■引き続いて、第三者委員会による調査報告書の後半を見てみましょう。事件の原因と、発見が遅れた理由が明確に記載されています。安中タゴ事件ではこれが不完全燃焼のまま幕引きされたため、未だに市政への不信感が市民の間に燻っています。
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第5 本件不正行為の原因となった事情及び早期発見の妨げとなった事情(内部管理体制の不備)
当社中日本営業本部装置営業部において、SD長(発覚当時)であるAを中心に、その部下である課長クラスの社員もその一部に関与した本件不正行為が発生した原因(そのような行為を可能ならしめた要因)、及びそのような不正行為が平成10年10月頃から平成25年3月までの約15年間もの長期間にわたって発覚しなかった要因として、以下の諸事情を指摘することができる。 ←【当会コメント】ここで注目したいのは、不正が15年間行われてきたということです。これはまさに、安中タゴ51億円の温床となった元職員タゴを、15年間も土地開発公社に継続配置してきた状況と完全に一致しているからです。民間の場合でも、同一職場で長年同じ取引先と付き合っていれば、その間に癒着が生れるからです。しかし、民間の場合は、商取引という信頼をベースにした関係上、円滑なビジネス展開の観点から、取引先との健全な信頼関係は欠かすことができません。一方、役所の場合には、もともと税金という取りはぐれのない公金が原資のため、それを使う権限を持つ人間に群がる傾向があり、民間の癒着とは次元の異なる不正の温床が形成されてしまいます。公金という観念が薄れ、税金由来のあぶく銭という感覚で役人が、多額のカネを扱うことが、第2、第3のタゴ事件を発生させる引き金となるのです。
1 営業担当者に対する広範な権限付与と職務分担による牽制機能の欠如
(1) 従業員の不正を防止するためには、複数の者による牽制機能を発揮できるよう内部統制システムを構築することが求められる。ところが、当社では、営業担当者が顧客との交渉から始まり、発注先の選定、発注手続き、仕入検収、仕入代金支払い、売掛債権回収等一連の業務すべてに関与することが基本となっている。このように一担当者に広範な権限を付与することは、職務分掌が細分化された組織と比べ、相互牽制・監視が働きにくく、不正発生の温床となりやすい。
(2) そのような当社の業務体制上のリスクが現実化したのが、平成18年2月に発覚したいわゆる「E事件」である。これは、平成14年4月に名古屋支店装置部から大阪本社装置部門の課長として異動してきたEが、平成15年5月から平成17年4月まで、仕入先であるSP社と通謀して架空仕入を計上し、合計約3375万円を当社から同社に支払わせたうえ、その内計約2300万円をEが取得し、私費に費消したというもので、架空取引について同社が負担した税金の支払いを巡ってEとの間でトラブルとなった同社社長が当社社員にそのことを述べたことから発覚に至ったものである。これは、EやAが既に名古屋支店装置営業部在職中にKE社との間で繰り返し行っていた上述の不正行為と同一態様の行為であって、E事件は、結果的にみればAらによる本件不正行為の氷山の一角(本件不正行為の兆候)であったということができる。
ところが、当社が、E事件の発覚を機に全社において同種不正行為が他に存在しないかを調査した事実はないし、またEが名古屋支店で同様の不正行為をしていた事実がないかどうかを調査した形跡もない。
(3) この事件を受けて、AZ監査法人より、当社監査役会に対する平成18年5月11日付「第103 期監査概要報告書」おいて、上記(1)のような当社の業務体制が孕む不正リスクを適確に指摘したうえで、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だと思われ」るとの指摘がなされていた。
ところが、この指摘に対して当社経営陣がこれを真摯に受け止め、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策」を検討した形跡はなく(社内記録上は、平成18年3月の取締役会でEに対する懲戒処分の決定が報告された程度にとどまる。)、実際にも業務体制や職務分掌、その他の不正行為防止策が講じられることはなかった(なお、同年10月にツバコーセールスエンジニアリング(平成14年8月1日設立)の経営再構築が行われたが、これは当社グループの「販売力と共に技術力による競争優位を確立し、技術営業の付加価値を高める為、ツバコーグループの技術部門を統合・再編し、独立した技術分社を立ち上げる」ことを主旨とするものであって、本件のような不正行為の再発防止を趣旨・目的とするものではなかった。)。
再発防止策が等閑視された理由としては、当社経営陣が、後述するようなコンプライアンス意識の希薄さもあって、E事件は一個人による希な不正事案であるとの認識のもとに事件を矮小化し(そのため、同種不正行為の有無に関する社内調査すらしていないことは上述のとおりである。)、むしろ上記のようないわゆる「一気通貫」の業務体制は当社の良き伝統であり、業務を円滑効率的に処理して業績を上げるためのもっとも適切な体制であるとの認識が、一種のドグマないし企業風土として無批判に全社を支配しており、それを疑問視する視点が欠如していたことにあるものと考えられる。
加えて、上記のような適確な指摘をした監査法人が、その後の監査においては、さしたる合理的な理由もなく、上記のような当社の対応(不作為)が孕むリスクや問題性を指摘することなく、是認していたことは、後述するとおりである。
(4) 当社が、E事件を良き教訓とし、平成18年5月における監査法人の指摘を真摯に受け止めて業務分掌の見直しを含む内部管理体制や内部監査の強化等の再発防止策を講じていたならば、牽制機能が働いて、Aらによる本件不正行為の継続を困難ならしめ、あるいはより早期に発覚し得た可能性があったことは否定できない。
2 人事異動の停滞
当社の役職員に対するヒアリングの結果、当社の人事異動が一般的な上場企業に比べ極めて限られた範囲でしか行われていないことが判明した。本件不正行為を主導したAについても、入社以来、中日本営業本部に所属し、かつ、入社14年目以降は20年間にわたり一貫して装置営業部門を歩んできた(この間、現中日本営業本部長であるDは、Aの直属の上司であった。)。また、本件不正行為の一端を担ったJやKは、入社当初からのAの直属の部下である。
装置営業部門の取引先は、動伝営業部門に比し中堅中小規模の企業が多く、営業担当者としては、取引先と密接な人間関係を築くことによってスムーズに業務を遂行できる側面がある一方、そのことが取引先との癒着を生み不正を発生させる土壌となりがちである。
本件でも、人事の停滞が本件不正行為の温床となり、また、発見を遅らせる要因となったことは明らかである。
3 上級職員と担当者との権限分化の欠如
当社の社内ルールでは、課長より上級の職員は受注・発注に係る伝票を起案しないこととされている(明確な社内規程等は存在しない。)。ところが本件不正行為を主導したAは、部長ないしSD長という部下を管理する立場にありながら、自ら積極的に営業活動に携わる一方、受注した案件について部下に注文番号の記載を依頼したり、あるいは部下の了承を得、または無断で部下の注文番号を使用して作成した伝票を使って、以後の仕入発注から債権回収までの手続きを自ら一人で抱え込んで行っていた。仮に上級者が案件を発掘したとしても、その後の手続きは社内ルール上部下が実施し、当該案件については上級者はあくまでマネジメントに徹するべきであるところ、本件ではA自身が事実上起案・決裁してきた(それが容易に可能であった)ことが不正を生んだ要因の一つである。
しかも、A(上級者)自身が担当する案件の有無や内容(ないし社内規程の遵守状況)について、Aの直属の上司である中日本営業本部統括役員が長期間にわたってチェックらしいチェックをしておらず、また社内にそれをチェックする有効な体制が講じられていなかったことも本件不正行為の継続を容易ならしめ、発覚を困難にした要因である。
4 コンプライアンス体制の不備
(1) 組織の上級者に対する隷従の姿勢
本件不正行為は中日本営業本部SD長(同本部のナンバーツー)であるAが自ら利益を得る目的で行ったものであるが、一部の幹部職員は本件の行為が不正なものと認識していながら、自らも不正な利益を得るため、不正取引に積極的に加担した。更に、より広範囲な職員が、不正取引であることを認識しつつも、それに反対意見を具申しようとせず、また、他の上級職員、経営幹部、監査役等に具申・相談することもなく、Aに言われるままに不正取引に加担した。このように、本件不正行為に関しては、上級者の指示に盲目的に従うといったコンプライアンス意識の欠如もその背景として重要な要因である。
(2) 営業に対する監査部門の猜疑心の欠如と営業尊重の気風等
上述のとおり、DD社関連直送品の長期滞留や金額の増大が問題となり、平成24年1月以降は、その対応として「DD社関連 直送品在庫管理」に関する打合せ等が継続的に行われ、そのなかで、再三にわたって監査役等から最終納入先での現物(実在性)確認を求められたのに対して、Aは、その都度あれこれ理由を付けてこれに応じようとはしなかったものであり、また上記打合せにおいて決定・指示された改善策についても、Aは一部を実行するのみで、総じて誠実な対応をしているとはいえない状況であった。このようなAの対応に対し、監査部門としては、逆にそこに不正が孕んでいる可能性があることも想定し、猜疑心をもって、独自の行動で臨むべきところである。 ←【当会コメント】安中タゴ事件の場合、市役所や土地開発公社の監査は全く飾りに過ぎず役に立たなかったが、巨額の横領金を貸し出していた群馬銀行の監査部にも重大な落ち度があった。にもかかわらず、両者のこうした責任者は不問とされ、巨額横領事件の和解金は103年炉0んとして市民の肩にしわ寄せされ、毎年公金から2000万円が群銀にクリスマスプレゼントされている。
