置がとられた ことにより、財産価値の回復や市民の安全が確保されたことに照らせば、撤去請求権を行使しないことに、何ら不当性はない。
5、廃棄物処理法第19条の5には、「産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事は期限を定めて、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。」と規定されているので、生活環
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境の保全上支障がなく、そのおそれがない場合には、除去命令の対象から除外されている。
6、この規定は、「行政庁が法律に定めるところに従い、その一方的な判断に基づき国民の権利義務その他の法律地位を具体的に決定する行為」である行政行為を定めた規定であるが、「行政庁が行政行為を遂行する過程において、国民との間に権利義務を設定する必要のある場合に、国民と協議し、その任意の同 意を求め、相互に契約を結んで事を決する行政契約」の解釈指針にもなる。
しかるところ、連絡会議により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、渋川市は大同特殊鋼と協定書と契約書を交わし、同社の負担で被覆工事をする ことを合意したのである。
7、前記のように、原判決が本件被覆工事について、連絡会議での対応方針を含めて公法に適合すると認定したのであれば、原判決も本件スラグの存在について、生活環境の保全上支障がなく、そのおそれがないことを認めたことになるが、このように認定したことは、もともと群馬県、渋川市及び国土交通省関東地方整備局の三者で決めた対応方針は、スラグに含まれているフッ素等に対し、住民の生命、身体の安全を図る目的であったことと整合性がある。
このような観点から考えると、原判決が撤去請求権を行使して守るべきものと想定しているのは、地域住民の生命、身体の安全性というよりも、本件市道の財産的価値ということになるが、それならスラグがあることによって、道路の財産的価値が減少したことを具体的に明らかにしなければならない。
8、被控訴人も近隣住民の生命、身体の危険性については、何回も主張したのに対し、スラグを路盤材として使った道路の財産的価値の減少については、ほとんど言及していない。
このような状況の中で、原判決が撤去請求権を行使しなければならないと判断するためには、その前提として、控訴人が裁量で決めた被覆工事では、損害が回復できない財産的価値があることを明らかにしなければならないが、その
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点について、原判決は何ら判断していないので、原判決には審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない。
9、前記のように、原判決は、本件被覆工事が公法に適合したものであっても、私法上の撤去請求権は行使しなければならないとの二元論を展開しているが、そうであるなら、公法上の除去命令の対象にならないにもかかわらず、私法上の撤去請求の対象になることについて、その理由を述べなければならないにもかかわらず、その点についても何ら判断していないのは、理由不備の誹りを免れない。
10、私人間の間題であっても、当事者間で話し合って撤去請求の代替措置をとることで解決することも想定できるところ、本件スラグの問題についても、渋川市は、連絡会議により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、スラグの製造業者の大同特殊鋼と協議の結果、渋川市が被覆工事をして、その費用を同社に負担させることで解決したが、これは控訴人に委ねられた裁量の範囲内の措置であり、何ら非難されることではない。
11、渋川市と大同特殊鋼が締結した行政契約は、私人間の契約と何ら異ならないので、控訴人の合理的裁量によって締結されたものであれば、契約内容がスラグ問題の解決であろうと、住民監査の対象になろうと、当事者間の合意という本質は変わらない。
しかるところ、行政庁が一方的な判断に基づき、国民の権利義務その他の法的地位を具体的行為に決定する行為である行政行為にも、行政庁の合理的な裁量は認められるのであるから、対等な当事者間の行政契約については、執行者の合理的な裁量がより広く認められると言うべきである。
第3、所有権に基づく妨害排除請求権の相手方について
1、原判決は、妨害排除請求の相手方について、所有権を侵害している物の所有権を有する者に限らず、現に存する侵害状況を作出した者も排除の相手方とな
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ると判断し、それを根拠づけるものとして 、東京高等裁判所平成6年(ネ)第3321号、3499号事件の判決を引用している(判決書18ページのイ(イ))。
