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映画・演劇のレビュー

『37セカンズ』

2020-06-15 21:05:40 | 映画

今年2月劇場公開されたばかりの映画だ。早くもネットフリックスで配信されていたので見た。力強い映画だ。障害を持つ女性が自分の力で生きていく。もちろん、周囲の人たちの援助がなくては生きられない一面がないわけではない。でも、そんなのは障害のあるなしにかかわらず、誰だって同じだ。僕なんか自分一人では何もできない。

彼女は自分の才能を生かし、漫画家として自立できるように戦おうとする。ゴーストライターとして、自分の作品を友人が自作として発表している、歯痒い。障害者が書くマンガでは商業ベースに載せられないなんていう、現実がある(のか?)。いろんな差別を今までも受けてきたはずだ。映画はそんな彼女の抱える現実を淡々としたタッチで直視する。

生まれたときに37秒間呼吸できなかった主人公を、この映画のヒロインと同じように脳性麻痺を抱える佳山明が演じる。それゆえ映画は生々しくドキュメンタリーのような感触を抱える。障害者(障碍者と書くべきか)の性を生々しく捉える前半戦が衝撃的だ。編集者から「セックスをしたことがないあなたにはエロ漫画を生々しく描くことはできない」と言われる。そこから始まる「体験」をするためのチャレンジがすごい。そういう切り口でこの手の映画が語られることは今までなかっただろう。普通なら地道な努力を感動的に描くというパターンになる。だけど、この映画は赤裸々とセックスという切り口から描き始める。もちろん彼女は別にエロ漫画が描きたいわけではない。漫画家としての自分の才能を試したいのだ。なんとかして突破口をみつけたい。藁にも縋る思いからだ。

彼女の抱える障害が根底には確かにあるだろう。だが、それだけがテーマではない。後半別れ別れになった父親の消息を訪ねて双子の姉の存在を知り彼女に会いに行くためにタイにまで行くというなんだか突然の急展開になる。この映画はそういういきなりの描写がその魅力だろう。強引すぎて見ていて少し引くけど、作り手はそんなことにいささかも躊躇しない。障害を描くのではない。障害も含めた彼女の人生を描くのだ。自分の置かれた状況にひるむことなく、前向きに生きる姿が感動を呼ぶ、とかいうようなヒューマンドラマではなく、どこにでもいるふつうの(でも、脳性麻痺だけど)女の子の自立への道が示される。彼女の頑張りを追いかけるこの映画は事実をしっかり受け止めて出来ること、彼女ができたことを描く。すがすがしい。気持ちのいい映画なのだ。

 


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