今回の万博設計はなんとひとり芝居である。しかも、役者経験はほとんどないダンサー、槙なおこの単独主演(ひとり芝居だから「単独」は当然だけど)である。公演には彼女のSoloーDramaと銘打たれている。しかも脚本はイトウワカナ、で橋本匡市は演出に専念。彼の企画というより槙さんの企画でそれにイトウさんが乗っかり、橋本さんが請け負った、というような立ち位置だったのではないか。橋本さんの方から出た企画ではないように思える。従来の彼の作品系列とは明らかに異質だ。それだけになんだか見る前は不安な気分だった。しかも、劇場に入ると流れている音楽が子供向けの楽曲で、僕が見た回は未就学児の鑑賞会。
でも、これがよかった。(5回あるステージのうち、2回はお子さまの入場可)なんだか昔見た親子劇場の演劇鑑賞会の雰囲気。懐かしい。真っ白な舞台。舞台中央の白い布、その中央正面から顔を出す。手を出す、足を出し、やがて生まれてくる女の子。彼女の願いはひとつ。お空にあるあの雲をつかみたい、触りたい。あきらめを知らない女の子の挑戦が描かれる。
客席の3分の1近くが子供で、彼らには幾分難しいかもしれないような内容なのだけど、ちゃんと子供たちは退屈することなく見ている。前半は少しテンポが遅く、単調な繰り返しに乗り切れない気がした。でも、大丈夫。だんだんこの作品のペースが理解できてくると、その流れに乗っかることができる。やがては単調なのに、それが新鮮に思えてくる。同じようなことをしているのに、毎回微妙に違う。
お芝居自身は、子供におもねるわけではなく、こびることもない。おぎゃと泣いて、生まれてくる、思うようにいかないまま、生きて、死ぬ。その繰り返し。いろんなものになる、いろんな職業に就く。雲をつかみたいと願い、そのために様々なチャレンジをする。休憩をはさんだ後の後半になると、生まれて死んでいくという繰り返しのスピードがどんどん増してきて、エスカレートする。ここからが凄い。舞台を走り回る槙さんは大変だったと思うけど、子供たちは楽しい。『ちびくろサンボ』で虎がバターになるようにぐるぐる回り続ける。目が回るのではないかというくらいに走り回る。そして、あきらめずに「次は何をしよう!どんな人生を送ろう」とへこたれない。大統領には何度となくチャレンジするけどなかなかなれないし。このシンプルなドラマは子供向けではなく、すべての世代にアピールする。これはお話ではなく、身体をフルに生かしたパフォーマンスであり、とても気持ちのいい寓話だった。