しかしながら、内部監査室やコンプライアンス室等の監査部門は、Aが提出した工程表や納入物とされた写真等によって在庫の実在性が確認できたとして、Aの主張を容認し、実査については、終始A本人に相手先との折衝を任せきりにして、独自にDD社側と直接に連絡をとり、Aの説明の合理性を確認したり、現物確認についての折衝をしようとはしなかった。
Aが優秀な幹部職員であるとの評価が社内で浸透していたとはいえ、過去10年以上にわたり一度も仕掛在庫の現物確認がなされていないこと、また、仕掛在庫が急速に増加していることを異常だと認識していたことからすれば、猜疑心をもってより深度ある監査手続きを実施すべきであったと考えられる。
また、当社の社内においては、営業部門を過度に尊重する気風があり、管理部門や監査部門は営業のサポート部門であるとの認識(換言すれば、コンプライアンス軽視の風潮)が全社的に存在していたとのことである。
加えて、当社では、伝統的に営業部門と管理・監査部門との人事交流が殆どなく、管理・監査部門には営業経験者が在籍しないことから、営業社員の説明や弁解を容易に受容したり、疑問を抱いてもそれ以上に深く追及しない(追及できない)傾向があるとのことである。このことが、営業部門における不正の端緒に複数の者が気付いていたにも拘らず、今一歩踏み込んだ調査が行われなかった要因と考えられる。
(3) 役職員における当事者意識・管理意識の不足
中日本営業本部装置営業部における仕掛在庫(長期滞留在庫)の異常な増加について、複数の役員、幹部職員が不自然であるとの認識を持っていたにも拘らず、それを取締役会や経営会議等の公式の場に上呈することなく、そのため役員間で全社の重要問題として認識されることはなく、社長にすら明確に伝わった形跡はない。また、当委員会が行った当社役職員に対するヒアリングからは、問題を認識しつつも、他部門の問題は結局は他人事に過ぎないといった傍観者の姿勢をもつ役職員の存在がうかがわれる。これは、役職員が自分の管轄外の問題を全社の問題として認識し、自らも当事者として解決しようとする当事者意識が不足していることから生じた事態と考えられる。このような役職員間における重要問題に関する情報共有の欠如や当事者意識の不足が本件不正行為の発覚を遅らせた一因となったと考えられる。
また、同様のことは本件不正行為の舞台となった中日本営業本部の内部においても指摘できる。中日本の営業を統括すべき立場にある者が、SD長たるAが自ら一気通貫の営業を行っていることを認識し、またAが担当する取引において長期滞留在庫が異常に増大しつつあることを認識し、あるいは容易に認識できたにも拘らず、「Aを信頼していた」として、Aのなすに任せていたものであって、当事者意識、管理意識の希薄さを指摘せざるを得ない。 ←【当会コメント】安中タゴ事件でも元職員タゴに対して、誰も疑念を持つことなく、むしろ「有能で」「真面目で」「仕事のできる男」という評価を周囲が与えていた。
(4) 内部監査室・コンプライアンス室の形骸化
コンプライアンス上、監査役監査とは別に、内部監査による業務内容の問題点の洗い出しが行われることが求められる。当社では、内部監査室とコンプライアンス室が内部監査を受け持っている。現在の内部監査室は、平成21年10月に社長直属の組織として設置され、コンプライアンスに関する専門部署であるコンプライアンス室及び財経部門等と連携しながら、社内情報の収集に努め、各部門の業務遂行状況の点検等を行っている。
しかしながら、現実の業務としては、いずれの部署も人員が極めて乏しく、その結果、内部監査室はいわゆるJ-SOX対応に忙殺され、一方、コンプライアンス室は兼務する法務・審査部門の業務与信管理等も分掌しており、法令違反行為の防止等のコンプライアンス業務に割くことのできる
時間が限定されていることから、いずれも本来組織に期待される役割を果たすことができたとは言い難い。
(5) 内部通報制度の形骸化
当社では、「法令違反、社内規則違反、社会通念に反する行為などに関する内部通報制度を設けることにより、当該行為の発見を容易にし、必要な改善を迅速に行い、不祥事を未然に防いでグループ全体のコンプライアンス体制の強化を図るとともに、透明性の高い職場環境を作ることを目的」(「内部通報制度に関する規定」第1 条)として内部通報制度を設けている。しかし、通報窓口が会社内(コンプライアンス関係の通報窓口はコンプライアンス担当役員)に限定されているなど、その設計は社員にとって通報しやすいものとはなっていない。また、社員にヒアリングした限りでは、その制度の内容や意義が全役職員に十分に周知されているとはいえず、実際にも本制度は殆ど利用されておらず、有名無実化しているのが実情である。
(6) 役職員におけるコンプライアンス意識の希薄さ
以上に掲げた諸点に通底している問題点は、当社役職員におけるコンプライアンスを尊重する意識(役職員の各自が、自ら法令を遵守することはもちろん、他人の法令違反についても見て見ぬふりをせず、協働して健全な会社を維持し発展させようとの意識)の希薄さである。すなわち、本件においては、当社に底流するそのようなコンプライアンス軽視の気風が、上記(1)ないし(5)のような形で顕現、作用し、本件不正行為の温床となり、かつその早期発見を阻害したものと思われる。
そして、当委員会の調査では、従来、そのような気風が存在することが経営陣ないし経営トップにおいて明確に意識されておらず、外部者(社外取締役、社外監査役、会計監査人)からも明確に指摘されないまま放置されていたことが判明した。コンプライアンスに関する社内憲章や規程が存在せず、社員に対するコンプライアンス教育が全くといってよいほど実施されていないことなどは、その端的な表れである。
もっとも、調査では、当社においては役職員間における派閥や対立関係、無用な軋轢等が殆どなく、職場環境は融和的な気風に富んでいるという美風が存在することも同時に確認されたところであって、この点は今後とも維持されなければならないが、そのこととコンプライアンス意識の改善、涵養は相反するものではなく、当社が今後とも健全に発展し、永続するうえで不可欠な両輪であるというべきである。
5 会計監査人による監査上の問題点
上述したように、いわゆるE事件の際に、当社の会計監査人であるAZ監査法人は、平成18年5月11日付の「第103期監査概要報告書」で、「貴社では営業担当者が顧客との交渉から始まり、発注先の選定、発注手続き仕入検収等、一連の業務全てについて関与することが基本となっています。営業担当者の裁量範囲が広いことから、より職務分掌が細分化された組織と比して、一般的に不正リスクが高いと言えます。従って、内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だと思われます。」との正鵠を射た指摘を行っていた。また、同時に同報告書では、「KA社に対する滞留在庫」に関して、「①~③は、部課の利益が芳しくないため、架空の取引を設定し別注番に在庫計上していたもので、特に①については、・・・仕入先にも協力要請している可能性が高くなっています。・・・・今後、このような架空取引処理を防止する仕組の整備と、また、経理課での滞留在庫や仕入計上時のチェックの強化が必要です。」との指摘もなされている。これらの指摘は、いずれも本件不正行為の防止ないし早期発見にそのままつながり得る重要な指摘である(同時にこれらの指摘事項の対象事案は、当社の各営業部門において同種事案が発生するリスクが現に存在することを窺わせる兆候でもある)。
ところが、当社経営陣がこれらの指摘に基づいて具体的な再発防止策を何ら講じなかったことは上述のとおりであり、それにも拘らず会計監査人は、自らの指摘事項に関する当社の不作為(放置)に対して、その後の監査において継続的に改善を促した形跡はない。
しかも、AZ監査法人に対するヒアリングによると、平成22年3月期から監査責任者に就任した現在の筆頭監査責任者は、上記指摘事項について、前任者から一切引継ぎを受けておらず、また、同監査概要報告書の内容そのものも関知していないとのことであって、監査の連続性、一体性が確保されていない。
これでは、当社の業務上の不正リスクに関する当監査法人自身による適確な監査の効果が、当監査法人みずからの事後的対応によって減殺され、全く活かされることなく雲散霧消したといわざるを得ない。
このような会計監査人の事後的対応状況も、本件不正行為の発見を遅らせた一因をなしたものと考える。
第6 再発防止策
1 基本的な考え方
本件不正行為の原因を総括すると、株価向上や信用維持を狙った経営者関与型の不正ではなく、上位の管理職が私的な利益を獲得することを主たる目的とした従業員不正である。また、不正関与者の属性については、外部取引先との共謀があり、一方、会社内部では当該管理職が所属する部門の部下を広範囲に巻き込んで、長期間にわたってさまざまな手法による不正取引を繰り返してきたことが見て取れる。従って、かかる企業風土のもとでは、不正の防止策について特定の不正類型に特化した防止態勢を整備するとその裏をかかれるリスクが大きく、一方で、すべての不正を完全に遮断する大がかりなコントロール手段を講じることも経営の効率性やコストとの兼ね合いからは好ましくない。そこで、防止策を構築・運用するためには、事業活動における法令等の遵守や財務報告の信頼性にかかる内部統制の整備を基軸として検討することが現実的な手法と考えられる。内部統制を構成する要素としては、①統制環境、②リスク評価と対応、③統制活動、④情報と伝達、⑤モニタリング、⑥ITへの対応が挙げられ、これら6つの要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することが求められる。したがって、以下ではこれらの要素ごとに再発防止の観点から有効な施策を検討することとする。更に、不正に関しては事前にこれを防止するだけではなく、発生した際に速やかにこれを発見し是正するといった事後的な対策も重要であるので、このような視点も盛り込んだ施策を検討する。
