新型コロナウイルス感染症の症状は、検査結果が陰性になれば終わるわけではない。通常は、感染してから陰性判定が出るまで10日ほどかかるが、症状はその後も数週間から数カ月、またはそれ以上続くことがある。
新型コロナウイルスの後遺症に関して、2022年11月1日付けで科学誌「Nature Communications」に発表された論文では、英スコットランドで3万1000人以上の新型コロナの有症状者を対象に調査したところ、42%が完全に回復するまでに6~18カ月かかり、6%はその後も症状が残ったという。
陰性判定後もだらだらと続く症状は、どの時点でいわゆる後遺症と認められるのだろうか。また、それが慢性化してしまったのか、それともいつか症状はなくなるのかといったことは、どうしたらわかるのだろうか。
コロナ後遺症の症状と患者数
コロナ後遺症を正式に何と呼ぶべきかは医学界でもまだ定まっていない。また、どんな症状が含まれるのか、どのくらいの期間続けばコロナ後遺症と診断されるのか、またどのくらいの人がその症状に苦しんでいるのかなどもはっきりしていない。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルスの感染から少なくとも3カ月以上経過しても症状が続く場合を、「post-COVID condition(罹患後症状)」と定義している。米疾病対策センター(CDC)は、4週間症状が続いていれば後遺症を疑ってもいいとしている。
コロナ後遺症には様々な症状があり、これまでにいくつか大規模な研究が実施されてきた。2022年11月10日に医学誌「PLOS Medicine」に発表されたドイツの研究では、96の潜在的症状に関して調査したところ、新型コロナウイルスに感染したことのある人の間で、こうした症状が多くみられることがわかった。
18歳未満の場合、最も多い症状が倦怠感と疲労感であり、咳、喉と胸の痛み、頭痛、熱、腹痛、不安感、抑うつが続いた。成人では嗅覚と味覚の変化が最多で、熱、呼吸困難、咳、喉と胸の痛み、脱毛、倦怠感、疲労感、頭痛などが多かった。ちなみに、先のスコットランドの研究では、頭痛、嗅覚と味覚の異常、疲労感、動悸、便秘、息切れ、関節痛、めまい、抑うつなど26の長期的症状を調べていた。
スコットランドの研究における後遺症の期間は先に述べた通りだが、似たような症状は新型コロナウイルスの検査で陽性になっていない人にも出る可能性はある。そこで、ドイツの研究ではコロナに感染していない人と比べたところ、感染から3カ月以上たって新たに症状が出た人は、陽性判定を受けたことがない人より30%多かった。なお、感染から3カ月以上経過した後に長期的な症状がある割合は、CDCが2022年10月に実施した4万1000人以上へのアンケート調査では約14%だった。
米ニューヨーク州マウントサイナイ・ヘルス・システムの神経科学者であるデビッド・プトリーノ氏は、様々な研究結果から、新型コロナウイルス感染者の5人に1人から20人に1人の割合で、コロナ後遺症の症状が見られるようだと話す。しかし、正確な割合よりも、その現実への影響の方が重要だという。「いずれにしろそれらの数字が事実なら、患者の数は膨大です。私の診療所も既に6カ月先まで予約で埋まっていて、全員が24時間年中無休で寝る暇もないほど働いています」
回復の見込みは?
コロナ後遺症患者の予後もまだはっきりとしていない。マウントサイナイ・コロナ後治療センターを訪れる患者の多くは、リハビリ開始から3カ月以内にある程度改善するものの、10%の患者には全く改善が見られない。
また、ウイルス感染によって起こる慢性疾患の「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」に達するまで症状が進行してしまう可能性も否定できない。米ハーバード大学医学部およびマサチューセッツ総合病院の神経科学者であるマイケル・バンエルザッカー氏によると、EBウイルスに感染して重症化した人の10%がこの診断を受けるという。バンエルザッカー氏は、これが一部の新型コロナウイルス感染者にも起こるのではないかと懸念する。