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映画・演劇のレビュー

『鳩のごとく蛇のごとく 斜陽』

2024-01-21 11:58:12 | 映画

公開時に見ようかどうかと悩んだ映画だけど、やめてよかった。これでは納得しない。太宰の小説の映画化は難しい。これは今から50年ほど前に増村保造監督が企画した映画の脚本(白坂依志夫と共同)を当時の助監督だった近藤明男監督が執念でようやく映画化した作品。

だが描かれるいろんなことがことごとく嘘くさい。きれいごとでしかない。だけど、作り手の想いは確かに伝わる。だからなんともかなり微妙な作品なのである。

もちろん言わずもがなの没落貴族の娘が戦後の時代を生き抜く覚悟を描いたお話。何不自由なく暮らしてきたお嬢さんが身分を奪われ生活に困窮し、先の見えない時代にたったひとりで立ち向かっていく。気力を失くして死を待つだけの母と戦場から帰還したがまるで何もできないダメ男の弟を抱えて、どう生きるのか。だが、強い意志で戦後をしたたかに生き抜くというのではない。上原という破滅型の流行作家の子供を身ごもり、出産する。彼を愛し、でも彼に寄り添うのではなく、彼と対等に生きる。このストーリー展開は難しい。

お話自体がやはりきれいごとでしかない。それに説得力を与えるには強烈な個性の発露しかない。上原(もちろん太宰だ、演じたのは安藤政信)の破滅的な生きざまと、それに惹かれてしまうかず子(新人の宮本茉由)のもっと破滅型な生き方。そこから生じるまさかのエネルギーを映画は描かなくてはならない。だけど、理屈じゃないからそこに説得力を与えるのはやはり難しい。丁寧には作られているけど、そこまで、である。これを増村ならどう描いたか。もちろん主人公は若尾文子が演じたはずだ。そちらも見たかった。


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