「大病院」って、ベッドが何床以上?…診療報酬改定で基準下げ【田村編集委員の「新・医療のことば」】
2018年3月2日 (金)配信読売新聞
「手術を受けるなら大病院の方が安心」とか、「紹介状なしで大病院を受診したら、診察料が多くかかった」など、病気になって診察を受ける時、「大病院」という言葉をよく耳にします。では具体的に、大病院ってどれくらいの規模を言うのでしょうか。
実は医療法のうえでは、病院に大も中も小もありません。「診療所(入院ベッドの数が19床以下)」か、「病院(20床以上)」かの区別だけです。
ただ法律的には同じ病院と言っても、数十床規模の病院と、何百床もある病院では、行われる医療の中身はかなり違います。保険診療の値段を決める診療報酬では、病院の規模による区別があります。4月からの診療報酬改定では、大病院を定義する基準が引き下げられました。
「200床未満」…かかりつけ医の役割も
病床数による区分のひとつは、一般病床の数が200床未満か、以上かの違いです。
200床未満の病院の再診料は、診療所と同じ(72点=1点は10円)です。これに対して、200床以上の病院の再診には、再診料は適用されず、外来診療料(73点)という名目で、簡単な検査や処置も含めた料金となっています。
200床未満の病院だと、診療所と同様に、徴収できる「加算」が多くあります。再診時に上乗せされる外来管理加算(52点)や、かかりつけ医機能の評価として今回新設された初診料の機能強化加算(80点)などです。200床未満の中小病院は、病院ではありながらも、診療所のような、かかりつけ医の役割を持っていることを示すものです。
「500床以上」から「400床以上」へ…「大病院」の対象拡大
前回(2016年度)の診療報酬改定で、紹介状なしで大病院を受診した場合に初診時に5000円以上、再診時に2500円以上の上乗せを義務づける制度が導入されました。今回の改定では、大病院の基準が500床以上から400床以上へと引き下げられました。
正確には、「特定機能病院と、一般病床が500床以上の地域医療支援病院」だったのが、「特定機能病院と、許可病床が400床以上の地域医療支援病院」へと変更されました。許可病床とは、一般病床以外の療養病床や精神病床なども含んだ、病院全体の病床数のことです。
特定機能病院とは、大学病院の本院や国立がん研究センターなどの専門病院で、病床規模の基準は400床以上です。現在は85病院あります。地域医療支援病院は原則200床以上で、もともと紹介状を持った患者が一定の割合以上いることなどを条件に認定されるものです。全国に543病院(16年10月)あります。
今回の改定によって、上乗せが義務付けされる対象は約260病院から約410病院に増えるとされています。
それでも病院全体の約1割…「中小」病院が多い日本
今回の改定では、その他の大病院に関する項目についても、許可病床が「500床以上」から「400床以上」へと基準が引き下げになりました。
大病院には、紹介状を持った患者の割合が低すぎると、初診料などが診療報酬からカットされるペナルティーがあります。従来は「500床以上」の病院が対象だったのが、4月からは「400床以上」に対象が拡大されます。
また、大病院だけに認められた「在宅患者の緊急入院に関する加算」のほか、重症者向けの急性期病床をあまり減らさないため、リハビリなど在宅復帰を支援する「地域包括ケア病棟」の届け出が1病棟に制限される対象も、400床以上の病院が対象になります。
16年の厚生労働省の病院調査だと、全国に約8400か所ある病院のうち500床以上の病院数は400余り。「大病院」の基準が「400床以上」に変わると、その数は800余りになり、従来の2倍近くに増えます。とは言っても、病院全体でみると1割に満たない数です。200床未満の病院が7割近くあることと合わせ、日本には大病院が少なく、中小規模の病院が多いことがわかります。
患者にとってきめ細かで、かつ効率的な医療の実現のため、診療所と病院の役割分担は長く叫ばれていますが、なかなか一筋縄ではいかないのが現実です。背景には、診療所の役割を兼ねた小規模の病院が多く、診療所と病院の実態が曖昧なことがあります。400床以上に大病院の基準を下げたうえで病院の差別化を図ろうという今回の改定の行方が注目されます。(田村良彦 読売新聞東京本社編集委員)
田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。
