
最初は気持ち悪くて読むのを辞めようかと思った。内容が、ではなく、文体が、である。おかまの男の子が「あたし」を連発する。でも、それは内面の声で表向きはふつうの男として振る舞うから、その落差もなんか鼻に付く。でも、明らか確信犯的行為なので、それでもそんな文体で描こうとする作家の思い入れがあるのだろうと、我慢する。原田マハはこういうタッチの小説を書かない。ある種の覚悟の元の行為なのだから、そこを見届けたい、と思い読み続けた。さすがにだんだん、慣れてくる。
軽いタッチで女の子に生まれたかった男の子の恋と仕事が「花の都」パリ、を舞台にして描かれる。もうマンガやろ、と思わせる設定が続出。冗談満載。ラブコメという体裁なのだが、最後まで読んだ時に、こういう自由っていいよな、と思わされた。無理な設定を押し通し、三文小説のルックスで、最後まで貫く。憧れの小説家と出会い、夢の仕事を手に入れ、パリでアーチストとして活躍する。恋も仕事もがんばる乙女青年。
バカバカしいと匙を投げることも出来た。だが、そうはさせない。やがてこれが切なくて、胸が痛む感動のドラマになることすら、定番でしかない。ただ、自分らしく生きたいと願い、そのための全力で努力する彼に夢のような出来事が舞い降りする。そこで彼はそのチャンスをしっかり捕まえて、自分の未来を切り開く。夢物語で終わらせないロマンがそこにはある。
ライトノベルのスタンスで、とてもわかりやすく大切なものを提示する。気取ることなくそんなシンプルなものを提示するために、敢えてこういうスタイルを取ったのだろう。「天下一品のラブコメディ。五行に一回、笑っちゃうような。でもって、ところどころ、ほろりと泣ける、とびきりのロマンスを」ちゃんと届けてくれた。感動的で、気持ちのいい小説。