2、しかし、この控訴審判決は、廃棄物の受入先の所有地に、別々に廃棄物を投棄したことにより、受入先の下の山林に廃棄物が崩落して堆積した事態について、この数人の投棄者は被害者の山林を侵害している堆積物全体につき、共同妨害者として民法第719条第1項を準用し、連帯して全体を除去すべき義務を負っているとしたうえで、前記の判断をしているのである。
即ち、この控訴審判決は、被害者の意思に反して数人が廃棄物を不法投棄した事例であるのに対し、本件では、スラグは渋川市の承諾のもとに、市道の路盤材として使用され、市道と一体として渋川市の所有物になったものであり、渋川市の意思に反して投棄されたわけではない。
3、また、被害者の山林に廃棄物を不法投棄した者は、最初に投棄した土地から崩落したことはあるものの、被害地に対して自ら侵害状況を作出した者であるのに対し、大同特殊鋼はスラグの製造業者であって、道路の施工業者ではなく、しかもスラグは渋川市が了解して路盤材として使ったものであるので、大同特殊鋼をもって、侵害状況を作出した者と認定することはできない。
第4、結語
以上述べたように、本件市道の財産を管理するためには、本件スラグに対する 被覆工事で足りるにもかかわらず、何ら具体的根拠を示さずに、本件スラグに対し、所有権に基づく妨害排除請求権としての撤去請求権を行使しないことが違法であると判断した原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるので、破棄を免れない。
**********
渋川市の訴訟代理人として、本件事件を請け負った田島博康弁護士は、かつて安中市の顧問弁護士として活動していた時期もあり、筆者も法廷でなんども会ったことがありますが、どちらかといえば地味なタイプの弁護士です。
なので、仮に渋川市が敗訴すると困る連絡会議のメンバーの国や群馬県もさりながら、群馬県内のいたるところにばら撒かれた大同有害スラグを全部撤去させられると、何百億円もの負担がのしかかりかねない大同特殊鋼が、渋川市の訴訟参加人として参加し、大同特殊鋼のヤメ検顧問弁護士の提供(=助太刀)を申し入れた可能性も否定できません。
あるいは、行政側から大同特殊鋼に支援要請を行った可能性も捨てきれません。おそらく、どちらの想像も外れではないかもしれません。
■まさに、被告の渋川市長と、訴訟参加人の大同特殊鋼が、タッグを組んで、なんとか有害スラグをこのまま放置し続けることを合法化すべく躍起になっている様子が想像されます。そこには、渋川市民の安心・安全な生活環境保全などそっちのけにされているとしか見えません。
分かり易く言えば、渋川市長が、不法投棄を犯した原因者(泥棒)を、市民の為に糾弾するのではなく、泥棒と一緒に仲良く控訴人連合を作って、渋川市民に立ち向かって裁判しているようなものです。
渋川市長が今回出してきた控訴理由書の内容を見ても、国・県・渋川市で構成する「鉄鋼スラグに関する連絡会議」と称する怪しげな任意組織の対応方針に基づき対応しているのだから問題ないのだ、との主張に終始しています。さながら、「鉄鋼スラグ連絡会議」が、国・県・渋川市に加え、大同特殊鋼による四者連絡会議であったかのようです。
言い換えれば、本来、日本国民、群馬県民、渋川市民の生活環境保全を優先すべきところを、「大同の」「大同による」「大同に有利になるための」行政の連絡会議であったことが露呈してしまったことを示しています。
そもそも、廃棄物の不法投棄の対策について、不法投棄した張本人が対応方針を考える場に加わっていたのでは、正しい対応策など講じることなど出来るはずはありません。
■さらに言えば、前渋川市長の阿久津貞司が、大同特殊鋼に有利になるよう窓口になって連絡会議を組織し、「大同の」「大同による」「大同の為の」対応策を導き出してやって、現渋川市長である高木勉が、その結論を擁護し継承している、との印象さえ、渋川市民はもとより群馬県民に与える結果となっています。
行政がいかに、原因企業に甘く、納税者住民を軽視しているのか、今後の東京高裁での控訴審のなかでさらに明らかにされることでしょう。引き続き、当会では今後の控訴審の模様を注視し、都度報告してまいります。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
当会は、群馬県東吾妻郡萩生川西地区の農道に不法投棄されたスラグについて、提訴し控訴審まで争った結果、直ちに被害はない、などとして敗訴させられました。そうしたなかで大同特殊鋼の有毒スラグを巡り、当会の萩生スラグ裁判とは別の群馬県渋川市の市道に不法投棄されたスラグ裁判の判決が8月5日に前橋地裁で言い渡されたことは当会のブログで報告済です。
その後、渋川市は判決を不服として控訴手続きを取っておりましたが、この度、被告の渋川市から控訴理由書が原告に送られてきました。驚くべきことに、なんと大同特殊鋼㈱が訴訟参加人として被告側に付いています。
さっそく被告らがどのような控訴理由を記しているのか見てみましょう。
↑畑の中にある渋川農道のアスファルトでフタをする以前の様子。40ミリの大きさに砕かれた生一本スラグが敷砂利されている。畑の中に天然石以外の敷砂利をするのはいかがなものか、と心配するお役人様はいなかったのだろうか?↑
