Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

彫塑の必要な若者様式

2023-04-17 | 
承前)「夕焼けに」における老夫婦の語り合いは当然パウリーネとのそれのようだ。そのパウリーネがまだ若い34歳の作曲家の交響詩「英雄の生涯」に重要な章として描かれている。

その「英雄の生涯」こそは知り合ったロマンロランの作品であり、そこに英雄交響曲の葬送行進曲を除いた交響詩が創作されているとされる。当然「英雄」の変ホ長調であり、それがこの音楽史の中心にあった「影の無い女」の皇帝の主題へと連なる。未だ19世紀だったころの創作であり、当時としては十分に先駆的な作風であったとされる。

特に敵である批評家との戦いは中抜けの五度の激しい音楽となっていて、フィナーレの平安へと導かれる以前にパウリーネのその性格が重要な意味を成すのは、この交響詩の特徴である次次から次へと津波のように押し寄せる音楽で圧倒させる曲頭の在り方があるからであり、その楽想が当時のユーゲント様式における幅の広い跳躍の撥ねによって形成されているということでもある。

美学的な在り方で、特に大規模管弦楽曲などでは分析的に何も分からなくても大音量で次から次へと聞き手が処理できない大きな音響で圧倒してしまうことで成果を為す方法である。このような楽曲は何も分からない聴者をも圧倒するので所謂名曲となり易く、聴衆がこぞって大歓声を上げて拍手するエンタメ要素の多い楽曲となる。

今回の演奏、つまりペトレンコ指揮ベルリナーフィルハーモニカーの初めての「英雄の生涯」と二回目のそれを聴いて、特にパウリーネのヴァイオリン独奏が終わってからのその後の部分が嘗てのカラヤン指揮ではあり得なかった表現であった。一夜目のあとの駐車場に下りる道すがらでも80年代のカラヤン指揮のその話を家族にしていたお父さんがいた。その通り言及の様にこの曲こそはカラヤンの十八番であったのはまさしく何も分からないでもそこに座っている聴衆を諸共攫って行ってしまうカラヤンサウンドの見事さだったのである。

勿論ペトレンコ指揮のベルリナーフィルハーモニカーのその演奏は、当時のルーティン化されていたその演奏よりも遙かに情報量も多く、演奏程度も桁違いに高い。しかし、現時点では到底カラヤンサウンド効果には及ばない。それでも言及した点を中心にまるでオペラの伴奏の様な音楽は味わい深い。更に新入りの女性のコンツェルトマイスターリンが率いていることで重要な高弦群が一体化して管楽器などに対峙するだけの表現力とはなっていなかった。

このことからまだ今後彼女自体の研磨もあり、夏のツアーでの演奏そして、極東旅行前でのフランクフルトでの壮行演奏会での出来上がりが待たれるところとなった。練習も十分に出来ていない所から ― 恐らく二夜目も午前中にペトレンコがユース楽団を振っていた時にアシスタントが振って練習していたのだろう、細かなところをしっかりと攫うことで彫塑が出来上がってくると思われる。如何に美しいユーゲント様式を完成させるかであろう。



参照:
興味ある音楽的な扱い 2023-03-24 | 文化一般
二つのプログラム企画 2023-02-10 | 文化一般
コメント (4)
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