これもまた、たまたま手にした本なのだけど、これがまた実に素敵な本で、神さまに感謝。近所の図書館がしばらく蔵書点検のため休館で、借りていた本が尽きた。仕方なく用事のついでに少し遠くの図書館に寄ると、新刊コーナーにこの本が並んでたのだ。表紙も好みだし、児童書なので一瞬で読めるから、速攻借りてしまった。そして早速読み始めたら、止まらない。しかも愛おしいから読み終えたくない。ずっとゆっくりと読んでいたいな、と思ったけど1時間ほどで読み終えてしまった。悲しい。
小学6年生の女の子の夏休みのお話だ。「これは小学六年のわたし、日高美話の「言葉」が、ちょっとだけ大人になるまでの話―」と巻頭にある。それだけのこと。だけど、それだけのことがこんなにも愛おしい。抱きしめたくなる。そっけないタイトルもいい。
9章からなる。第1章の「ソラモリさんと秘密メモ」から最終章の「ソラモリさんとわたし」まで基本一貫して「何々と何々」というスタイルのタイトルが並ぶ。ふたつの対比。全体が空森さん(漢字で書くとこうなる)とわたし(美話のことだけど、これはたぶん、はんだ浩恵、本人でしょうね)に集約されていく。大人のはずのソラモリさんはまるで子供みたいだ。というか、彼女は子供であるわたしと対等に付き合ってくれる。上から目線はない。(というより、同じ目線からの上から目線ならあるけど)
言葉を巡るお話に終始する。そこに集約される。よくあるような夏休みの冒険にはならない。いや、この小さな冒険は大きな嘘くさい作り物の冒険とは違い、ほんとうの大冒険だ。映画のキャッチコピーを専門とするコピーライターのソラモリさんは一日1時間半しか働かない。でも、ずっと仕事のことを考えている、と本人は言うけど、遊んでいるようにしか見えない。わたしはソラモリさんのオンボロアパートに連れていかれて、何度となく、そこで過ごすことになる。そして彼女との対話になかで、いろんなことを知っていくようになる。標語、映画、図書館(それからスミレの花)、ソラモリさんが教えてくれた。台風のエピソードを経て、自分で作るキャッチコピー、海老フライという実践編を経て、田舎への帰省のためソラモリさんと離れた時間を挟んで、最後のレッスンに。「友よ、同志よ。また、会おう」という言葉を残してソラモリさんは去っていく。夏休みの終わり。新学期の始まり。
こんなにも素敵な夏休みがあればいい。この小さなお話は「最小限の、最大限の大事なこと」を襲えてくれた。ソラモリさんになりたい。