なお、この問題に関するこれまでの情報は当会の次のブログ記事を参考にして下さい。
〇2018年6月6日:【報道】大同有害スラグを斬る!・・・もう一つのスラグ訴訟始まる!↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2661.html
〇2018年6月10日:【報道】大同有害スラグを斬る!・・・もう一つのスラグ訴訟始まる!(その2)↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2665.html
○2018年7月16日:大同有毒スラグを斬る!…毒物入スラグ撤去を求めない県・渋川市と撤去したがらない大同らの共通利害とは↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2698.html
○2020年8月6日:【速報】大同有害スラグ報道・・・スラグにアスファルトでフタすることは違法判決!↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3186.html
○2020年8月13日:【大同有害スラグ問題】・・・“スラグにアスファルトでフタすることは違法”と断じた判決文について考察↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3189.html
*****被告控訴理由書*****ZIP ⇒ 20201009tir.zip
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令和2年(行コ)第181号 渋川市が産業廃棄物撤去請求等を怠る事実の違法確認請求控訴事件
控訴人 渋川市長高木勉
補助参加人 大同特殊鋼株式会社
被控訴人 角 田 喜 和
控訴理由書
令和2年10月6日
東京高等裁判所第7民事部 御中
〒370-0862 群馬県高崎市片岡町1丁目15番4号(送達場所)
TEL 027-326-3972
FAX 027-326-6393
控訴人訴訟代理人弁護士 田 島 義 康
第1、地方公共団体の財産管理義務について
1、地方自治法における行政財産の管理について
(1)、渋川市の所有する本件市道は、地方自治法第238条第1項第1号の公有財産にあたり、公有財産は、同条第3項及び第4項で行政財産と普通財産に分類されるが、本件市道は、市道の認定を受け、公共用に供していることから、道路法で規定される道路であり、行政財産である。
(2)、しかるところ、地方自治法第238条の4は、行政財産の適正かつ効率的な管理を期するため、行政財産の交換、売り払い、譲与、出資の目的、若しくは信託、又はこれに私権を設定することを原則として禁止するとともに、
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その用途又は目的を妨げない限度において、貸し付け又は私権を設定することができると定めている。
つまり、地方自治法において行政財産とは、地方公共団体の行政執行の物的手段として、行政目的の効果を達成するために利用されるべきものであるので、これを売り払いすること等を認めることは、行政執行の物的手段としての行政財産の効用を減少することになるため、原則として禁止している。
(3)、このように行政財産の管理について、地方自治法では売り払うことなどを禁止しているが、被控訴人が主張しているような、所有権に基づく妨害排除請求権の行使を義務づけてはいない。
これに対し、原判決は、撤去請求権を行使しないことが地方自治法第138条の2及び地方財政法第8条に違反していると抽象的に判示しているだけで、具体的な理由を明らかにしていないので、原判決には審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない。
2、道路法における道路の管理について
(1)、行政財産の中の道路について、道路法第42条は、「道路管理者は道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もって一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。」と規定し、同法第43条第1号は、「みだりに道路を損傷し、又は汚損すること」、同条第2号は「みだりに道路に土石、竹木等の物件をたい積し、その他道路の構造又は交通に支障を及ぼす虞のある行為をすること」を禁止している。
(2)、これらの行為が行われた場合に備え、同法第71条第1項柱書は、「道路管理者は、次の各号のいずれかに該当する者に対して、この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定によって与えた許可、承認若しくは認定を取り消し、その効力を停止し、若しくはその条件を変更し、又は行為若しくは工事の中止、道路(連結許可等に係る自動車専用道路と連結する施設を含む。以下この項において同じ。)に存する工作物その他の物件の改築、移転、除却
