■8月5日に当会事務局に太田市在住の県民のかたからいただいた1通の投書をもとに、当会は「八木田恭之県議会議員及び萩原渉県議会議員の政務活動費及び旅費の二重請求」について、9月14日、住民監査請求書を群馬県監査委員宛に提出しました。その後、補正手続を経て、10月12日に陳述と追加証拠の提出の機会があり、県庁を訪れました。なお、これまでの経緯は次のブログ記事を参照ください。
○2020年9月22日:八木田恭介県議と萩原渉県議の政務活動費及び旅費の二重請求について住民監査請求↓
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3211.html
↑10月12日(月)午後1時半から県庁26階で開かれた陳述会。今回は政務活動費なので議会に関する事案だとして群馬県議会議員の井田泉・議会選出委員(令和2年5月22日就任、非常勤)と臂泰雄・議会選出委員(令和2年5月22日就任、非常勤)は欠席。さらに、代表監査委員長で弁護士の丸山幸男・識見委員(平成25年2月21日就任、常勤)も、ご自分の仕事が忙しいらしく欠席。そのため、公認会計士の林章・識見委員(平成28年10月1日就任、非常勤)のみの出席という、極めて珍しいかたちでの開催となった。↑
■陳述ではいちおう事前に原稿を準備し、県監査委員事務局にも提出してコピーをとってもらい、関係者の手元に置きながら、陳述人として当会代表はアドリブで説明を行いました。事前に準備した原稿の内容は次の通りです。
**********
令和2年10月12日(月)13時30分からの住民監査請求に係る陳述
市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
市民オンブズマン活動と政務活動費との関係は、情報公開条例制定の動きと連動しており、その起点は1996年頃に遡る。当時、調査研究費と呼ばれていた補助金の使途を示す資料の開示を求め、情報公開条例に基づいて情報の公開請求を行ってきた。この調査研究費は、条例に基づかない補助金として会派に交付されていたが、その使途を示す資料は議会事務局が保管していて、情報公開の対象外となっていた。オンブズマンは補助金が首長による支出だから調査研究費も情報公開の対象だと主張し、住民訴訟等を通じて次第にその流れが定着した。
現在の政務活動費は、我が国の地方議会議員に政策調査研究等の活動のために支給される費用のことで、2012年の地方自治法改正により現在の呼び名になったが、それ以前は調査研究費を経て政務調査費と呼ばれていた。
政務活動費の交付については、地方分権一括法の施行等により地方議会やその議員の活動がより重要となったという名目で、2000年(平成12年)の地方自治法改正により制度化された。具体的には地方自治法第100条第13~16項に規定され、2001年4月より施行されている。
○13 議会は、議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは、会議規則の定めるところにより、議員を派遣することができる。
○14 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
○15 前項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は、条例の定めるところにより、当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。⇒なければならない。
○16 議長は、第十四項の政務活動費については、その使途の透明性の確保に努めるものとする。⇒なければならない。
このため、条例化の過程で議会により骨抜きにされてしまい、その是正のためにこれまで全国のオンブズマンが苦労して取り組んできた。
政務活動費は、各自治体の条例に基づき、議会の会派又は議員に対して支給される。交付額や交付方法については、自治体により異なるが、共通している正当な支出は議員活動の範囲に関係する書籍等の購入費用、民間主催の議員研修会に参加するための費用、先進地視察の諸費用、事務所経費などで、議員活動とは関係ない私的な支出は法令違反となるが、見過ごされている例もあり、オンブズマンなどが度々告発している。
群馬県議会の場合も、これまで世界遺産調査と称して欧州の有名な観光地を歴訪し、我々の事前通報でTV局が極秘取材した結果、「ローマの休日」と称して全国ネットで放映されたり、温暖化・オゾン層破壊など環境問題対応と称して「南極ツアー」を敢行したりするなどして、世論の批判を喚起したこともある。