2 統制環境にかかる施策
統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に関する意識に影響を与えるとともに、内部統制を構成する他の要素の基礎・基盤となるものとされる。具体的には「企業風土」「企業文化」ともいうべきものである。かかる観点から見た当社の問題としては、第5において述べたように、①企業経営者の姿勢(経営トップが、自社の行動規範を遵守し自ら実践する姿勢を強くアピールする機会が十分でなく、会社全体に法令遵守等を徹底する土壌や雰囲気が形成されていない)、②組織内の風通し(他部門の悪い情報を見聞きしてもそれを自らの問題と捉えず評論家的な姿勢にとどまってしまい、マイナスの情報を役員に報告する雰囲気が生まれにくい。また、複数の事業部門間で相互チェック機能が働いていない)、③営業部門至上主義(営業部門が会社の中心的存在で管理部門は営業をサポートする立場にとどまるといった意識、営業成績を上げる部門、個人に対する遠慮が存在する)等の要因を指摘することができる。
このような観点からの具体的な防止策としては次のようなものが考えられる。
(1) コンプライアンス規程等の策定・周知徹底
企業内で発生するさまざまな問題に直面した役職員が、迅速かつ的確な判断や行動を選択することを可能にするためには、企業風土を健全化してコンプライアンス経営を確立し、それを全社に浸透させることが必須である。そのためには経営トップによる積極的かつ不断の取組みが不可欠である。このような観点から次のような施策が求められる。
ア 現行の「企業倫理規定」に加え、より具体的に企業コンプライアンスを確立するための行動指針を定めた「コンプライアンス規程」等を策定する。
イ 「企業倫理規定」、「コンプライアンス規程」等を役職員に対して周知徹底すべく経営トップ自らが行動する。
ウ かかる「企業倫理規定」「コンプライアンス規程」等は役職員に配布するハンドブックの目に付きやすい場所に記載したり、社内のイントラネット等ですべての役職員がいつでも内容を確認できるような施策を採るとともに、コンプライアンス強化月間等を催行して定期的に注意喚起をうながすことにより、役職員に対する浸透力・拘束力を高める。
(2) 独立性が高くかつ法律や財務・会計的知見を有する社外取締役・社外監査役の起用・活用独立性が高く、かつ、法律や財務・会計に関する専門的な知見を有する社外役員を選任し、同役員が、取締役会、監査役会等の場で多岐にわたる経営活動について、それぞれの知見、独立性を活かした明確な意見具申をできるような体制を構築するとともに、その意見を尊重し活発な議論を展開できるような風土を醸成する(なお、当社の社外監査役は、いずれも当社の主要取引先である株式会社椿本チエイン出身者が就任する慣例となっている。しかし、これは、東京証券取引所・有価証券上場規程の規定する独立役員制度の趣旨からは必ずしも適切な人選とはいえないと考えられ、少なくとも1名は上記のようなより独立性が高く、かつ法律や財務・会計的知見を有する者であることが適当と考える)。
(3) 規程等違反に対する懲罰規程・基準の整備・明確化
コンプライアンス経営の遂行を担保するために、コンプライアンス遵守を定める規程を整備し、違反した場合に懲罰を課すための規程、懲罰の基準等をあらかじめ整備する。更に、不正等が生じた際には、懲罰委員会等の組織において、それらの規程に従い、恣意性を排除し厳正かつ公正に対処することが求められる(平成18年に発覚したE事件の事後処理に見られるような不正行為者本人に対する温情的措置は、他の従業員の不信感や甘え、コンプライアンスを軽視する風潮を醸成し、結果的に会社に多大な損失をもたらす結果となりかねない。)。
(4) 実効性のあるコンプライアンス研修・教育の実施等
実効性のあるコンプライアンス研修・教育を実施するために外部講師の招聘等適切な研修プランを策定する。その際には、全員一律の内容ではなく、対象者の経験年数、地位、担当業務に適合した研修・教育内容となるよう工夫する。また、法令・ガイドライン等の改正・改訂につき正確にフォローした最新の内容となるよう留意する。
(5) 経営会議・取締役会等での情報の共有
今回の社内ヒアリングにおいては、複数の役員からA の言動や名古屋装置営業部門の直送品仕掛在庫の増加について「何となくおかしい」との違和感を抱いていたとの証言が得られた。しかし、その感覚は、経営会議・取締役会といった公の場に情報として共有されることはなく、個人のレベルに留め置かれる状態であった。そこで、取締役・執行役員は、不正リスクのある、もしくはその可能性のある事象に関する情報に接した場合には、それが確定した情報であるか否かにかかわらず、経営会議・取締役会に報告して、組織的に対応等を講じることができるような経営環境を整備・運用する必要がある。つまり、役職員は、情報を個人レベルで処理しようとせず、多くの役職員がそれを共有できる体制を整備し運用することが求められる。また、不正に対しては全社的な対応が必要であることを理解し、経営陣における横断的な連絡・協働関係を構築して、情報の収集・監督を強化する必要がある。
その一助として、役員や役員就任予定者を対象とする、会社法や金融商品取引法等における役員の基本的義務や責任等を内容とする研修の機会を設けることも検討に値する(ちなみに、役員ヒアリングにおいては、役員の中には取締役の善管注意義務や責任等についての会社法上の基本的知識すら乏しい者がいる旨の証言もあった。)。
(6) 内部監査の機能強化
内部統制の構築・運用状況を監査する仕組みとしては内部監査の実施が重要であるところ、当社においては内部監査を掌る内部監査室とコンプライアンス室の職務分掌が必ずしも明確でなく(そもそも職務分掌規程が存在しない。)、また、人員の配置が不十分なうえに非本来業務に時間を取られるといった体勢を改める必要がある。内部監査の機能を強化するために次のような施策が考えられる。
ア 内部監査室、コンプライアンス室、リスクマネジメント委員会等の職務分掌を明確にするとともに、具体的活動における相互の連携・協働についても明確化する。また、内部監査室、コンプライアンス室に調査権を与えるなど、その権限を強化し、かつ、その内容を全社に周知させる。
イ 内部監査室、コンプライアンス室には専担の職員を配置し他部門と兼務させない。
ウ 監査研修等に定期的に出席させ内部監査のスキルアップを図る。
エ 内部監査室、コンプライアンス室に、営業経験者など不正が起こる可能性のある部門の内実を熟知し不正にかかる専門知識・技能を有する人材を配置し、不正の端緒に対する注意力を高めるとともに、営業部門に対して物言う姿勢を明確にする。
(7) 取締役と内部監査部門・監査役との連携
取締役と内部監査室・コンプライアンス室等の内部監査部門及び監査役とが相互に連携することが必要である。そのためには取締役と内部監査部門、監査役間の情報の格差を是正し、不正リスクへの対処方法についての認識を共有化するため、取締役と内部監査部門、監査役は定期的にコミュニケーションを行い、不正リスクに関する情報について情報を共有できる体制を整備する。
(8) 取締役・監査役と会計監査人との連携・協議
取締役・監査役は、将来発生が懸念される不正リスクや問題点について、定期的に会計監査人から意見・見解等を聴取し、また、会計監査人と協議して認識を共有することが求められる。一方、会計監査人が不正の端緒に気づいた場合には、取締役・監査役と対応を協議できる体制を整備する必要がある。また、財経部門においては、会計監査人とのなれあいが疑われるような対応を一掃して適度な緊張感を保持すべく意識を改革する必要がある。
3 リスク評価にかかる施策
リスクの評価と対応とは、組織目標の達成を阻害する要因を「リスク」として識別し、分析・評価するとともに、そのリスクへの適切な対応を行う一連のプロセスをいう。当社においては、本件のような不正行為の発生に関する適切なリスク評価がなされておらず、したがってまた、適切な対応が取られなかったことは上述のとおりであって、この点に関しては次のような施策が考えられる。
(1) リスクマネジメント委員会、コンプライアンス室等によるリスクの定期的見直し
今般、E事件の際における会計監査人からの不正リスクに係る指摘が再発防止策として活かされず、また、中日本営業本部の仕掛在庫の増加に気づきながらその対応が不正防止につながらなかった反省を活かし、リスクマネジメント委員会等において不正が発生するリスクとその影響の程度を毎期見直すとともに、個別の取引先に対する与信リスク(与信枠)の見直しも行う。
(2) 財務データ上の異常値の検出
財務経理部門、リスク管理部門等に優秀な営業部門経験者を配置することによって、数値上の異常値を見逃さず、不正リスクがある取引を早期発見してそれを是正する措置を講じるべきである。かかる施策は不正の早期発見の見地からは必須のものである。
4 統制活動にかかる施策
統制活動とは、経営者や部門責任者などの命令・指示が適切に実行されることを確保するために定める方針・手続をいう。統制活動には、権限や職責の付与、業績評価や職務の分掌などの広範な方針・手続が含まれる。当社における統制活動上の問題としては、上述したように、①特定の人物に過度の裁量や権限が付与され、他からのチェックが及びにくい構造になっている、②職場環境が閉鎖的になっている等の問題がみられる。具体的な再発防止策としては次のような施策が考えられる。
(1) 定期的な人事ローテーション
