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映画・演劇のレビュー

『ベイビー・ブローカー』

2022-06-24 18:09:43 | 映画

今年のカンヌ映画祭で主演のソン・ガンホが主演男優賞を受賞した是枝裕和監督の最新作。『真実』でフランス映画に挑み今回は韓国映画だ。日本映画にこだわるのではなく軽快なフットワークでグローバルな映画作りにチャレンジしていく姿勢は凄い。そして作品自体もとてもいい映画だ、とは思う。だけど、従来の是枝作品と較べるとこれは少しお話自体が甘い気がする。お話の展開も緩い。警察があんなにも暢気に追跡しているのが不思議だ。しかも女性ふたりのコンビだけで彼らを追いかける。子供を売買するはずが、疑似家族になっていくなんていうお話だから、ハートウォーミングになるのは仕方ないのかもしれないが、それにしても甘々。ソン・ガンホだってそれほどいいとは思わない。今までの数ある傑作映画と較べてこれが特別いいわけではない。これはいつもながらの彼だ。

どちらかというとカン・ドンウォンのほうが新鮮でよかったのではないか、と思う。見終えたとき、子供を抱えておろおろする彼の姿が一番印象に残る。児童養護施設出身の彼が感じてきたこと、赤ちゃんを売買するというこの仕事を通してそれがただの金儲けや犯罪ではなく、もっと大事な何かをそこに感じ、関わってきた。ソン・ガンホのただの子分なんかではない『何か』。自分の出自と重ね合わせ、自分たちの営みをどう受け止め、今回のトラブルを通して彼がどんなふうに変わっていくことになるのか。カン・ドンウォンの目線からすべてを描いたほうがきっと映画はもっとすっきりした作品になったのではないかと惜しまれる。主演はソン・ガンホではないことは明らかだ。

赤ちゃん売買のお話だったはずが、気が付くと疑似家族誕生のお話になる。ふたりのベイビー・ブローカーが、誘拐した赤ちゃんの母親を巻き込み、さらにはカン・ドンウォンを慕う少年を同行させることになり、この5人の旅は続く。これはロードムービーである。この偶然の旅を通して、彼らが変わっていく。たまたま手にした赤ちゃんを介して疑似家族が生まれる。そこに漂う甘やかな香り。シビアな現実ではなく、暖かい心情。是枝監督は今回、そこに帰着点を用意した。そこが僕のもの足りない原因なのだけど、作り手はそれでいいと踏んだのだろう。

 


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