2018年3月2日 (金)配信読売新聞
「手術を受けるなら大病院の方が安心」とか、「紹介状なしで大病院を受診したら、診察料が多くかかった」など、病気になって診察を受ける時、「大病院」という言葉をよく耳にします。では具体的に、大病院ってどれくらいの規模を言うのでしょうか。
実は医療法のうえでは、病院に大も中も小もありません。「診療所(入院ベッドの数が19床以下)」か、「病院(20床以上)」かの区別だけです。
ただ法律的には同じ病院と言っても、数十床規模の病院と、何百床もある病院では、行われる医療の中身はかなり違います。保険診療の値段を決める診療報酬では、病院の規模による区別があります。4月からの診療報酬改定では、大病院を定義する基準が引き下げられました。
「200床未満」…かかりつけ医の役割も
病床数による区分のひとつは、一般病床の数が200床未満か、以上かの違いです。
200床未満の病院の再診料は、診療所と同じ(72点=1点は10円)です。これに対して、200床以上の病院の再診には、再診料は適用されず、外来診療料(73点)という名目で、簡単な検査や処置も含めた料金となっています。
200床未満の病院だと、診療所と同様に、徴収できる「加算」が多くあります。再診時に上乗せされる外来管理加算(52点)や、かかりつけ医機能の評価として今回新設された初診料の機能強化加算(80点)などです。200床未満の中小病院は、病院ではありながらも、診療所のような、かかりつけ医の役割を持っていることを示すものです。
「500床以上」から「400床以上」へ…「大病院」の対象拡大
前回(2016年度)の診療報酬改定で、紹介状なしで大病院を受診した場合に初診時に5000円以上、再診時に2500円以上の上乗せを義務づける制度が導入されました。今回の改定では、大病院の基準が500床以上から400床以上へと引き下げられました。
正確には、「特定機能病院と、一般病床が500床以上の地域医療支援病院」だったのが、「特定機能病院と、許可病床が400床以上の地域医療支援病院」へと変更されました。許可病床とは、一般病床以外の療養病床や精神病床なども含んだ、病院全体の病床数のことです。
特定機能病院とは、大学病院の本院や国立がん研究センターなどの専門病院で、病床規模の基準は400床以上です。現在は85病院あります。地域医療支援病院は原則200床以上で、もともと紹介状を持った患者が一定の割合以上いることなどを条件に認定されるものです。全国に543病院(16年10月)あります。
今回の改定によって、上乗せが義務付けされる対象は約260病院から約410病院に増えるとされています。
それでも病院全体の約1割…「中小」病院が多い日本
今回の改定では、その他の大病院に関する項目についても、許可病床が「500床以上」から「400床以上」へと基準が引き下げになりました。
大病院には、紹介状を持った患者の割合が低すぎると、初診料などが診療報酬からカットされるペナルティーがあります。従来は「500床以上」の病院が対象だったのが、4月からは「400床以上」に対象が拡大されます。
また、大病院だけに認められた「在宅患者の緊急入院に関する加算」のほか、重症者向けの急性期病床をあまり減らさないため、リハビリなど在宅復帰を支援する「地域包括ケア病棟」の届け出が1病棟に制限される対象も、400床以上の病院が対象になります。
16年の厚生労働省の病院調査だと、全国に約8400か所ある病院のうち500床以上の病院数は400余り。「大病院」の基準が「400床以上」に変わると、その数は800余りになり、従来の2倍近くに増えます。とは言っても、病院全体でみると1割に満たない数です。200床未満の病院が7割近くあることと合わせ、日本には大病院が少なく、中小規模の病院が多いことがわかります。
患者にとってきめ細かで、かつ効率的な医療の実現のため、診療所と病院の役割分担は長く叫ばれていますが、なかなか一筋縄ではいかないのが現実です。背景には、診療所の役割を兼ねた小規模の病院が多く、診療所と病院の実態が曖昧なことがあります。400床以上に大病院の基準を下げたうえで病院の差別化を図ろうという今回の改定の行方が注目されます。(田村良彦 読売新聞東京本社編集委員)
田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。
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