長い期間にわたって同一の従業員が同一の取引先を担当すると、取引先との貸し借りや癒着が生じ、不正を生む温床となりやすい。また、担当者が変わらないことから、取引の内容が他人の目に触れる機会が少なくなり、チェック機能が働きにくくなる。そこで、人事ローテーションを定期的に行い、不正行為が隠蔽されにくい環境を整えることが不可欠である。また、定期的なローテーションは、仮に不正が生じたとしても早期にこれを発見することにつながり、会社に与える損害を軽減することができる。
もっとも、当社装置部門の営業などでは、ある程度の専門性が要求され、かつ、取引先との人間関係が円滑な営業推進上必要となることも事実である。そこで、取引先との関係を完全に断ち切るのではなく、同一部署内で担当取引先を交代させるといった緩やかなローテーションも一部併用することが現実的な対応として考えられる。更に、部門内の異動のみに頼ると、当該部門が本社等による牽制機能が働かない「聖域」となり、恣意的な事業運営が行われるリスクが高まり、人事ローテーションが行われない場合と同様の弊害が生じてしまう。そこで、ある程度の経験を積んだ職員を本部の管理部門や他地域の部門へローテーションすることも重要であ
る。
なお、一般論として、人事ローテーションを行うと、一時的には取引先との絆が断ち切られるリスクがあるが、長期的な視点からは、広範な取引類型に即応できる職員を育てることになり、結果的に会社に対してプラスをもたらすものと考える。
(2) 権限の分離
一般的に、特定の組織に権限が集中すると他部門による牽制機能が働きにくくなるため、恣意的な事業運営が可能となり、不正行為を抑止・発見することが困難となりがちである。本件においては、中日本営業本部において、営業担当者に受注から仕入発注、回収までの広範な権限が集中したことが不正発生の大きな要因となっていた。また、本件では、本来受注時の起案権限を持たない上位管理者であるA が、部下の名義を用いて伝票を作成し、その後の案件管理まで一人で抱え込んで行ってきたため、相互監視が働かなかったことも不正を生んだ要因の一つである。このように水平的な権限の分断がなく、垂直的にも権限が分化していなかったことが不正発生の要因になるとともに、その発見を遅らせる結果をもたらしたと考えられる。そのため、権限が適切に委譲され、権限分離を徹底した職制を整備・運用することが不可欠である。不正や誤謬を相互監視・チェック等により防止するという職務分離は内部統制の根幹をなすものである。
(3) 審査部門の設置
本件では、中日本営業本部の装置営業部門で仕掛在庫が膨れ上がっていたにも拘らず、その原因や内容をチェックする権能を果たす部署が設けられていなかったことも、不正を防止したり早期発見できなかった原因の一つである。そこで、取引の内容を審査する部門を設置して、債権管理や在庫管理業務を強化することが必要である。当社では特に技術内容にかかる審査を担当する別会社であるツバコーセールスエンジニアリングが設立されているが、人員が限られている等の問題があり実効性が乏しい状況である。
(4) 権限分掌規程・社内決裁権限規程等の見直し
当社では職務組織及び業務分掌に係る規程が存在していなかったり曖昧であったりする場合が散見された。権限分掌規程・社内決裁権限規程等を明確に定めるとともに、その内容を定期的に見直し、組織長以下の責任・権限の設定と周知徹底を図り、不正を防止できる態勢を整備することが求められる。
(5) 在庫管理に関する規程の整備・運用
在庫管理に関する規程を整備し、棚卸管理が適切に行われることが必要である。そこで、仕掛在庫(直送品在庫)を含め、入庫と出庫の事実を管理するとともに、本件のような架空取引を防止し、あるいは早期に発見するためには、管理・監査部門が適宜(状況に応じて抜き打ち的に)営業部門から独立した立場で納入先や仕入先におもむき、直接に現物の確認を行うことも不可欠である(不正行為の発見につながることはもとより、不正行為に対する抑止・牽制機能を期待できる。)。
5 情報収集・伝達体制の拡充による防止策
情報と伝達とは、必要な情報が識別・把握・処理され、組織内外や関係者相互間に正しく伝えられることを確保することをいう。特に、必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する情報伝達の機能が不可欠である。
(1) 内部通報制度の整備・周知徹底等
内部通報制度は、早期に不正の芽を摘むとともに、そもそも不正を行うインセンティブを滅殺する役割を果たす。また、リスク管理の有用な手段として、また、コンプライアンス経営を実現するためのインフラとしても極めて重要な制度である。当社には「内部通報制度に関する規定」が存在するが、通報の実績は皆無に近く、同制度が実効的に機能しているとはいい難い状況である。そこで、役職員が不正にかかわる情報を自発的・積極的に通報しやすくするような制度の設計・整備・運用が不可欠である。そのためには、通報者の立場・利益が確実に擁護され、役職員が自発的に通報を行うモチベーションが存続するような制度を構築し、運用するという視点からの検討が重要である。
具体的には、現行の「内部通報制度に関する規定」では通報窓口を担当役員に限っているが、これに限定することなく、弁護士事務所等社外の第三者による窓口をはじめ複数の通報ルートを設定して、従業員が通報をしやすい体制を構築すべきである。また、匿名通報を広く認めるかどうかも検討すべき課題である。
(2) リーニエンシー制度の導入の検討
不正行為を行い、または行おうとした者が企業側調査の前に自主申告した場合、懲罰・処分を軽減するリーニエンシー制度の導入も検討課題となりうる。
6 モニタリングによる防止策
モニタリングとは、内部統制の有効性・効率性を継続的に評価するプロセスをいう。モニタリングにかかる再発防止策としては、監査役や内部監査室によるモニタリングの実施が重要であり、監査役と内部監査室、コンプライアンス室、リスクマネジメント委員会との協働・連携、並びに監査役と内部監査室及び監査法人との連携を強化する必要がある。今回の事件に関しては、平成24年1月以降におけるこのような協働・連携と管理統括役員の取引停止の指示が最終的にはAをして架空循環取引の継続を断念させ、遅まきながらも本件不正行為の発覚に結びついたものであって、評価されるべき点であるものの、内部監査室や監査役によるモニタリングが日常的に機能していたならば、より早期に発見できた可能性がある。従って、今後とも他部門との連携を強化しつつ監査役や内部監査室による監査を実効あらしめることが望まれる。また、これらの複数の監査関係部門の間で、最新の不正行為事例や契約形態についての認識を共有することが必要である。
7 IT の利用による防止策
モニタリングによる不正防止の観点からは、大量のモニタリング対象からシステマティックな手法により「不正リスクの高い事象」を抽出した後、経験や勘を活かした人為的な判断をすることが効率的と考えられる。かかる観点からは、いわゆるフォレンジック等の手法によってシステマティックに対象を抽出し、そのうえで検出したリスクの確認と評価を行ったうえで、当該リスクの防止策を整備することが望ましい。
以 上
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【ひらく会情報部:タゴ51億円事件18周年記念調査班・この項つづく】
※参考「監査法人について」
椿本興業はあずさ監査法人のクライアント(顧客)です。
http://www.saiyou-cpa.com/contact/data/azusa.html#2
有限責任あずさ監査法人は2003年に設立され、2010年に有限責任制度適用の監査法人に移行しました。 我が国の4大監査法人(新日本、あずさ、トーマツ、あらた)の一つで各社の年間売上は約1兆円から数千億円に上ります。これら4大監査法人は、本邦企業のグローバル化に対応して、ビッグ4と呼ばれる海外の大手4大監査法人(アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)、KPMG、デロイト・トウシュ・トーマツ(DTT)、プライスウォーターハウス・クーパース(PwC))と提携しています。
あずさ監査法人は、2011年8月の総合情報誌月間FACTAのスクープと同年10月の英国人社長解任で発覚した巨額の粉飾決算事件を起こしたオリンパスの監査をしていました。この事件により金融庁は2012年7月6日、オリンパスの会計監査を担当したあずさ監査法人と新日本監査法人に業務改善命令を出しました。
http://www.fsa.go.jp/news/24/sonota/20120706-7.html
このうちあずさは粉飾実行時を含めて2009年3月期まで30年間あまり監査を担当し、10年3月期以降は新日本が引き継いでいました。金融庁は両社の「引き継ぎが十分ではなかった」点に焦点を絞り、業務管理体制をより整備するよう命じたのでした。
とりわけ、1千億円を超える「飛ばし」を見過ごしたあずさ監査法人に対しては「処分が甘すぎる」という批判が巻き起こりました。特に問題とされたのは、監査法人の交代が決まった直後に、あずさがオリンパスに要求した監査内容の修正でした。監査の不備を隠蔽しようとしたことがこの背景にありました。
大手監査法人といっても、実際には個人経営の会計士や税理士の集団です。だから、長年にわたり担当会計士等との関係により、癒着が生じやすくなります。2003年の足利銀行の債務超過事件、2005年のカネボウの粉飾決算事件で金融庁に業務停止命令を出された当時の最大手の中央青山監査法人が破綻した時も、司法当局はカネボウ事件について、会計士個人の犯罪として、監査法人の起訴を見送りました。
しかし、粉飾決算をしていた企業の監査などの関与が世間に知られたことで、同監査法人の信頼性に疑義が生じることになり、その後解散を余儀なくされたのでした。しかし、所属会計士等は別の大手監査法人に移籍しており、失業の心配はありません。
