(声 どう思いますか)2015年12月18日付掲載の投稿「医学部に入りはしたけれど…」
その他 2016年2月3日 (水)配信朝日新聞
■医学部に入りはしたけれど…
大学生 宮澤慶史(宮城県 19)
自分の将来が見えない。私は今春、医学部に入学した。それなりの志をもって医学部受験を決めたが、想定とは程遠い環境に、人生の選択をミスしたのではないかと不安である。
1年生は専門科目が少なく一般教養科目がほとんどだが、一般教養の方が圧倒的に興味深く、楽しい。また、他学部の学生の方が馬が合う。なぜか医学部の学生とは波長が合わない。自分は医師に向いていないのでは? だが、医学部生は医師になる以外に選択肢がないようにも感じる。
人生の選択をする段階では、その判断が正しいのか分からない。自分の選択が正しかったと思えるように生きたいが、今の状況では可能性が低いと感じている。大学で様々な学問を学ぶ前に、自分の将来を見据えることは難しい。
(2015年12月18日付掲載の投稿)
◇
■あなただけの正解を見つけて
大学生 鈴木美里(秋田県 25)
今春、医学部を卒業する学生です。ご投稿された方は、他学部の学問や学生の方が魅力的に映るのですね。そのままで良いと思います。
医学部は学年が上がるにつれ専門の色が濃くなります。自然と身のまわりが医学生中心になっていく。そんな時、様々な世界の人とつながりを持つあなたは、医学部仲間とは違った目線で物事を見ることができるでしょう。専門性の高さから閉鎖的な環境になりがちな医学部において、大きな武器になります。
人生における判断が正しかったかどうかは、選択の段階ではわからないことが多いと思います。今は疑問に思っても、数年後には正しかったと思い直しているかもしれません。厳しい選抜を乗り越えたあなたの手中には、他にはない可能性がたくさんあります。あなただけの正解を見つけてください。応援しています。
■あなたこそ求められている医師
精神科医 定塚甫(愛知県 69)
求められている医師像そのままの学生さんなので、どうしても後押ししたいと投稿しました。「一般教養が楽しい」というのは医師に必要なことです。患者さんは多くが一般の方ですから。
「医学部の学生とは波長が合わない」とも書かれていますが、合う方が問題かもしれません。入試だけに専念し、何も知らず、常識も趣味もない医師が増えていますから。「患者さんとの共通の話題を作るために、毎日テレビを見ている」と悲しい努力をする医師もいます。
「いろいろな患者さんがいらっしゃる」ということを受け止められれば、一方的に専門用語を投げつけるような医師になることはありません。あなたのような方こそ、患者さんを大きな心で受け止めることが出来ると信じて疑いません。今の考えを持ち続けて6年間を過ごし、患者さんの支えになってあげて下さい。
■患者さんとうまくいくはずです
内科医 石丸忠彦(長崎県 75)
医師は悩める患者さんを相手にする職業です。専門科目の知識だけでは良い医療はできません。心理学、倫理学、哲学など一般教養も大切で、全人的な教育の必要性が叫ばれているのです。私も国語や英語など一般教養科目を勉強したので、日本語でも英語でも論文の読み書きができます。
他学部の学生と馬が合うそうですね。他学部の学生とうまくいくなら、患者さんともうまくいくはずです。医師が相手にするのは患者さんで、医師ではないのですから。
医師に向いていないかどうかを決めるのは、時期尚早だと思います。もうしばらく一般教養の勉強と他学部の学生との交流を楽しみながら、将来のことを考えたらいいと思いますが、いかがですか。私は、君こそが医師になるべき人だと思います。
■痛み知るのに邪魔な教養はない
会社員 白石晃(東京都 54)
90歳の母が腸閉塞(へいそく)で入院しました。無事に退院できましたが、医師から母の不安を和らげる言葉を聞けなかったことが残念です。食事は母に残された数少ない楽しみの一つです。それさえ失うのかと絶望しかけたとき、「きっとまた食べられるようになります」と言われたらどんなに励まされたでしょう。
治るかどうか分からない患者に対して、勇気のいる言葉かけかもしれません。でも、患者に希望を与えることができれば、医師自身も患者の変化によって励まされると思うのです。
「専門科目より一般教養の方が興味深く楽しい」という悩みを、僕はむしろ頼もしい気持ちで読みました。他者の痛みを知るのに邪魔な教養などありません。専門の立場から正確な情報と技術を提供するだけでなく、隣人として患者を支える医師になってください。
◆ゆっくりと考えたら
映画監督で大阪芸術大教授の大森一樹さん 高校時代から映画を撮っていましたが、黒澤明監督の「赤ひげ」の影響もあり、京都府立医大に入りました。僕も初めは医学部の学生とは波長が合わなかったけど、専門課程をやり出したら、医学は面白かった。人間の体って、こうできているのかと。
卒業後の国家試験には落ち、同じころ撮った医大生の青春群像「ヒポクラテスたち」が全国公開されて、映画で生きようと決めた。あとで医師免許はとったけれど。
まだ10代。そんなに早く人生の結論を出さなくていい。医学部を卒業しても、医者だけが選択肢じゃない。iPS細胞の山中伸弥さんみたいに研究者になった人もいる。医学生に限らず若いうちは、いろいろな人や映画、本に出会いながら、これからの生き方をゆっくり考えたらいいと思います。
