Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

甘い汁を吸い続けた報い

2009-08-03 | ワイン
手土産で貰った残りの一本を試す。ラインガウのヨハニスホーフ醸造所のレットランド辛口シュペートレーゼ2007年産である。最初の香りの印象は、その土壌の多様性に反して強いスレート香で「お前もか」と感じたが、逆にその香りを裏切る複雑さをも期待させた。アルコールは13.5%と決して低くはないが、2007年産のリースリングであるからまだまだ新鮮さで飲めると期待した。

結論からいうと先日のシュロース・ヨハニスベルクの腐りの2006年産の葡萄とは異なるが傾向は良く似ていて、過熟成がなによりもの欠点となっている。事情は知らないが、なにかグランクリュに拵えるところがそれに満たなかったという事で、要するに酸が足りないのである。価値は販売価格の半分ぐらいでこれもこうしたものに手を出す顧客層が居ると言う事でその醸造所の顧客を含めたレヴェルがそこに明確に反映しているようだ。

その辺りにラインガウの醸造所が、プファルツのミッテルハールトの指導的な醸造所に比べて十年ほど遅れをとっている事を証明している。要するに、ドイツワイン法の果実の熟成度によって「銭を取れたクラス別け」にしがみついてなにも分からない米国人や日本人に誰も飲まないような甘ったるいリースリングを高く売りつけていた既得権のような市場から脱皮できずに高級ワイン協会VDPに属しながらも文字通り「甘い汁」を吸い続けて来た報いが顕著に現われている。

ここまで書くと感の良い事情通の聡明な日本人ならば、今や日本の工業製品が欧州のガイドラインに則る為に欧州商品を研究する事で初めて自国のみならず中国や米国市場などへ向けて商品開発が可能になっている事実を思い出すだろう。要するに欧州は世界の基準を作る事で絶えず文化的に世界をリードして行くことをその是としている事をである。

話題をワインに戻せば、そうした主導権争いはEUと各々の加盟国だけでなくてドイツワイン界内部においても政治と産業界もしくは団体や醸造所とジャーナリズムの中にも激しく存在するのである。その火種が熱く燃え上った好例としてFAZ紙も先頃の「評価本と醸造所の間の軋轢」について文化欄で触れている。文化と評論家の問題を多少なりとも知っている者には、今更ワイン如きのそのような話題にはうんざりである。

上の日本などで有名な甘口を得意として来たモーゼルやラインガウなどの名門醸造所が完全に流れに乗り遅れて尚且つ溺死しかかっている状態を称して、紛争の責任を取って評価本の編集長を辞任したデール氏自体が、「ナーへワインの自らの甘口趣味をその評価本の基準としていた」ことがそこで明白に暴露されている。要するに、ナーへなどのスレート地盤を強く反映させて更にドイツワイン法に従って過熟成させて味を強くしてワインの繊細どころかイロハの分からない人種に高く売りつける方法 ― それどころかそれもない周辺部の場末のワインに不凍液まで混ぜさせたのである ― への反省として生まれた現在の高級ワイン協会のグランクリュを上手く造れない乗り遅れた生産者に対しての救済処置もしくは自己擁護から覇権を取り戻すための行いがこうした評価本の基礎にあったという見解である。

その実態に関しては知らないので私見は控えたいと思うが、上のように収穫量を落としたグランクリュを醸造できない地所 ― 多様性に富んだ土壌だけでなく過熟成のため酸の不足や甘口なら誤魔化せる健康な貴腐の欠如に悩む ― は少なからずドイツの多くのワイン産地にはあり、その結果として上のような試飲したリースリングがドイツのワインとしてまるで「盲人が像の鼻を触るよう」に扱われた矢先には、私も声を大きくして叫ばなければいけないだろう。

「ドイツリースリングなんて、とてもじゃないがフランスの繊細なワインそれどころかアルザスのそれとは比較にはならないよ!瓶の底が引っ込んでいないワインなんて安物ワインだよ!」

正直お話にならないのである。そこで如何にラインガウのロバート・ヴァイル醸造所がミッテルハールトの指導的な醸造所に比べてつまらないワインを醸造していて非常識な高値をつけると愚痴っても、並み居る名門のラインガウの醸造所がこれぐらいのワインしか醸造出来ていないのを見ると、なるほど「ヴァイルがドイツ最高の醸造所」だという声も納得出来るのである。

モーゼルやラインガウの名門がハールトのそれのようなグランクリュ栽培醸造に遅れを取り戻して十年後にそれが造れているのかどうかはなんとも言えない。なにもそうしたワインでなければいけない訳ではないが、そうでなければ国境が取り払われてフランスワインと互角に対抗出来るものができないという協会の方針は決して間違ってはいなかった。なんでもない、そうしたリースリングを醸造できる地所や醸造所がどこにどれほど存在するかという問題だけなのである。

上のワインの詳細について纏めておくと、醸造所が天然酵母醸造を主張しないながらも還元醸造を銘打っている事からハールトのVDP会長のクリストマン醸造所にも通じるリースリングである。もちろんそこでは酸の欠けるようなリースリングは知る限りここ二十年ほど出荷していない。もちろんそれだけの差ではないが、期待に反してモノトーンのようなロットランドの土壌はあの山城やローレライのような岩盤の味覚でもあるのだろう。その取っ掛かりのなさは黄土の乗ったラインヘッセンのフーバッカーののっぺり感にも通じる。しかしそれほどの綺麗さもない。価格については、同価格のクリストマンのSCと比べると半分の価値も無い。そもそも数少ない辛口に手を出す者が珍しいのだろう。

因みに1994年から新興醸造所と持ちず持たれずで台頭して来た評価本の連中は、広告費と称して所場代を請求するのみならず、顧客でもないのに只飲みをさせろと嘯くワインジャーナリスト ― この類ではミシュランを語る頻発する無銭飲食の詐欺行為が有名である ― の盟主である。FAZの記事に漫画が掲載されていて、ジャーナリスト先生は醸造家にワインを注がせながらくだをまく。

「どんどん注げよ!僕はねゴーミヨ・フラットレート・ガイドのために仕事してんだよ。読者はね、ただただ後遺症に興味があるだけなんだよ」



参照:
Einer wie der andere - ist das Qualität?, Alard von Kittlitz, FAZ vom 1.8.09
EUワイン市場改革とドイツワイン (モーゼル便り)
迫力満点の暑苦しいヤツ (新・緑家のリースリング日記)
ゲオルグ ブロイヤー ラウエンタール 2007 (ワイン大好き~ラブワインな日々~)
熟成する力関係の面白味 2008-05-30 | ワイン
プァルツの真の文化遺産 2008-01-13 | ワイン
腐れ葡萄にその苦心を窺う 2009-07-30 | ワイン
コメント (6)
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