今回、椿本興業の不正取引について、同社の会計を監査してきたあずさ監査法人に対して、どのような評価がなされるのか予断を許しませんが、今回の事件による影響は免れないと思われます。
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第5 本件不正行為の原因となった事情及び早期発見の妨げとなった事情(内部管理体制の不備)
当社中日本営業本部装置営業部において、SD長(発覚当時)であるAを中心に、その部下である課長クラスの社員もその一部に関与した本件不正行為が発生した原因(そのような行為を可能ならしめた要因)、及びそのような不正行為が平成10年10月頃から平成25年3月までの約15年間もの長期間にわたって発覚しなかった要因として、以下の諸事情を指摘することができる。 ←【当会コメント】ここで注目したいのは、不正が15年間行われてきたということです。これはまさに、安中タゴ51億円の温床となった元職員タゴを、15年間も土地開発公社に継続配置してきた状況と完全に一致しているからです。民間の場合でも、同一職場で長年同じ取引先と付き合っていれば、その間に癒着が生れるからです。しかし、民間の場合は、商取引という信頼をベースにした関係上、円滑なビジネス展開の観点から、取引先との健全な信頼関係は欠かすことができません。一方、役所の場合には、もともと税金という取りはぐれのない公金が原資のため、それを使う権限を持つ人間に群がる傾向があり、民間の癒着とは次元の異なる不正の温床が形成されてしまいます。公金という観念が薄れ、税金由来のあぶく銭という感覚で役人が、多額のカネを扱うことが、第2、第3のタゴ事件を発生させる引き金となるのです。
1 営業担当者に対する広範な権限付与と職務分担による牽制機能の欠如
(1) 従業員の不正を防止するためには、複数の者による牽制機能を発揮できるよう内部統制システムを構築することが求められる。ところが、当社では、営業担当者が顧客との交渉から始まり、発注先の選定、発注手続き、仕入検収、仕入代金支払い、売掛債権回収等一連の業務すべてに関与することが基本となっている。このように一担当者に広範な権限を付与することは、職務分掌が細分化された組織と比べ、相互牽制・監視が働きにくく、不正発生の温床となりやすい。
(2) そのような当社の業務体制上のリスクが現実化したのが、平成18年2月に発覚したいわゆる「E事件」である。これは、平成14年4月に名古屋支店装置部から大阪本社装置部門の課長として異動してきたEが、平成15年5月から平成17年4月まで、仕入先であるSP社と通謀して架空仕入を計上し、合計約3375万円を当社から同社に支払わせたうえ、その内計約2300万円をEが取得し、私費に費消したというもので、架空取引について同社が負担した税金の支払いを巡ってEとの間でトラブルとなった同社社長が当社社員にそのことを述べたことから発覚に至ったものである。これは、EやAが既に名古屋支店装置営業部在職中にKE社との間で繰り返し行っていた上述の不正行為と同一態様の行為であって、E事件は、結果的にみればAらによる本件不正行為の氷山の一角(本件不正行為の兆候)であったということができる。
ところが、当社が、E事件の発覚を機に全社において同種不正行為が他に存在しないかを調査した事実はないし、またEが名古屋支店で同様の不正行為をしていた事実がないかどうかを調査した形跡もない。
(3) この事件を受けて、AZ監査法人より、当社監査役会に対する平成18年5月11日付「第103 期監査概要報告書」おいて、上記(1)のような当社の業務体制が孕む不正リスクを適確に指摘したうえで、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だと思われ」るとの指摘がなされていた。
ところが、この指摘に対して当社経営陣がこれを真摯に受け止め、「内部管理体制や内部監査の強化等の対策」を検討した形跡はなく(社内記録上は、平成18年3月の取締役会でEに対する懲戒処分の決定が報告された程度にとどまる。)、実際にも業務体制や職務分掌、その他の不正行為防止策が講じられることはなかった(なお、同年10月にツバコーセールスエンジニアリング(平成14年8月1日設立)の経営再構築が行われたが、これは当社グループの「販売力と共に技術力による競争優位を確立し、技術営業の付加価値を高める為、ツバコーグループの技術部門を統合・再編し、独立した技術分社を立ち上げる」ことを主旨とするものであって、本件のような不正行為の再発防止を趣旨・目的とするものではなかった。)。
再発防止策が等閑視された理由としては、当社経営陣が、後述するようなコンプライアンス意識の希薄さもあって、E事件は一個人による希な不正事案であるとの認識のもとに事件を矮小化し(そのため、同種不正行為の有無に関する社内調査すらしていないことは上述のとおりである。)、むしろ上記のようないわゆる「一気通貫」の業務体制は当社の良き伝統であり、業務を円滑効率的に処理して業績を上げるためのもっとも適切な体制であるとの認識が、一種のドグマないし企業風土として無批判に全社を支配しており、それを疑問視する視点が欠如していたことにあるものと考えられる。
加えて、上記のような適確な指摘をした監査法人が、その後の監査においては、さしたる合理的な理由もなく、上記のような当社の対応(不作為)が孕むリスクや問題性を指摘することなく、是認していたことは、後述するとおりである。
(4) 当社が、E事件を良き教訓とし、平成18年5月における監査法人の指摘を真摯に受け止めて業務分掌の見直しを含む内部管理体制や内部監査の強化等の再発防止策を講じていたならば、牽制機能が働いて、Aらによる本件不正行為の継続を困難ならしめ、あるいはより早期に発覚し得た可能性があったことは否定できない。
2 人事異動の停滞
当社の役職員に対するヒアリングの結果、当社の人事異動が一般的な上場企業に比べ極めて限られた範囲でしか行われていないことが判明した。本件不正行為を主導したAについても、入社以来、中日本営業本部に所属し、かつ、入社14年目以降は20年間にわたり一貫して装置営業部門を歩んできた(この間、現中日本営業本部長であるDは、Aの直属の上司であった。)。また、本件不正行為の一端を担ったJやKは、入社当初からのAの直属の部下である。
装置営業部門の取引先は、動伝営業部門に比し中堅中小規模の企業が多く、営業担当者としては、取引先と密接な人間関係を築くことによってスムーズに業務を遂行できる側面がある一方、そのことが取引先との癒着を生み不正を発生させる土壌となりがちである。
本件でも、人事の停滞が本件不正行為の温床となり、また、発見を遅らせる要因となったことは明らかである。
3 上級職員と担当者との権限分化の欠如
当社の社内ルールでは、課長より上級の職員は受注・発注に係る伝票を起案しないこととされている(明確な社内規程等は存在しない。)。ところが本件不正行為を主導したAは、部長ないしSD長という部下を管理する立場にありながら、自ら積極的に営業活動に携わる一方、受注した案件について部下に注文番号の記載を依頼したり、あるいは部下の了承を得、または無断で部下の注文番号を使用して作成した伝票を使って、以後の仕入発注から債権回収までの手続きを自ら一人で抱え込んで行っていた。仮に上級者が案件を発掘したとしても、その後の手続きは社内ルール上部下が実施し、当該案件については上級者はあくまでマネジメントに徹するべきであるところ、本件ではA自身が事実上起案・決裁してきた(それが容易に可能であった)ことが不正を生んだ要因の一つである。
しかも、A(上級者)自身が担当する案件の有無や内容(ないし社内規程の遵守状況)について、Aの直属の上司である中日本営業本部統括役員が長期間にわたってチェックらしいチェックをしておらず、また社内にそれをチェックする有効な体制が講じられていなかったことも本件不正行為の継続を容易ならしめ、発覚を困難にした要因である。
4 コンプライアンス体制の不備
(1) 組織の上級者に対する隷従の姿勢
本件不正行為は中日本営業本部SD長(同本部のナンバーツー)であるAが自ら利益を得る目的で行ったものであるが、一部の幹部職員は本件の行為が不正なものと認識していながら、自らも不正な利益を得るため、不正取引に積極的に加担した。更に、より広範囲な職員が、不正取引であることを認識しつつも、それに反対意見を具申しようとせず、また、他の上級職員、経営幹部、監査役等に具申・相談することもなく、Aに言われるままに不正取引に加担した。このように、本件不正行為に関しては、上級者の指示に盲目的に従うといったコンプライアンス意識の欠如もその背景として重要な要因である。
(2) 営業に対する監査部門の猜疑心の欠如と営業尊重の気風等
上述のとおり、DD社関連直送品の長期滞留や金額の増大が問題となり、平成24年1月以降は、その対応として「DD社関連 直送品在庫管理」に関する打合せ等が継続的に行われ、そのなかで、再三にわたって監査役等から最終納入先での現物(実在性)確認を求められたのに対して、Aは、その都度あれこれ理由を付けてこれに応じようとはしなかったものであり、また上記打合せにおいて決定・指示された改善策についても、Aは一部を実行するのみで、総じて誠実な対応をしているとはいえない状況であった。このようなAの対応に対し、監査部門としては、逆にそこに不正が孕んでいる可能性があることも想定し、猜疑心をもって、独自の行動で臨むべきところである。 ←【当会コメント】安中タゴ事件の場合、市役所や土地開発公社の監査は全く飾りに過ぎず役に立たなかったが、巨額の横領金を貸し出していた群馬銀行の監査部にも重大な落ち度があった。にもかかわらず、両者のこうした責任者は不問とされ、巨額横領事件の和解金は103年炉0んとして市民の肩にしわ寄せされ、毎年公金から2000万円が群銀にクリスマスプレゼントされている。