その他 2016年2月3日 (水)配信朝日新聞
■医学部に入りはしたけれど…
大学生 宮澤慶史(宮城県 19)
自分の将来が見えない。私は今春、医学部に入学した。それなりの志をもって医学部受験を決めたが、想定とは程遠い環境に、人生の選択をミスしたのではないかと不安である。
1年生は専門科目が少なく一般教養科目がほとんどだが、一般教養の方が圧倒的に興味深く、楽しい。また、他学部の学生の方が馬が合う。なぜか医学部の学生とは波長が合わない。自分は医師に向いていないのでは? だが、医学部生は医師になる以外に選択肢がないようにも感じる。
人生の選択をする段階では、その判断が正しいのか分からない。自分の選択が正しかったと思えるように生きたいが、今の状況では可能性が低いと感じている。大学で様々な学問を学ぶ前に、自分の将来を見据えることは難しい。
(2015年12月18日付掲載の投稿)
◇
■あなただけの正解を見つけて
大学生 鈴木美里(秋田県 25)
今春、医学部を卒業する学生です。ご投稿された方は、他学部の学問や学生の方が魅力的に映るのですね。そのままで良いと思います。
医学部は学年が上がるにつれ専門の色が濃くなります。自然と身のまわりが医学生中心になっていく。そんな時、様々な世界の人とつながりを持つあなたは、医学部仲間とは違った目線で物事を見ることができるでしょう。専門性の高さから閉鎖的な環境になりがちな医学部において、大きな武器になります。
人生における判断が正しかったかどうかは、選択の段階ではわからないことが多いと思います。今は疑問に思っても、数年後には正しかったと思い直しているかもしれません。厳しい選抜を乗り越えたあなたの手中には、他にはない可能性がたくさんあります。あなただけの正解を見つけてください。応援しています。
■あなたこそ求められている医師
精神科医 定塚甫(愛知県 69)
求められている医師像そのままの学生さんなので、どうしても後押ししたいと投稿しました。「一般教養が楽しい」というのは医師に必要なことです。患者さんは多くが一般の方ですから。
「医学部の学生とは波長が合わない」とも書かれていますが、合う方が問題かもしれません。入試だけに専念し、何も知らず、常識も趣味もない医師が増えていますから。「患者さんとの共通の話題を作るために、毎日テレビを見ている」と悲しい努力をする医師もいます。
「いろいろな患者さんがいらっしゃる」ということを受け止められれば、一方的に専門用語を投げつけるような医師になることはありません。あなたのような方こそ、患者さんを大きな心で受け止めることが出来ると信じて疑いません。今の考えを持ち続けて6年間を過ごし、患者さんの支えになってあげて下さい。
■患者さんとうまくいくはずです
内科医 石丸忠彦(長崎県 75)
医師は悩める患者さんを相手にする職業です。専門科目の知識だけでは良い医療はできません。心理学、倫理学、哲学など一般教養も大切で、全人的な教育の必要性が叫ばれているのです。私も国語や英語など一般教養科目を勉強したので、日本語でも英語でも論文の読み書きができます。
他学部の学生と馬が合うそうですね。他学部の学生とうまくいくなら、患者さんともうまくいくはずです。医師が相手にするのは患者さんで、医師ではないのですから。
医師に向いていないかどうかを決めるのは、時期尚早だと思います。もうしばらく一般教養の勉強と他学部の学生との交流を楽しみながら、将来のことを考えたらいいと思いますが、いかがですか。私は、君こそが医師になるべき人だと思います。
■痛み知るのに邪魔な教養はない
会社員 白石晃(東京都 54)
90歳の母が腸閉塞(へいそく)で入院しました。無事に退院できましたが、医師から母の不安を和らげる言葉を聞けなかったことが残念です。食事は母に残された数少ない楽しみの一つです。それさえ失うのかと絶望しかけたとき、「きっとまた食べられるようになります」と言われたらどんなに励まされたでしょう。
治るかどうか分からない患者に対して、勇気のいる言葉かけかもしれません。でも、患者に希望を与えることができれば、医師自身も患者の変化によって励まされると思うのです。
「専門科目より一般教養の方が興味深く楽しい」という悩みを、僕はむしろ頼もしい気持ちで読みました。他者の痛みを知るのに邪魔な教養などありません。専門の立場から正確な情報と技術を提供するだけでなく、隣人として患者を支える医師になってください。
◆ゆっくりと考えたら
映画監督で大阪芸術大教授の大森一樹さん 高校時代から映画を撮っていましたが、黒澤明監督の「赤ひげ」の影響もあり、京都府立医大に入りました。僕も初めは医学部の学生とは波長が合わなかったけど、専門課程をやり出したら、医学は面白かった。人間の体って、こうできているのかと。
卒業後の国家試験には落ち、同じころ撮った医大生の青春群像「ヒポクラテスたち」が全国公開されて、映画で生きようと決めた。あとで医師免許はとったけれど。
まだ10代。そんなに早く人生の結論を出さなくていい。医学部を卒業しても、医者だけが選択肢じゃない。iPS細胞の山中伸弥さんみたいに研究者になった人もいる。医学生に限らず若いうちは、いろいろな人や映画、本に出会いながら、これからの生き方をゆっくり考えたらいいと思います。
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