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若しくは当該工作物その他の物件により生ずべき損害を予防するために必要な施設をすること若しくは道路を原状に回復することを命ずることができる。」と規定し、第1号は、該当者について「この法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこれらの規定に基づく処分に違反している者」と規定し、同法の規定に違反した者に原状回復命令を発する権限を、道路管理者に付与している。
(3)、しかるところ、被覆工事が施工された本件道路は、道路の構造又は交通に 支障を及ぼすような状態にはなく、また、大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という)は、本件市道に本件スラグをたい積させるような行為をしていないことから、道路管理者たる控訴人は、大同特殊鋼に原状回復命令を発することはできない。
3、財産管理の執行者には裁量権があること
(1)、原判決は「地方公共団体の執行機関は、当該地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負担し(地方自治法138条の2)、地方公共団体の財産については、常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているところ、本件全証拠によっても被告が大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められないのであるから、被告が大同特殊鋼に対し、本件スラグの撤去請求権を行使していないことは違法であるというべきである。」と判断している(判決書19ページの(1))。
(2)、しかし、地方財政法第8条は、「地方公共団体の財産は、常に良好の状態においてこれを管理し、その所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない。」と規定しているが、ここで言う良好な状態において管理するというのは、それぞれの地方公共団体の置かれた固有の社会的、経済的、地域的諸事情にも左右され、その管理については地方公共団体の執行機関の合理的な裁彙に委ねられているものと解すべきである。
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そうすると、地方財政法第8条に反して違法となる財産管理行為とは、執行者に裁量権の逸脱又は濫用があり、地方財政法第8条の趣旨を没却する結果となるような、特段の事情が認められるという場合に限ると解するのが相当である(盛岡地方裁判所平成30年(行ウ)第8号・乙第25号証)。
(3)、これに対し、原判決は、妨害排除請求権が発生すれば、撤去請求権を行使しなければならない義務が発生し、行使しない正当な理由がないと違法になるかのように、地方財政法第8条を解釈しているが、同条と地方自治法第138条の2の規定から、直ちに所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権の行使義務を導き出すことはできない。
(4)、渋川市の財産管理のために、控訴人が負っている義務は、スラグが本件市道に存在している事態に対し、地方自治法第138条の2に規定されているとおり、自らの判断と責任において、合理的裁量に基づき適正な措置をとることであると解すべきである。
(5)、しかるところ、渋川市が本件市道について、適正な状態にすることを関係機関と調整した結果、大同特殊鋼の費用負担で被覆工事を行って、行政財産である道路を管理したことは、地方自治法第138条の2及び地方財政法第8条の趣旨に適合する合理的判断であり、何ら非難されるべきことではない。
第2、公法上の除去命令と私法上の撤去請求について
1、原判決は、「本件協定書に基づく本件工事は、いずれも公法である土壌汚染対策法及び廃棄物処理法における本件スラグの取扱いに関するものであり、群馬県、渋川市、関東地方整備局の三者で構成される連絡会議での対応方針も含めて、これらに適合するものであったとしても、それをもって、直ちに、既に発生している本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権としての本件スラグの撤去請求権を行使しないことは正当化されない。」と判断している(判決書19ページのイ)。
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2、この表現はわかりづらいが、仮に本件被覆工事が連絡会議での対応方針も含めて、公法に適合するものであったとしても、私法上の撤去請求権を行使しなければならないということであれば、その理由を明らかにしなければならないが、その点については、何ら言及されていない。
仮に、撤去請求権を行使しなければならない理由が、被覆工事では、フッ素の拡散が止められず、市道の財産的価値の回復が図れないというのであれば、その根拠を明らかにしなければならない。