しかしながら、内部監査室やコンプライアンス室等の監査部門は、Aが提出した工程表や納入物とされた写真等によって在庫の実在性が確認できたとして、Aの主張を容認し、実査については、終始A本人に相手先との折衝を任せきりにして、独自にDD社側と直接に連絡をとり、Aの説明の合理性を確認したり、現物確認についての折衝をしようとはしなかった。
Aが優秀な幹部職員であるとの評価が社内で浸透していたとはいえ、過去10年以上にわたり一度も仕掛在庫の現物確認がなされていないこと、また、仕掛在庫が急速に増加していることを異常だと認識していたことからすれば、猜疑心をもってより深度ある監査手続きを実施すべきであったと考えられる。
また、当社の社内においては、営業部門を過度に尊重する気風があり、管理部門や監査部門は営業のサポート部門であるとの認識(換言すれば、コンプライアンス軽視の風潮)が全社的に存在していたとのことである。
加えて、当社では、伝統的に営業部門と管理・監査部門との人事交流が殆どなく、管理・監査部門には営業経験者が在籍しないことから、営業社員の説明や弁解を容易に受容したり、疑問を抱いてもそれ以上に深く追及しない(追及できない)傾向があるとのことである。このことが、営業部門における不正の端緒に複数の者が気付いていたにも拘らず、今一歩踏み込んだ調査が行われなかった要因と考えられる。
(3) 役職員における当事者意識・管理意識の不足
中日本営業本部装置営業部における仕掛在庫(長期滞留在庫)の異常な増加について、複数の役員、幹部職員が不自然であるとの認識を持っていたにも拘らず、それを取締役会や経営会議等の公式の場に上呈することなく、そのため役員間で全社の重要問題として認識されることはなく、社長にすら明確に伝わった形跡はない。また、当委員会が行った当社役職員に対するヒアリングからは、問題を認識しつつも、他部門の問題は結局は他人事に過ぎないといった傍観者の姿勢をもつ役職員の存在がうかがわれる。これは、役職員が自分の管轄外の問題を全社の問題として認識し、自らも当事者として解決しようとする当事者意識が不足していることから生じた事態と考えられる。このような役職員間における重要問題に関する情報共有の欠如や当事者意識の不足が本件不正行為の発覚を遅らせた一因となったと考えられる。
また、同様のことは本件不正行為の舞台となった中日本営業本部の内部においても指摘できる。中日本の営業を統括すべき立場にある者が、SD長たるAが自ら一気通貫の営業を行っていることを認識し、またAが担当する取引において長期滞留在庫が異常に増大しつつあることを認識し、あるいは容易に認識できたにも拘らず、「Aを信頼していた」として、Aのなすに任せていたものであって、当事者意識、管理意識の希薄さを指摘せざるを得ない。 ←【当会コメント】安中タゴ事件でも元職員タゴに対して、誰も疑念を持つことなく、むしろ「有能で」「真面目で」「仕事のできる男」という評価を周囲が与えていた。
(4) 内部監査室・コンプライアンス室の形骸化
コンプライアンス上、監査役監査とは別に、内部監査による業務内容の問題点の洗い出しが行われることが求められる。当社では、内部監査室とコンプライアンス室が内部監査を受け持っている。現在の内部監査室は、平成21年10月に社長直属の組織として設置され、コンプライアンスに関する専門部署であるコンプライアンス室及び財経部門等と連携しながら、社内情報の収集に努め、各部門の業務遂行状況の点検等を行っている。
しかしながら、現実の業務としては、いずれの部署も人員が極めて乏しく、その結果、内部監査室はいわゆるJ-SOX対応に忙殺され、一方、コンプライアンス室は兼務する法務・審査部門の業務与信管理等も分掌しており、法令違反行為の防止等のコンプライアンス業務に割くことのできる
時間が限定されていることから、いずれも本来組織に期待される役割を果たすことができたとは言い難い。
(5) 内部通報制度の形骸化
当社では、「法令違反、社内規則違反、社会通念に反する行為などに関する内部通報制度を設けることにより、当該行為の発見を容易にし、必要な改善を迅速に行い、不祥事を未然に防いでグループ全体のコンプライアンス体制の強化を図るとともに、透明性の高い職場環境を作ることを目的」(「内部通報制度に関する規定」第1 条)として内部通報制度を設けている。しかし、通報窓口が会社内(コンプライアンス関係の通報窓口はコンプライアンス担当役員)に限定されているなど、その設計は社員にとって通報しやすいものとはなっていない。また、社員にヒアリングした限りでは、その制度の内容や意義が全役職員に十分に周知されているとはいえず、実際にも本制度は殆ど利用されておらず、有名無実化しているのが実情である。
(6) 役職員におけるコンプライアンス意識の希薄さ
以上に掲げた諸点に通底している問題点は、当社役職員におけるコンプライアンスを尊重する意識(役職員の各自が、自ら法令を遵守することはもちろん、他人の法令違反についても見て見ぬふりをせず、協働して健全な会社を維持し発展させようとの意識)の希薄さである。すなわち、本件においては、当社に底流するそのようなコンプライアンス軽視の気風が、上記(1)ないし(5)のような形で顕現、作用し、本件不正行為の温床となり、かつその早期発見を阻害したものと思われる。
そして、当委員会の調査では、従来、そのような気風が存在することが経営陣ないし経営トップにおいて明確に意識されておらず、外部者(社外取締役、社外監査役、会計監査人)からも明確に指摘されないまま放置されていたことが判明した。コンプライアンスに関する社内憲章や規程が存在せず、社員に対するコンプライアンス教育が全くといってよいほど実施されていないことなどは、その端的な表れである。
もっとも、調査では、当社においては役職員間における派閥や対立関係、無用な軋轢等が殆どなく、職場環境は融和的な気風に富んでいるという美風が存在することも同時に確認されたところであって、この点は今後とも維持されなければならないが、そのこととコンプライアンス意識の改善、涵養は相反するものではなく、当社が今後とも健全に発展し、永続するうえで不可欠な両輪であるというべきである。
5 会計監査人による監査上の問題点
上述したように、いわゆるE事件の際に、当社の会計監査人であるAZ監査法人は、平成18年5月11日付の「第103期監査概要報告書」で、「貴社では営業担当者が顧客との交渉から始まり、発注先の選定、発注手続き仕入検収等、一連の業務全てについて関与することが基本となっています。営業担当者の裁量範囲が広いことから、より職務分掌が細分化された組織と比して、一般的に不正リスクが高いと言えます。従って、内部管理体制や内部監査の強化等の対策による再発防止へ向けての留意が特に重要だと思われます。」との正鵠を射た指摘を行っていた。また、同時に同報告書では、「KA社に対する滞留在庫」に関して、「①~③は、部課の利益が芳しくないため、架空の取引を設定し別注番に在庫計上していたもので、特に①については、・・・仕入先にも協力要請している可能性が高くなっています。・・・・今後、このような架空取引処理を防止する仕組の整備と、また、経理課での滞留在庫や仕入計上時のチェックの強化が必要です。」との指摘もなされている。これらの指摘は、いずれも本件不正行為の防止ないし早期発見にそのままつながり得る重要な指摘である(同時にこれらの指摘事項の対象事案は、当社の各営業部門において同種事案が発生するリスクが現に存在することを窺わせる兆候でもある)。
ところが、当社経営陣がこれらの指摘に基づいて具体的な再発防止策を何ら講じなかったことは上述のとおりであり、それにも拘らず会計監査人は、自らの指摘事項に関する当社の不作為(放置)に対して、その後の監査において継続的に改善を促した形跡はない。
しかも、AZ監査法人に対するヒアリングによると、平成22年3月期から監査責任者に就任した現在の筆頭監査責任者は、上記指摘事項について、前任者から一切引継ぎを受けておらず、また、同監査概要報告書の内容そのものも関知していないとのことであって、監査の連続性、一体性が確保されていない。
これでは、当社の業務上の不正リスクに関する当監査法人自身による適確な監査の効果が、当監査法人みずからの事後的対応によって減殺され、全く活かされることなく雲散霧消したといわざるを得ない。
このような会計監査人の事後的対応状況も、本件不正行為の発見を遅らせた一因をなしたものと考える。
第6 再発防止策
1 基本的な考え方
本件不正行為の原因を総括すると、株価向上や信用維持を狙った経営者関与型の不正ではなく、上位の管理職が私的な利益を獲得することを主たる目的とした従業員不正である。また、不正関与者の属性については、外部取引先との共謀があり、一方、会社内部では当該管理職が所属する部門の部下を広範囲に巻き込んで、長期間にわたってさまざまな手法による不正取引を繰り返してきたことが見て取れる。従って、かかる企業風土のもとでは、不正の防止策について特定の不正類型に特化した防止態勢を整備するとその裏をかかれるリスクが大きく、一方で、すべての不正を完全に遮断する大がかりなコントロール手段を講じることも経営の効率性やコストとの兼ね合いからは好ましくない。そこで、防止策を構築・運用するためには、事業活動における法令等の遵守や財務報告の信頼性にかかる内部統制の整備を基軸として検討することが現実的な手法と考えられる。内部統制を構成する要素としては、①統制環境、②リスク評価と対応、③統制活動、④情報と伝達、⑤モニタリング、⑥ITへの対応が挙げられ、これら6つの要素が経営管理の仕組みに組み込まれて一体となって機能することが求められる。したがって、以下ではこれらの要素ごとに再発防止の観点から有効な施策を検討することとする。更に、不正に関しては事前にこれを防止するだけではなく、発生した際に速やかにこれを発見し是正するといった事後的な対策も重要であるので、このような視点も盛り込んだ施策を検討する。
