入れ歯を探してゴミ箱あさり

2019-07-20 11:21:09 | サラリーマン人生
 僕のサラリーマン人生の中に転職経験(勤務する会社が変わる事)は一度あった。 その後に同じ会社内で所属変更となる状態は数多くあったが、 その一度目の転職活動の時期に夕食に立ち寄った食堂の調理場の食材くずや残飯を放り込んだ大きな青いポリバケツの中から入れ歯を探すなんて馬鹿な事をやった想い出が50年以上も経過した今も鮮明に残る。

 時は昭和43年2月、 新聞に掲載された募集広告を見て応募の書類を提出し、 面接を翌日に控えた前の晩の事だった。 今も山歩きや山菜採りなどの付き合いが続く、 同期入社したSさんと一緒に荻窪駅近くの食堂に立ち寄った時の話。

 武蔵小金井から新宿を経由して高田馬場駅に至る通勤電車の混雑にウンザリしている事や会社の仕事が面白くなくなっていて転職を考えたこと、 明日には面接がある事などを話題にしたはず。

 食事を済ませ、 荻窪駅へと戻る途中、 上の前歯を抜歯した箇所に暫定的に取り付けてあった入れ歯1本を食事に邪魔だったから食事の皿の上に外して置き、 そのままを食堂を出てしまったのに気が付いた。

 Sさんと一緒に店に戻り、「かくかくしかじか」、「 食事のプレートの上に入れ歯が残って居なかったか?」 と店の人に聞きました。 返事は「気が付きませんでした」、 「皿に何かあったとしても、残飯として廃棄したはず」とそっけない。

 明日の面接に歯抜けの顔を晒すのは困ると思った僕は「残飯用のポリバケツの中を探させて下さい」とお願いした。 店の人は面倒な奴と想ったはずだが、 残飯や食材クズを入れた40リッターサイズのポリバケツと水切り網の役目をするプラスチック製のザルを貸してくれました。

 台所の一隅でポリバケツの中の物を表面から少しづつザルに入れては入れ歯探しを始めました。 残飯を掻き出しては入れ歯が無いか調べる作業を続けました。 店を出たのは数分前だから、 バケツの一番下まで入れ歯が落ち込む事は考えにくい。 一緒に入れ歯探しに付き合ってくれて居たSさんにも申し訳ない気持ちが一杯になりました。 バケツの中全量を確認するのは途中で止めて、 お礼を言って店を後にしました。

 翌日の面接、 採用部署(開発本部・電気研究室)を担当する役員・室長・室員と人事課長、 4名が居並ぶ前での面接でした。 とにかく、 当時24歳だった歯抜けの僕は採用されました。  そして、 その後の40年ほどの2度目のサラリーマン人生が始まったのでした。

 失った入れ歯ですが、 それを作ってくれた新宿駅ビルの上階にあった歯医者さんに引き続き通院し、 転職日となる4月1日よりもずっと前に 「これで一生使えますよ」と差し歯を作って呉れました。 その差し歯はその後の人生を僕の口の中で過ごしています。 このまま棺桶に納まる日まで一緒に過ごすことでしょう。 
  
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