さて、オンブズマンでは例年、全国的に政務活動費の情報公開度を調べてランキングを毎年秋に開催される全国大会で発表している。今年も9月にWeb形式による全国大会で調査結果に基づきランキングが発表された。対象議会は47都道府県議会、20政令市議会及び60中核市議会であり、お手元の資料の52頁と53頁に都道府県別のランキングが載っている。我らが群馬県議会は100点満点中70点で14位となっている。ちなみに、隣の栃木県はわずか17点で44位、埼玉県は14点で45位、同じく北関東の茨城県は55点で19位。
群馬県がランキング5位の東京都に次いで関東圏では2番目に付けているのは、領収書のネット公開のおかげだ。関東7都県で、東京都と群馬県以外はネット公開をしていない。一方、領収書の個人名の公開は限定的だが、関東圏では下位の栃木県と埼玉県のみ。なお、高崎市と前橋市の議会では領収書の個人名を公開している。これは双方とも政務活動費にまつわる不祥事件が発端で改善されたものである。
さて、今回の住民監査請求の発端は、県内住民からの投書による情報提供であり、宛先は当会、県庁記者クラブ、監査委員あてであった。そのため、1ヶ月ほど様子を見た上で、監査委員事務局に問い合わせたところ、この投書による動きは何もしていないというもので、監査委員事務局から「議会事務局に訊いてみたら?」と言われて、議会事務局に尋ねたところマスコミ某社から問い合わせがあり調査中であることが判明したが、動きが鈍い様子なので、今回宛先の筆頭の当会として、坐して看過するわけにはいかないと判断し、住民監査請求を行ったもの。本来は当会で毎年政務活動費をチェックすべきところ、たまたま県議会の領収書がネット公開されたことにより、県民のかたにチェックしていただけたことになる。この場を借りて、情報提供者にも感謝の意を表したい。
今回の事案は、燃料代の問題で、本来領収書の提示が求められるところ、自己申告のかたちで会派代表者名義による「支出証明書」形式で支出されており、このため、議員による不適切申告の温床の余地が残ってしまっているためと考えられる。
そもそも、自動車使用量の走行距離による支払では、実態とあまりにも遠う「1キロ37円」で、領収書不要となっており、制度に疑問を抱かざるを得ない。
県議の政務活動として公金の支出が認められる内容や金額は、条例で定めるため、自治体によって異なる。群馬県の場合、条例によると、県議1人あたり月30万円を所属会派に前もって支給。会派と県議の調査研究や研修、会議費などに充てることができ、余った場合は返還する。調査研究で自家用車を使った場合は、走った距離を基に1キロあたり37円が燃料代として認められる。領収書は不要。
一方でマニュアルでは、政務活動費を選挙や政党、後援会の活動には使えないと明記している。例えば後援者宅であいさつしただけでは、県議の調査研究とは言えないはずだ。
「1キロ37円」という燃料代の設定についての疑問だが、仮にガソリン価格を税込みで1リットル130円とし、1リットルで13キロ走れる車を使うとする。ちなみにハイブリッド車だと30キロ走れる車種も珍しくない。いずれにしても、走行1キロに必要なガソリン代は前者でも10円であり、後者の場合は5円未満だ。とすれば、37円はその3倍以上、あるいは7倍以上だ。この差額はどう考えればいいのか?
調査によると、国家公務員の旅費に関する法律には「車賃」が1キロあたり37円とあり、それを準用しているらしい。しかし当の法律について、財務省給与共済課は「車賃とはバス賃のことで、バスの運行には燃料だけでなく、運転手の給料なども必要。燃料代だけで37円は高いのではないか」と説明している。実態と離れた燃料代の設定が、政務活動費の「抜け道」になっている可能性がある。早急に条例を見直す必要がある。しかし議会の承認事項だから議員としては面白くないだろう。だからと言って、住民から選ばれた議員に忖度する必要は無い。
政務活動費の領収書や支出関係書類の情報開示が質的にも制度的にも進めば、議員が市民の目を意識することになり、政務活動費の不正支出をある程度は防げる。また、政務活動費の無駄な支出を防止する試みとして、政務活動費の前払いをやめ、提出された領収書をチェックした上で、年度末に議会事務局が支払いをする「後払い方式」をとる京丹後市などの自治体も現れている。しかし、これとて万全ではない。
私たち市民が、政務活動費の関連資料の開示を受けた場合に感じる疑問の多くは、その支出を政務活動費という税金で賄う必要はあるか、という点だ。例えば、議員の事務所家賃に対して支出される政務活動費は、実際には議員の当選を目的とした政治活動への支出ではないか、という疑問だ。あるいは、政務活動費の使途基準に「広報、広聴費」の項目があるからといって、地方自治体の政策や地方自治制度の研究に全く関係しないお笑い芸人の招へいや地方の歴史研究に政務活動費を支出することなどは許されるか、といった事例もかつて議論となった。