2 統制環境にかかる施策
統制環境とは、組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に関する意識に影響を与えるとともに、内部統制を構成する他の要素の基礎・基盤となるものとされる。具体的には「企業風土」「企業文化」ともいうべきものである。かかる観点から見た当社の問題としては、第5において述べたように、①企業経営者の姿勢(経営トップが、自社の行動規範を遵守し自ら実践する姿勢を強くアピールする機会が十分でなく、会社全体に法令遵守等を徹底する土壌や雰囲気が形成されていない)、②組織内の風通し(他部門の悪い情報を見聞きしてもそれを自らの問題と捉えず評論家的な姿勢にとどまってしまい、マイナスの情報を役員に報告する雰囲気が生まれにくい。また、複数の事業部門間で相互チェック機能が働いていない)、③営業部門至上主義(営業部門が会社の中心的存在で管理部門は営業をサポートする立場にとどまるといった意識、営業成績を上げる部門、個人に対する遠慮が存在する)等の要因を指摘することができる。
このような観点からの具体的な防止策としては次のようなものが考えられる。
(1) コンプライアンス規程等の策定・周知徹底
企業内で発生するさまざまな問題に直面した役職員が、迅速かつ的確な判断や行動を選択することを可能にするためには、企業風土を健全化してコンプライアンス経営を確立し、それを全社に浸透させることが必須である。そのためには経営トップによる積極的かつ不断の取組みが不可欠である。このような観点から次のような施策が求められる。
ア 現行の「企業倫理規定」に加え、より具体的に企業コンプライアンスを確立するための行動指針を定めた「コンプライアンス規程」等を策定する。
イ 「企業倫理規定」、「コンプライアンス規程」等を役職員に対して周知徹底すべく経営トップ自らが行動する。
ウ かかる「企業倫理規定」「コンプライアンス規程」等は役職員に配布するハンドブックの目に付きやすい場所に記載したり、社内のイントラネット等ですべての役職員がいつでも内容を確認できるような施策を採るとともに、コンプライアンス強化月間等を催行して定期的に注意喚起をうながすことにより、役職員に対する浸透力・拘束力を高める。
(2) 独立性が高くかつ法律や財務・会計的知見を有する社外取締役・社外監査役の起用・活用独立性が高く、かつ、法律や財務・会計に関する専門的な知見を有する社外役員を選任し、同役員が、取締役会、監査役会等の場で多岐にわたる経営活動について、それぞれの知見、独立性を活かした明確な意見具申をできるような体制を構築するとともに、その意見を尊重し活発な議論を展開できるような風土を醸成する(なお、当社の社外監査役は、いずれも当社の主要取引先である株式会社椿本チエイン出身者が就任する慣例となっている。しかし、これは、東京証券取引所・有価証券上場規程の規定する独立役員制度の趣旨からは必ずしも適切な人選とはいえないと考えられ、少なくとも1名は上記のようなより独立性が高く、かつ法律や財務・会計的知見を有する者であることが適当と考える)。
(3) 規程等違反に対する懲罰規程・基準の整備・明確化
コンプライアンス経営の遂行を担保するために、コンプライアンス遵守を定める規程を整備し、違反した場合に懲罰を課すための規程、懲罰の基準等をあらかじめ整備する。更に、不正等が生じた際には、懲罰委員会等の組織において、それらの規程に従い、恣意性を排除し厳正かつ公正に対処することが求められる(平成18年に発覚したE事件の事後処理に見られるような不正行為者本人に対する温情的措置は、他の従業員の不信感や甘え、コンプライアンスを軽視する風潮を醸成し、結果的に会社に多大な損失をもたらす結果となりかねない。)。
(4) 実効性のあるコンプライアンス研修・教育の実施等
実効性のあるコンプライアンス研修・教育を実施するために外部講師の招聘等適切な研修プランを策定する。その際には、全員一律の内容ではなく、対象者の経験年数、地位、担当業務に適合した研修・教育内容となるよう工夫する。また、法令・ガイドライン等の改正・改訂につき正確にフォローした最新の内容となるよう留意する。
(5) 経営会議・取締役会等での情報の共有
今回の社内ヒアリングにおいては、複数の役員からA の言動や名古屋装置営業部門の直送品仕掛在庫の増加について「何となくおかしい」との違和感を抱いていたとの証言が得られた。しかし、その感覚は、経営会議・取締役会といった公の場に情報として共有されることはなく、個人のレベルに留め置かれる状態であった。そこで、取締役・執行役員は、不正リスクのある、もしくはその可能性のある事象に関する情報に接した場合には、それが確定した情報であるか否かにかかわらず、経営会議・取締役会に報告して、組織的に対応等を講じることができるような経営環境を整備・運用する必要がある。つまり、役職員は、情報を個人レベルで処理しようとせず、多くの役職員がそれを共有できる体制を整備し運用することが求められる。また、不正に対しては全社的な対応が必要であることを理解し、経営陣における横断的な連絡・協働関係を構築して、情報の収集・監督を強化する必要がある。
その一助として、役員や役員就任予定者を対象とする、会社法や金融商品取引法等における役員の基本的義務や責任等を内容とする研修の機会を設けることも検討に値する(ちなみに、役員ヒアリングにおいては、役員の中には取締役の善管注意義務や責任等についての会社法上の基本的知識すら乏しい者がいる旨の証言もあった。)。
(6) 内部監査の機能強化
内部統制の構築・運用状況を監査する仕組みとしては内部監査の実施が重要であるところ、当社においては内部監査を掌る内部監査室とコンプライアンス室の職務分掌が必ずしも明確でなく(そもそも職務分掌規程が存在しない。)、また、人員の配置が不十分なうえに非本来業務に時間を取られるといった体勢を改める必要がある。内部監査の機能を強化するために次のような施策が考えられる。
ア 内部監査室、コンプライアンス室、リスクマネジメント委員会等の職務分掌を明確にするとともに、具体的活動における相互の連携・協働についても明確化する。また、内部監査室、コンプライアンス室に調査権を与えるなど、その権限を強化し、かつ、その内容を全社に周知させる。
イ 内部監査室、コンプライアンス室には専担の職員を配置し他部門と兼務させない。
ウ 監査研修等に定期的に出席させ内部監査のスキルアップを図る。
エ 内部監査室、コンプライアンス室に、営業経験者など不正が起こる可能性のある部門の内実を熟知し不正にかかる専門知識・技能を有する人材を配置し、不正の端緒に対する注意力を高めるとともに、営業部門に対して物言う姿勢を明確にする。
(7) 取締役と内部監査部門・監査役との連携
取締役と内部監査室・コンプライアンス室等の内部監査部門及び監査役とが相互に連携することが必要である。そのためには取締役と内部監査部門、監査役間の情報の格差を是正し、不正リスクへの対処方法についての認識を共有化するため、取締役と内部監査部門、監査役は定期的にコミュニケーションを行い、不正リスクに関する情報について情報を共有できる体制を整備する。
(8) 取締役・監査役と会計監査人との連携・協議
取締役・監査役は、将来発生が懸念される不正リスクや問題点について、定期的に会計監査人から意見・見解等を聴取し、また、会計監査人と協議して認識を共有することが求められる。一方、会計監査人が不正の端緒に気づいた場合には、取締役・監査役と対応を協議できる体制を整備する必要がある。また、財経部門においては、会計監査人とのなれあいが疑われるような対応を一掃して適度な緊張感を保持すべく意識を改革する必要がある。
3 リスク評価にかかる施策
リスクの評価と対応とは、組織目標の達成を阻害する要因を「リスク」として識別し、分析・評価するとともに、そのリスクへの適切な対応を行う一連のプロセスをいう。当社においては、本件のような不正行為の発生に関する適切なリスク評価がなされておらず、したがってまた、適切な対応が取られなかったことは上述のとおりであって、この点に関しては次のような施策が考えられる。
(1) リスクマネジメント委員会、コンプライアンス室等によるリスクの定期的見直し
今般、E事件の際における会計監査人からの不正リスクに係る指摘が再発防止策として活かされず、また、中日本営業本部の仕掛在庫の増加に気づきながらその対応が不正防止につながらなかった反省を活かし、リスクマネジメント委員会等において不正が発生するリスクとその影響の程度を毎期見直すとともに、個別の取引先に対する与信リスク(与信枠)の見直しも行う。
(2) 財務データ上の異常値の検出
財務経理部門、リスク管理部門等に優秀な営業部門経験者を配置することによって、数値上の異常値を見逃さず、不正リスクがある取引を早期発見してそれを是正する措置を講じるべきである。かかる施策は不正の早期発見の見地からは必須のものである。
4 統制活動にかかる施策
統制活動とは、経営者や部門責任者などの命令・指示が適切に実行されることを確保するために定める方針・手続をいう。統制活動には、権限や職責の付与、業績評価や職務の分掌などの広範な方針・手続が含まれる。当社における統制活動上の問題としては、上述したように、①特定の人物に過度の裁量や権限が付与され、他からのチェックが及びにくい構造になっている、②職場環境が閉鎖的になっている等の問題がみられる。具体的な再発防止策としては次のような施策が考えられる。
(1) 定期的な人事ローテーション
長い期間にわたって同一の従業員が同一の取引先を担当すると、取引先との貸し借りや癒着が生じ、不正を生む温床となりやすい。また、担当者が変わらないことから、取引の内容が他人の目に触れる機会が少なくなり、チェック機能が働きにくくなる。そこで、人事ローテーションを定期的に行い、不正行為が隠蔽されにくい環境を整えることが不可欠である。また、定期的なローテーションは、仮に不正が生じたとしても早期にこれを発見することにつながり、会社に与える損害を軽減することができる。
