Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

肉汁たっぷりを活かす

2012-08-30 | 試飲百景
ザールへの旅の思い出として忘れぬうちに書き留めておこう。最大の成果は、フォンフォルクセン醸造所のリースリングを試せたことであるが、反対に予想を確認したのが、ザールシュタイン醸造所での試飲であった。

先ずなによりも2011年産における亜硫酸過多を確認して、それに関して保存剤としての効果を主張するだけで、醸造上の問題としての説明が無かったことは、まさしくこの醸造所がスタンダードな醸造法を踏襲するだけでそれ以上の仕事もせずに努力もしていないことを明らかにした。オーナーの人間性に関しても予想通りであり、それについては触れる必要もないが、一つだけ否定的な印象は写真よりもほっそりとしていて、如何にも醸造所の覇気の無さを体現しているようでとても残念であった。

スタンダードな醸造法や栽培の踏襲で、いかにもVDPの方針とその道筋を歩んでここ数年は可能性を感じさせていたのであるが、それを土台とした意志の高さがないことには高級なワインなどを提供できないのである。なるほど、当日もハムブルクの酒業者が試飲に訪れていて、我々と入れ替わりとなっていたが、95%までは辛口が売れる国内市場において、その辛口のスタンダードの質が問われるのである。当日試飲した中で、お試しパケット以上に良い印象を得たものは皆無で、寧ろ荒が目立つものもあった。正直、今後の発展にはあまり期待できない。

そこで紹介されたホテルレストランは、ドクター・ヴァークナー醸造所の近くにあったのだが、ツインをシングルとして90ユーロということで、やめた。そのヴァークナーの最もベーシックな半辛口のリースリングを貰って試した。予想以上に炭酸も少なく、静かでありながら残糖感があまり残らないのに感心した。やはりザール独特の重めの酸が効いているからだろう。辛口でなければ流石に上手に醸造している醸造所は数多いに違いない。

しかし辛口においては最終的に土壌感やミネラル風味を十分に出せないことには高級ワインとはならないので、亜硫酸過多が鼻に来るようなリースリングでは話にならないのである。結局は、熟成の最後においての温度管理や樽の扱いなど細やかな扱いが出来るか出来ないかの相違に違いない。

宿探しで思い出したのがアイルにあるペーター・ラウワー醸造所である。二十年ほど前に訪ねたときもホテルのレストランで試飲をしたのを覚えていたからである。町は小さく、殆ど当時の記憶はなかったが、唯一のホテルらしきを見つけるには飲酒運転でも殆ど時間は掛からなかった。店先の感じなどは当時とは異なっているようだったが、安くとても快適にそこで飲食住が出来た。

食事に、四種類ほどのグラスリースリングを取って、フンスリュックのジューシーな豚肉に合わせた。食後にホテルオーナーと彼の母さんのことやフランクフルトの日本の旅行手配会社の支店長親仁のこと、昨年日本から訪れたソムリエ氏のことなどを話しながらの送迎ドライブの後、改めて二種類の高級リースリングを試飲させて貰った。一種は、クップ56と名づけられたクップの中間域に56年に植えつけた葡萄で、翌日先代が懐かしくそのときのことを語ってくれた。青スレート系のスパイシーさがなかなか綺麗に出ていたので購入した。もう一種のショーンフェルツは更に力もあり、土壌のベースは岩盤となっているようだが、味筋は逆に角が無くて物足りなかった。価格差は三ユーロであるが、もしこの醸造所がVDP加盟であったならばこうしたちぐはぐな印象を与える価格設定は起こらないであろう。つまり我々が吟味すれば結局価格も決まってしまうということなのである。エクストラトロッケンも改めて試飲して購入したが、その価格とフォンフォルクセンのザールリースリングを比較すれば、如何にフォルクセンのワインに価値があって、ラウワーのそれが独自な価格体系の中で動いているかが分るであろう。美味いとか不味いとかの問題ではなくて、高級ワインの価値はその質にあるのだ。

VDP加盟ザールシュタインのグラウシーファーとラウワーのエクストラトロッケン・ファスツヴァイの価格は、前者が若干高いが、その質などを比較すれば殆ど変わらない。寧ろ後者の方が価値がある。VDPに加入していることで価格が上がるような例は無いことは無い。加盟醸造所の中堅どころのその価値は必ずしも市場価格よりも高く無いと言うことでもある。

全体の印象としては、ザール地方は国境にも近いこともあってか、嘗てのザール地方の鉄鋼などの経済発展にあやからなかった地域は経済基盤が弱い。そのような理由で高モーゼル高架橋の建設などが経済政策として決まったのであるが、観光だけでなく地場産業のワイン栽培などの可能性を狭めるとすればもはやこうした地域には生き残りの可能性は無くなる。そのワイン栽培も嘗てのように甘口を醸造して海外の市場に依存しているようでは、結局は零細なワイン農家は生きていけないだろう。国内つまりEU内市場があってこその経済である。



参照:
ザール渓谷の文化の質 2012-08-18 | 文化一般
ザールリースリングの旨み 2012-08-20 | 試飲百景
大量生産ビオ商品市場で 2012-08-26 | 試飲百景
コメント (4)
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