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映画・演劇のレビュー

まはら三桃『鉄のしぶきがはねる』

2012-01-27 00:02:54 | その他
北九州市にあるとある工業高校の女子生徒を主人公にした青春小説。彼女は機械科で唯一の1年生。男の子の中に混じって、たったひとりで過ごす高校生活ってどんな感じなのだろうか。そのへんが描かれるのか、と思ったが、実はそうではない。

 きっと、そこにいれば、そんなことは特別どうこういう話ではなくなるのだろう。彼女にとってそういう環境はただの日常なのだ。そんなことより、彼女は、もの研(ものづくり研究部)に誘われ、久しぶりに旋盤に触れる。彼女の中にある職人としての血が騒ぐ。このお話の本題はこちらだ。

 まはらさんの小説はこれで2冊目なのだが、今回も前回(『たまごを持つように』)同様、乗り切れなかった。前回は弓道部の話で、今回は旋盤を扱う「もの研」の話。マイナーな世界を丁寧に扱い、その姿勢自体は悪くはないのだが、描く世界があまりに狭く、閉鎖的だ。これらはどこにでもある普遍的な高校生のドラマと通じるものなのだが、そうは見えない。

 ディテールをちゃんと描くのは当然で、その上で彼らにしか見えない輝きが、ちゃんとそこに描かれ興味がひかれる。そうでなくてはダメだろう。なのに、彼女の小説はそうはならないのだ。大体「高校生ものづくりコンテスト」という、僕等にはよくわからないものの魅力をもっとちゃんと描かなくてはこの話は成立しないのに、そこを敢えておざなりにする。もちろんそんな気はないのだが、そんなふうに見えるくらいにコンテストのシーンがそっけない。

 なぜそうなるのか。答えは簡単だ。そこがこの小説のクライマックスではないからなのだ。まはらさんは彼女の日常を描くことを第一とする。日常のスケッチこそがこの小説のテーマなのだ。もちろん、それはそれでいい。だが、それがもっとこちらに迫ってこなければ意図が伝わらない。そのためにも、再び旋盤と向き合った彼女が何を思い、何を感じたのか。そんなこんなのひとつひとつをもっときちんと見せなくてはならないだろう。タイトルにある「鉄のしぶき」の魅力が描かれたなら、この小説にもっと共感できたことだろう。

 主人公の三郷心という少女の屈折した心情とか、彼女を取り巻く三人の「もの研」部員たちとのドラマとか、紋切り型でもいいから、関係性をもう少ししっかり描いて欲しかった。あれもこれもがあまりにそっけない。悪くはないし、こういう感じはどちらかというと、好きなのだが、それだけにあと少しのインパクトが欲しい。それだけできっと、とても素敵な小説になるはずなのだ。目の付け所はとてもいいだけに惜しい。



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