もっとも、当社装置部門の営業などでは、ある程度の専門性が要求され、かつ、取引先との人間関係が円滑な営業推進上必要となることも事実である。そこで、取引先との関係を完全に断ち切るのではなく、同一部署内で担当取引先を交代させるといった緩やかなローテーションも一部併用することが現実的な対応として考えられる。更に、部門内の異動のみに頼ると、当該部門が本社等による牽制機能が働かない「聖域」となり、恣意的な事業運営が行われるリスクが高まり、人事ローテーションが行われない場合と同様の弊害が生じてしまう。そこで、ある程度の経験を積んだ職員を本部の管理部門や他地域の部門へローテーションすることも重要であ
る。
なお、一般論として、人事ローテーションを行うと、一時的には取引先との絆が断ち切られるリスクがあるが、長期的な視点からは、広範な取引類型に即応できる職員を育てることになり、結果的に会社に対してプラスをもたらすものと考える。
(2) 権限の分離
一般的に、特定の組織に権限が集中すると他部門による牽制機能が働きにくくなるため、恣意的な事業運営が可能となり、不正行為を抑止・発見することが困難となりがちである。本件においては、中日本営業本部において、営業担当者に受注から仕入発注、回収までの広範な権限が集中したことが不正発生の大きな要因となっていた。また、本件では、本来受注時の起案権限を持たない上位管理者であるA が、部下の名義を用いて伝票を作成し、その後の案件管理まで一人で抱え込んで行ってきたため、相互監視が働かなかったことも不正を生んだ要因の一つである。このように水平的な権限の分断がなく、垂直的にも権限が分化していなかったことが不正発生の要因になるとともに、その発見を遅らせる結果をもたらしたと考えられる。そのため、権限が適切に委譲され、権限分離を徹底した職制を整備・運用することが不可欠である。不正や誤謬を相互監視・チェック等により防止するという職務分離は内部統制の根幹をなすものである。
(3) 審査部門の設置
本件では、中日本営業本部の装置営業部門で仕掛在庫が膨れ上がっていたにも拘らず、その原因や内容をチェックする権能を果たす部署が設けられていなかったことも、不正を防止したり早期発見できなかった原因の一つである。そこで、取引の内容を審査する部門を設置して、債権管理や在庫管理業務を強化することが必要である。当社では特に技術内容にかかる審査を担当する別会社であるツバコーセールスエンジニアリングが設立されているが、人員が限られている等の問題があり実効性が乏しい状況である。
(4) 権限分掌規程・社内決裁権限規程等の見直し
当社では職務組織及び業務分掌に係る規程が存在していなかったり曖昧であったりする場合が散見された。権限分掌規程・社内決裁権限規程等を明確に定めるとともに、その内容を定期的に見直し、組織長以下の責任・権限の設定と周知徹底を図り、不正を防止できる態勢を整備することが求められる。
(5) 在庫管理に関する規程の整備・運用
在庫管理に関する規程を整備し、棚卸管理が適切に行われることが必要である。そこで、仕掛在庫(直送品在庫)を含め、入庫と出庫の事実を管理するとともに、本件のような架空取引を防止し、あるいは早期に発見するためには、管理・監査部門が適宜(状況に応じて抜き打ち的に)営業部門から独立した立場で納入先や仕入先におもむき、直接に現物の確認を行うことも不可欠である(不正行為の発見につながることはもとより、不正行為に対する抑止・牽制機能を期待できる。)。
5 情報収集・伝達体制の拡充による防止策
情報と伝達とは、必要な情報が識別・把握・処理され、組織内外や関係者相互間に正しく伝えられることを確保することをいう。特に、必要な情報が関係する組織や責任者に、適宜、適切に伝えられることを確保する情報伝達の機能が不可欠である。
(1) 内部通報制度の整備・周知徹底等
内部通報制度は、早期に不正の芽を摘むとともに、そもそも不正を行うインセンティブを滅殺する役割を果たす。また、リスク管理の有用な手段として、また、コンプライアンス経営を実現するためのインフラとしても極めて重要な制度である。当社には「内部通報制度に関する規定」が存在するが、通報の実績は皆無に近く、同制度が実効的に機能しているとはいい難い状況である。そこで、役職員が不正にかかわる情報を自発的・積極的に通報しやすくするような制度の設計・整備・運用が不可欠である。そのためには、通報者の立場・利益が確実に擁護され、役職員が自発的に通報を行うモチベーションが存続するような制度を構築し、運用するという視点からの検討が重要である。
具体的には、現行の「内部通報制度に関する規定」では通報窓口を担当役員に限っているが、これに限定することなく、弁護士事務所等社外の第三者による窓口をはじめ複数の通報ルートを設定して、従業員が通報をしやすい体制を構築すべきである。また、匿名通報を広く認めるかどうかも検討すべき課題である。
(2) リーニエンシー制度の導入の検討
不正行為を行い、または行おうとした者が企業側調査の前に自主申告した場合、懲罰・処分を軽減するリーニエンシー制度の導入も検討課題となりうる。
6 モニタリングによる防止策
モニタリングとは、内部統制の有効性・効率性を継続的に評価するプロセスをいう。モニタリングにかかる再発防止策としては、監査役や内部監査室によるモニタリングの実施が重要であり、監査役と内部監査室、コンプライアンス室、リスクマネジメント委員会との協働・連携、並びに監査役と内部監査室及び監査法人との連携を強化する必要がある。今回の事件に関しては、平成24年1月以降におけるこのような協働・連携と管理統括役員の取引停止の指示が最終的にはAをして架空循環取引の継続を断念させ、遅まきながらも本件不正行為の発覚に結びついたものであって、評価されるべき点であるものの、内部監査室や監査役によるモニタリングが日常的に機能していたならば、より早期に発見できた可能性がある。従って、今後とも他部門との連携を強化しつつ監査役や内部監査室による監査を実効あらしめることが望まれる。また、これらの複数の監査関係部門の間で、最新の不正行為事例や契約形態についての認識を共有することが必要である。
7 IT の利用による防止策
モニタリングによる不正防止の観点からは、大量のモニタリング対象からシステマティックな手法により「不正リスクの高い事象」を抽出した後、経験や勘を活かした人為的な判断をすることが効率的と考えられる。かかる観点からは、いわゆるフォレンジック等の手法によってシステマティックに対象を抽出し、そのうえで検出したリスクの確認と評価を行ったうえで、当該リスクの防止策を整備することが望ましい。
以 上
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【ひらく会情報部:タゴ51億円事件18周年記念調査班・この項つづく】
※参考「監査法人について」
椿本興業はあずさ監査法人のクライアント(顧客)です。
http://www.saiyou-cpa.com/contact/data/azusa.html#2
有限責任あずさ監査法人は2003年に設立され、2010年に有限責任制度適用の監査法人に移行しました。 我が国の4大監査法人(新日本、あずさ、トーマツ、あらた)の一つで各社の年間売上は約1兆円から数千億円に上ります。これら4大監査法人は、本邦企業のグローバル化に対応して、ビッグ4と呼ばれる海外の大手4大監査法人(アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)、KPMG、デロイト・トウシュ・トーマツ(DTT)、プライスウォーターハウス・クーパース(PwC))と提携しています。
あずさ監査法人は、2011年8月の総合情報誌月間FACTAのスクープと同年10月の英国人社長解任で発覚した巨額の粉飾決算事件を起こしたオリンパスの監査をしていました。この事件により金融庁は2012年7月6日、オリンパスの会計監査を担当したあずさ監査法人と新日本監査法人に業務改善命令を出しました。
http://www.fsa.go.jp/news/24/sonota/20120706-7.html
このうちあずさは粉飾実行時を含めて2009年3月期まで30年間あまり監査を担当し、10年3月期以降は新日本が引き継いでいました。金融庁は両社の「引き継ぎが十分ではなかった」点に焦点を絞り、業務管理体制をより整備するよう命じたのでした。
とりわけ、1千億円を超える「飛ばし」を見過ごしたあずさ監査法人に対しては「処分が甘すぎる」という批判が巻き起こりました。特に問題とされたのは、監査法人の交代が決まった直後に、あずさがオリンパスに要求した監査内容の修正でした。監査の不備を隠蔽しようとしたことがこの背景にありました。
大手監査法人といっても、実際には個人経営の会計士や税理士の集団です。だから、長年にわたり担当会計士等との関係により、癒着が生じやすくなります。2003年の足利銀行の債務超過事件、2005年のカネボウの粉飾決算事件で金融庁に業務停止命令を出された当時の最大手の中央青山監査法人が破綻した時も、司法当局はカネボウ事件について、会計士個人の犯罪として、監査法人の起訴を見送りました。
しかし、粉飾決算をしていた企業の監査などの関与が世間に知られたことで、同監査法人の信頼性に疑義が生じることになり、その後解散を余儀なくされたのでした。しかし、所属会計士等は別の大手監査法人に移籍しており、失業の心配はありません。
今回、椿本興業の不正取引について、同社の会計を監査してきたあずさ監査法人に対して、どのような評価がなされるのか予断を許しませんが、今回の事件による影響は免れないと思われます。
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