さて、イェンセン氏の経歴を見ると不遇な少年時代から家具職人を経て工業デザイナーとして教育を受けている。オーディオ機器が家具へと収束される可能性も忘れてはいけない。南ドイツにおいて一番多い音響装置の設置は、木の骨董の大きな箪笥の中にスピーカー以外の全てを皿や湯飲み等と一緒に収納して隠してしまう例である。こうする事によって、必要悪の機器と比較的隠されたスピーカーはそれ自身を強調する事はない。そのような場合、特にスピーカーを不適当に隠した場合、その再生クオリティーを度外視しても、どれ程音楽を経験させてくれるかというと甚だ心許無い。BGMとして流れてしまう可能性が強い。音が響く「空間」が消滅してしまうからだ。この「空間」とは、決して録音の音場や「仮想」の演奏風景を意味するのではない。ボーズ博士の主張する秀逸したステレオ再生の三角形からの開放を決して否定していない。「経験」には何らかの空間認識が必要ということである。
イェンセン氏がデザインした1980年代のCDプレーヤーを備えた製品を見ていく。当初は代表作のレコードプレーヤーの傍らにカセットデッキとCDプレーヤーが付け加えられる形式を取っている。もしくは代表作が除かれた形で、平たく枠に木をあしらった四角いブラックボックスのようになっている。以前の意匠や商品(日本人も吃驚)を継承したことで、既に時代遅れのデザインのように見えるが如何だろう。実はその後の同社の「CDのレーベル面を見せて立て掛けた製品」のシリーズは、イェンセン氏が袂を分けてからで彼のデザインでは無い。これは高級から廉価製品まで頻繁に採用されているアイデアである。水平から垂直へと位相変換しただけなのだが、こうして一般に水平方向に向って設置されるスピーカーの振動版と同じ平面に全てを収める事が出来た。しかしこの面が落下方向の90度に設置されていなくて、幾分仰角がつけている。これによって取り扱いの向上と、立体感や薄さが強調されているのだろう。何れにせよ、簡素なのは好いが音響上のトリックがない限り、これらのデザインが空間のイメージの認識に寄与するかどうかは疑わしい。
斜陽の音楽、オーディオ産業であるからマルチメディアの家庭シアターが主力分野となのは当然として、それらにおいては依然として高度工業化された生活への執着から抜け出せていない。実際に求められているライフスタイルはシンプルで単純な方へと向いている。ソフトが齎す「架空」のイメージとここでいう「経験する時間・空間の認識」とは異なる事に留意しなければいけない。
再びDVD、SACDの音響部門に目を向けると、マルチメディアのサラウンドシステムを利用する試みもある。しかしこれら新しいメディアには、現在のところCD市場を塗り替えるだけの勢いは無い。音の方向のパラメーターを重視した20世紀の音楽作品は多い。4チャンネルシステムの轍を踏まないためには、空間表現を持って簡素に再生される環境が必要である。しかし従来の美学から開放されて、21世紀の新たなライフスタイルに即した美意識が形成されるのには時を要するだろう。(工業化された時間のデザイン [ 文化一般 ] / 2005-04-02から続く)
イェンセン氏がデザインした1980年代のCDプレーヤーを備えた製品を見ていく。当初は代表作のレコードプレーヤーの傍らにカセットデッキとCDプレーヤーが付け加えられる形式を取っている。もしくは代表作が除かれた形で、平たく枠に木をあしらった四角いブラックボックスのようになっている。以前の意匠や商品(日本人も吃驚)を継承したことで、既に時代遅れのデザインのように見えるが如何だろう。実はその後の同社の「CDのレーベル面を見せて立て掛けた製品」のシリーズは、イェンセン氏が袂を分けてからで彼のデザインでは無い。これは高級から廉価製品まで頻繁に採用されているアイデアである。水平から垂直へと位相変換しただけなのだが、こうして一般に水平方向に向って設置されるスピーカーの振動版と同じ平面に全てを収める事が出来た。しかしこの面が落下方向の90度に設置されていなくて、幾分仰角がつけている。これによって取り扱いの向上と、立体感や薄さが強調されているのだろう。何れにせよ、簡素なのは好いが音響上のトリックがない限り、これらのデザインが空間のイメージの認識に寄与するかどうかは疑わしい。
斜陽の音楽、オーディオ産業であるからマルチメディアの家庭シアターが主力分野となのは当然として、それらにおいては依然として高度工業化された生活への執着から抜け出せていない。実際に求められているライフスタイルはシンプルで単純な方へと向いている。ソフトが齎す「架空」のイメージとここでいう「経験する時間・空間の認識」とは異なる事に留意しなければいけない。
再びDVD、SACDの音響部門に目を向けると、マルチメディアのサラウンドシステムを利用する試みもある。しかしこれら新しいメディアには、現在のところCD市場を塗り替えるだけの勢いは無い。音の方向のパラメーターを重視した20世紀の音楽作品は多い。4チャンネルシステムの轍を踏まないためには、空間表現を持って簡素に再生される環境が必要である。しかし従来の美学から開放されて、21世紀の新たなライフスタイルに即した美意識が形成されるのには時を要するだろう。(工業化された時間のデザイン [ 文化一般 ] / 2005-04-02から続く)