3、被覆工事によって、地域住民の生命、身体の安全性が確保され、財産的価値にも支障がなくなったことについて、控訴人は何回も主張したが、それに対して何ら判断することなく、ただ漫然と「既に発生している妨害排除請求権としての撤去請求権を行使しないことは正当化されない。」と言及するだけなら、「初めに撤去請求権の行使ありき」ということになり、群馬県、渋川市及び国土交通省関東地方整備局の各公共工事事業者で組織する鉄鋼スラグに関する連絡会議(以下「連絡会議」という。)により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、それに基づき渋川市が大同特殊鋼と話し合って、被裂工事を選択した意味がなくなってしまう。
4、原判決は、「本件全証拠によっても、被告が大同特殊鋼に対して、撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められない。」とも判断している(判決書19ページの(1)) が、前記のように、財産管理については、執行者の合理的裁量に委ねられていること、その裁量の範囲内で上記措置がとられた ことにより、財産価値の回復や市民の安全が確保されたことに照らせば、撤去請求権を行使しないことに、何ら不当性はない。
5、廃棄物処理法第19条の5には、「産業廃棄物の保管、収集、運搬又は処分が行われた場合において、生活環境の保全上支障が生じ、又は生ずるおそれがあると認められるときは、都道府県知事は期限を定めて、その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる。」と規定されているので、生活環
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境の保全上支障がなく、そのおそれがない場合には、除去命令の対象から除外されている。
6、この規定は、「行政庁が法律に定めるところに従い、その一方的な判断に基づき国民の権利義務その他の法律地位を具体的に決定する行為」である行政行為を定めた規定であるが、「行政庁が行政行為を遂行する過程において、国民との間に権利義務を設定する必要のある場合に、国民と協議し、その任意の同 意を求め、相互に契約を結んで事を決する行政契約」の解釈指針にもなる。
しかるところ、連絡会議により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、渋川市は大同特殊鋼と協定書と契約書を交わし、同社の負担で被覆工事をする ことを合意したのである。
7、前記のように、原判決が本件被覆工事について、連絡会議での対応方針を含めて公法に適合すると認定したのであれば、原判決も本件スラグの存在について、生活環境の保全上支障がなく、そのおそれがないことを認めたことになるが、このように認定したことは、もともと群馬県、渋川市及び国土交通省関東地方整備局の三者で決めた対応方針は、スラグに含まれているフッ素等に対し、住民の生命、身体の安全を図る目的であったことと整合性がある。
このような観点から考えると、原判決が撤去請求権を行使して守るべきものと想定しているのは、地域住民の生命、身体の安全性というよりも、本件市道の財産的価値ということになるが、それならスラグがあることによって、道路の財産的価値が減少したことを具体的に明らかにしなければならない。
8、被控訴人も近隣住民の生命、身体の危険性については、何回も主張したのに対し、スラグを路盤材として使った道路の財産的価値の減少については、ほとんど言及していない。
このような状況の中で、原判決が撤去請求権を行使しなければならないと判断するためには、その前提として、控訴人が裁量で決めた被覆工事では、損害が回復できない財産的価値があることを明らかにしなければならないが、その
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点について、原判決は何ら判断していないので、原判決には審理不尽、理由不備の違法があると言わざるを得ない。
9、前記のように、原判決は、本件被覆工事が公法に適合したものであっても、私法上の撤去請求権は行使しなければならないとの二元論を展開しているが、そうであるなら、公法上の除去命令の対象にならないにもかかわらず、私法上の撤去請求の対象になることについて、その理由を述べなければならないにもかかわらず、その点についても何ら判断していないのは、理由不備の誹りを免れない。
10、私人間の間題であっても、当事者間で話し合って撤去請求の代替措置をとることで解決することも想定できるところ、本件スラグの問題についても、渋川市は、連絡会議により、鉄鋼スラグを含む材料の対応方針を決定し、スラグの製造業者の大同特殊鋼と協議の結果、渋川市が被覆工事をして、その費用を同社に負担させることで解決したが、これは控訴人に委ねられた裁量の範囲内の措置であり、何ら非難されることではない。
11、渋川市と大同特殊鋼が締結した行政契約は、私人間の契約と何ら異ならないので、控訴人の合理的裁量によって締結されたものであれば、契約内容がスラグ問題の解決であろうと、住民監査の対象になろうと、当事者間の合意という本質は変わらない。