2015年12月24日の名古屋高裁判決は、条例に定めのない事務所賃借料や自動車リース料への政務調査費の支出について、政務調査活動に必要であることの立証を議員に求め、様々な陳述書等の資料を精査した上、どの議員の支出も政務調査活動に必要とはいえない、と判断して、事務所賃借料と自動車リース代全額を愛知県に返還する義務を認めた。この判決については、会派側は、政務調査活動を狭く捉えすぎている、と批判したが、最終的に高裁の判断は最高裁でも維持された。
こうした、政務活動費が実際に役立っているか、という点をチェックするためには、支出項目と領収書の存在だけをチェックし、実際に議会活動にどのように役立てたかを問わない、という現状の制度にメスを入れる必要がある。本来、政務活動費は補助金だ。調査研究等を補助事業と位置付けた、抜本的な見直しが必要だ。
そもそも、我々住民が自治体や企業から補助金を受けて活動しようとする場合には、最初に企画書と予算の見積りを提出するのが一般的だ。これに対し、予算の見積りに過大な点があれば、修正した申請をせざるを得ない。政務活動費についてもこれに倣った制度を設ける必要がある。
例えば、政務活動費の給付を希望する議員や会派は、年度初めに調査研究等のテーマとこれに要する費用の見積りを記載した交付申請書を議会に提出する。この交付申請書は市民に開示するとともに、例えば、市民と有識者とで組織される第三者委員会を開催し、ここに議員や会派の代表者が出席し、申請内容について質疑応答をする。これを経て、第三者委員会が承認した範囲で議員や会派は調査研究を行い、年度末に調査研究等を実施したことの根拠資料とともに領収書の提出をする。事前の承認内容との整合性や領収書のチェックを経て、政務活動費が支給される、といった方法である。実施の根拠資料がなければ、領収書があっても支給はされないし、テーマを提示できない議員には交付されないが、これはむしろ、市民感情に適合するはずだ。そして何よりも、政務活動費を用いて議員や会派が何をしたいのかが事前に市民に公開されることによって、議員の活動に市民が関心を持ち、議会が活性化することにつながることが期待できる。
ここ数年、政務活動費の不正支出が立て続けに大きな話題となっている。しかし、政務活動費に対する関心を、不正支出の追及にとどめたのでは、事の本質を見失う。政務活動費はもともと、議会活動を活性化することを目的として立法化されたはずだ。そうであるなら、政務活動費を用いて、議員がどのような議会活動を行ったのかを市民が容易に理解できるようにする工夫が必要ではないだろうか。そのための第一歩として、まずは議員が、政務活動費の支出とこれを用いた議会活動の成果との関連が分かるよう工夫した詳細な報告書を作成し、それを市民に伝える努力を行うことが肝要ではないだろうか。
最後に、全国の市民オンブズマンが政務活動費の不正支出を巡り多くの住民訴訟を提起し、それなりの成果を上げている。しかしよく考えてみれば、本来議会事務局がきちんとチェックし、不適切な支出があれば議会に指摘して是正すれば済むことだ。議会が言うことを聞かなければ監査委員事務局に通報すればよい。こうした機能が働いていないからこそ、我々市民オンブズマンが、活動を余儀なくされているのが実態である。
以上
**********
■陳述時間は30分でしたが、10分ほど時間を残して陳述を終えました。その後、林章監査委員から質問が出されました。それは公認会計士らしい質問で、「住民監査請求書の2頁目で、萩原議員の場合の二重請求・過大請求の可能性について示した金額のところで、合計が67,710円とあるが、これは84,360円ではないのか。もし、何か意図するところがあるのであれば、理由を訊きたい」というものでした。
たしかに下表のとおり、ざっと暗算してみても合計が間違っていることは明らかだったので、陳述人は直ちに誤りを認め、その場で修正しました。
*****萩原議員の疑惑交通費リスト*****
1)令和元年9月分(事実証明書9:添付No.859)150Km×@37円 =5,550円
2)令和元年10月分(事実証明書10:添付No.869)600Km×@37円=22,200円
3)令和元年11月分(事実証明書11:添付No.879)150Km×@37円 =6,660円
4)令和元年12月分(事実証明書12:添付No.888)450Km×@37円=16,650円
5)令和2年2月分(事実証明書13:添付No.900)450Km×@37円 =16,650円
6)令和2年3月分(事実証明書14:添付No.910)450Km×@37円 =16,650円
合計=✕67,710円 ⇒ ○84,360円
**********
■合計の計算ミスは、16.650円分の交通費を計算時に除外したのが原因です。このような計算ミスを起こさないように、今後十分に注意を払って参ります。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】