疫学調査「手回らぬ」 感染者自身が接触連絡も 新型コロナまん延下の保健所
新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン株」の爆発的な感染拡大に保健所の業務が翻弄(ほんろう)されている。沖縄や広島では、感染者の行動歴を調べる「積極的疫学調査」を絞り込み、一部で濃厚接触者への連絡を本人に委ねる事態に。現場から「手が回らない」と悲鳴が上がる。識者はこうした状況が全国に広がる恐れがあるとして、体制拡充の必要性を訴える。
▽苦境
「オミクロン株がこれほど急速に広がるとは...。想定外の部分があった」。那覇市健康部の国吉真永(くによし・まさのり)副部長は振り返る。市保健所では、市本庁から応援を受け当事者への連絡や積極的疫学調査、医療機関の受診調整を担ってきたが、市の新規感染者は8日、400人に到達。翌9日から濃厚接触者特定と外出自粛を求める連絡を感染者本人に依頼することにした。
昨夏の「第5波」では自宅療養中に亡くなる人もいた。政府は陽性判明翌日までに本人と連絡を取るよう自治体に求めている。「なるべく早く新規感染者へ連絡することを最優先した」と国吉副部長。「若い方はLINE(ライン)で周知するなど思った以上に対応してくれる。今後も『大事な人を守るため』と伝え、理解を求めたい」と話す。
沖縄県内の新規感染者は13日、過去最多の1817人に。本島の保健所は那覇市と同様の対応をしており、苦境は続く。
▽維持
沖縄と同様、まん延防止等重点措置が適用された広島市は、発症からさかのぼって2週間としていた行動歴の聞き取りを2日間に短縮。「オミクロン株は発症までの潜伏期間が短いとされ、2週間たどる必要はない」と市担当者は説明する。
感染経路の推定よりも濃厚接触者の調査に重点を置き、感染拡大に歯止めをかけたい思惑がある。一方で「状況が日々変わる。この先どうなるのか全く分からない」と不安を口にする。
積極的疫学調査の絞り込みは、政府が感染拡大時に許容してきたため、これまでもあった。第5波の渦中にあった昨年8月、東京都は各保健所に、調査を「効果的かつ効率的に実施」するよう通知。医療機関や高齢者施設の関係者を優先し、保健所の負担を減らすことが目的だった。
ただ、自治医科大の中村好一(なかむら・よしかず)教授(公衆衛生学)は「本来、どこで感染し、広がったかを詳細に追わないと、流行は防げない。感染経路が分からない市中感染が増える悪循環になる」と調査絞り込みに警鐘を鳴らす。
こうした中、江戸川区は、感染爆発を想定した保健所への応援体制を構築。感染者数に応じて後方支援要員を派遣し、保健師が調査に専念できるよう事務作業をサポートする予定だ。中村教授は、全国的にさらに感染が広がる可能性があるとして、各地の保健所の体制を整え、調査を維持する重要性を指摘した。
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