しかるところ、行政庁が一方的な判断に基づき、国民の権利義務その他の法的地位を具体的行為に決定する行為である行政行為にも、行政庁の合理的な裁量は認められるのであるから、対等な当事者間の行政契約については、執行者の合理的な裁量がより広く認められると言うべきである。
第3、所有権に基づく妨害排除請求権の相手方について
1、原判決は、妨害排除請求の相手方について、所有権を侵害している物の所有権を有する者に限らず、現に存する侵害状況を作出した者も排除の相手方とな
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ると判断し、それを根拠づけるものとして 、東京高等裁判所平成6年(ネ)第3321号、3499号事件の判決を引用している(判決書18ページのイ(イ))。
2、しかし、この控訴審判決は、廃棄物の受入先の所有地に、別々に廃棄物を投棄したことにより、受入先の下の山林に廃棄物が崩落して堆積した事態について、この数人の投棄者は被害者の山林を侵害している堆積物全体につき、共同妨害者として民法第719条第1項を準用し、連帯して全体を除去すべき義務を負っているとしたうえで、前記の判断をしているのである。
即ち、この控訴審判決は、被害者の意思に反して数人が廃棄物を不法投棄した事例であるのに対し、本件では、スラグは渋川市の承諾のもとに、市道の路盤材として使用され、市道と一体として渋川市の所有物になったものであり、渋川市の意思に反して投棄されたわけではない。
3、また、被害者の山林に廃棄物を不法投棄した者は、最初に投棄した土地から崩落したことはあるものの、被害地に対して自ら侵害状況を作出した者であるのに対し、大同特殊鋼はスラグの製造業者であって、道路の施工業者ではなく、しかもスラグは渋川市が了解して路盤材として使ったものであるので、大同特殊鋼をもって、侵害状況を作出した者と認定することはできない。
第4、結語
以上述べたように、本件市道の財産を管理するためには、本件スラグに対する 被覆工事で足りるにもかかわらず、何ら具体的根拠を示さずに、本件スラグに対し、所有権に基づく妨害排除請求権としての撤去請求権を行使しないことが違法であると判断した原判決には、審理不尽、理由不備の違法があるので、破棄を免れない。
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渋川市の訴訟代理人として、本件事件を請け負った田島博康弁護士は、かつて安中市の顧問弁護士として活動していた時期もあり、筆者も法廷でなんども会ったことがありますが、どちらかといえば地味なタイプの弁護士です。
なので、仮に渋川市が敗訴すると困る連絡会議のメンバーの国や群馬県もさりながら、群馬県内のいたるところにばら撒かれた大同有害スラグを全部撤去させられると、何百億円もの負担がのしかかりかねない大同特殊鋼が、渋川市の訴訟参加人として参加し、大同特殊鋼のヤメ検顧問弁護士の提供(=助太刀)を申し入れた可能性も否定できません。
あるいは、行政側から大同特殊鋼に支援要請を行った可能性も捨てきれません。おそらく、どちらの想像も外れではないかもしれません。
■まさに、被告の渋川市長と、訴訟参加人の大同特殊鋼が、タッグを組んで、なんとか有害スラグをこのまま放置し続けることを合法化すべく躍起になっている様子が想像されます。そこには、渋川市民の安心・安全な生活環境保全などそっちのけにされているとしか見えません。
分かり易く言えば、渋川市長が、不法投棄を犯した原因者(泥棒)を、市民の為に糾弾するのではなく、泥棒と一緒に仲良く控訴人連合を作って、渋川市民に立ち向かって裁判しているようなものです。
渋川市長が今回出してきた控訴理由書の内容を見ても、国・県・渋川市で構成する「鉄鋼スラグに関する連絡会議」と称する怪しげな任意組織の対応方針に基づき対応しているのだから問題ないのだ、との主張に終始しています。さながら、「鉄鋼スラグ連絡会議」が、国・県・渋川市に加え、大同特殊鋼による四者連絡会議であったかのようです。
言い換えれば、本来、日本国民、群馬県民、渋川市民の生活環境保全を優先すべきところを、「大同の」「大同による」「大同に有利になるための」行政の連絡会議であったことが露呈してしまったことを示しています。
そもそも、廃棄物の不法投棄の対策について、不法投棄した張本人が対応方針を考える場に加わっていたのでは、正しい対応策など講じることなど出来るはずはありません。
■さらに言えば、前渋川市長の阿久津貞司が、大同特殊鋼に有利になるよう窓口になって連絡会議を組織し、「大同の」「大同による」「大同の為の」対応策を導き出してやって、現渋川市長である高木勉が、その結論を擁護し継承している、との印象さえ、渋川市民はもとより群馬県民に与える結果となっています。
行政がいかに、原因企業に甘く、納税者住民を軽視しているのか、今後の東京高裁での控訴審のなかでさらに明らかにされることでしょう。引き続き、当会では今後の控訴審の模様を注視し、都度報告してまいります。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】