Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

疑わしい神の恵みへの眼差し

2010-10-08 | ワイン
休肝日二日目を過ぎるといよいよ体調が悪化した。食欲も無くなり、胃が荒れだして、このままだとバリウム検査が必要になる。ここは無理をしてでも百薬の長を投薬しなければいけない。胸焼けの原因は昨日書いたようにストレスとそれに伴うミルク無しコーヒーの飲み過ぎなのであるが、アルコールが完全に体から消えても一向に好転しない。更に天気予報ではまずまずの好転が予想された金曜日であるが、陽が射したのはやっと夕方になってからである。そうなると全く駄目である。

力を振り絞って欲しくないワインを口にして、食べたくない夕食へと繋げた。そしてやっと生きた心地がした。大したアルコール量でもないのに一瞬のうちに緊張が解れた。抗欝剤でもこれほど効果は無いに違いない。そして何よりも細やかで複雑な味や香りに集中できる悦びは、まさに覚せい剤感覚に違いない。五感が職業柄?覚醒するのである。飲みたくないのに、高価なリースリングを開けるのは躊躇われたが、やはり開けて良かった。もし、精密検査などで病院通いすることにでもなれば時間も金銭もこの程度では済まない。本当に「神の恵み」に感謝する想いである。

新聞の折込としてグルメ雑誌が入っていた。そこではワインが半分ほどの位置を占めていて、先日開かれたエバーバッハ修道所の古酒リースリングの試飲会の様子が紹介されている。ジャニス・ロビンソンやスチュワート・ピゴなどのジャーナリストに混ざって、ワイン農家代表としてヴィルヘルム・ヴァイルも参加していてて、百三十年ほど前のリースリングが「思いがけなく新鮮」であったと感嘆している。数年ももたないようなそれではなくこうしたリースリングを提供して欲しいものである。

それに続くのがピゴ氏の文章である。ドイツで今や三番目ぐらいに有名なワインジャーナリストであり、英国でもTV番組で御馴染みだというが、どのようなジャーナリストかは良く知らない。恐らく試飲会でも会ったこともない。彼に言わせると、歴史的事実である百年前のドイツのリースリングの国際的評価、つまりマルゴーよりも遥かにロンドンで高価であった事実から、世界的に評価を落としてしまって久しいドイツのリースリングを述べている。つまり特に敗戦後の西ドイツの高度成長の工業製品化したワイン産業が、不凍液騒動を招いたとなる。しかしそうなるとオーストリアのそれは十分に説明出来ないが、元々はドイツのリースリングはエレガントだったとなる。これについてはなんとも体験としては語れないが、なるほど陽の弱い優れた土壌から生産されたドイツのそれはオーストリアの重い土壌の「下手な、くどい」それとは雲泥の差であったことは歴史的にも証明されている。しかし、戦後の復興期から安定成長へと西ドイツの工業化が進む中でのその転落の道は、十分にそれだけでは説明できないように思うがどうだろう。

更にそれを救い、現在の高級化への道を歩んだ例としてテロワールへの拘りを、レーヴェンシュタイン醸造所やエルンスト・ローゼンやベルンハルト・ブロイラーに代表させるのは合点が行かない。彼らが現在提供しているリースリングは、特に最後のブロイラーなどをみても既に本人が故人となっているとは言っても、どうも繋がらないのである。なるほどエルザスのそれを手本としたとすればローゼンのそれなどは幾らかそれを感じるが、ブロイラー自体はそれほど素晴らしい地所を保有しているとは思えず、先日お土産に頂いたラウエンタールのそれを吟味しても必ずしもそのお手本を感じることは難しい。と言うか、如何にも業者らしく上手に造り過ぎである。

ラウエンタールの地所自体はとても一般受けする素晴らしいリースリングが出来て、現在のブロイラーのそれもその清潔さで素晴らしいのであるが、テロワールの面白さとか複雑さを表現するにはそもそも向かない地所であり ― これはそのものダイデスハイムのヘアゴットザッカー一般にも通じる、逆に奇麗に造ってしまっている事でもともとのその地所が持っているおおらかで土着的な味が消えてしまっている。若干の残党感や苦味の悪さは2009年の特徴だとしても、変に薄化粧したような浴衣姿の町娘の様でもありどこかコーラワインに通じるようで興醒めであった。

ピゴ氏が、ぬべっとした取り立てて特徴も無い複雑さの無いケラー醸造所のそれよりもご近所のヴィットマンの成果を評価するのは理解できるのだが、この著名なワインジャーナリストが現在のドイツリースリングの本当の実力を把握しているのかどうかは疑わしい。そもそもテロワールとは何かを、その地所を歩いて十分に体験しているのだろうか?そして、リースリングとの出会いが1982年にはじめて旅行したモーゼル・ラインでのシャルツホーフベルクのシュペートレーゼとフォルストのウンゲホイヤーだったというから笑わせる。後者はバッサーマン・ヨルダン醸造所のヘーネ氏のそれを指しているのだろう。
コメント (12)
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